(自己防衛の例②―他人を攻撃する心)
もう一つは、自分を防衛する気持ちが、「他を攻撃する気持ち」に転化していく場合です。
これは、性格的に言えば、やや強気型、勝ち気型の人に多いと言えます。このタイプの人は、単に、「自分は被害を受けた」という消極的な態度ではなく、「あいつに、やられた」「あれが原因で失敗したのだから、あいつが悪い」などと考えます。
その結果、相手に対して、積極的に恨(うら)んだり、憎(にく)んだり、怒(おこ)ったり、仕返しをしたり、ねちねちと締(し)め上げたり、破滅(はめつ)するように祈(いの)ったりします。あるいは、ほかの人に相手の悪口を言うなど、さまざまな根回しをして、陥(おとしい)れようとしたりします。
世の中には、そういうタイプの人がいますが、こういう人は必ずしも悪人だとは言えません。なぜなら、そのような行動も自己防衛本能から派生(はせい)してくるものだからです。
強い力を持っていたり、念(ねん)が強かったり、体が強かったり、気が強かったり、能力が高かったりすると、他人を攻撃する傾向(けいこう)が出てくることがあるのです。必ずしも、そういう人がみな悪人であるわけではないのです。
やや性格が弱いタイプの人は、自分を護ろうとする自己弁護のほうに傾(かたむ)きますが、性格が強いタイプの人は、逆に、他人を攻撃するほうに傾き、人を責(せ)めます。
なぜなら、ほかの誰かが犯人になれば、自分の罪が“許される”からです。「あいつが悪い」ということにすれば、「社長が悪いのだ」と言えば済みますし、国のレベルであれば、「首相が悪いのだ」と言えば、それまでのことです。
あるいは、子供の成績の問題であれば、「自分の子供の成績が伸びないのは、担任の教師の学力が低いからだ」「学校が使っているテキストが悪いからだ」という言い方もありますし、「通っている塾(じゅく)の先生の腕が悪いからだ」という言い方もあるでしょう。
しかし、同じ塾に通っていても、違う結果が出る人がいることを、本当は知っているはずです。つまり、その塾のなかで、希望する中学や高校、大学に合格する人もいれば、落ちる人もいるわけですが、自分の子供が落ちたら、塾を批判(ひはん)し、合格したら、塾の先生を神様のようにほめ上げるのです。
ただ、そういう人は別に悪人ではありません。「普通の人」「ただの人」です。それは普通の心境であり、たいていの場合、そうなるのです。
要するに、「自分の子供は、あの塾に通って、あの先生に教わったから、落ちたんだ」と言って、その塾や、そこで教えていた先生を攻撃したり、その塾の悪い評判(ひょうばん)を外に広めたりし、攻撃的で自分を護ろうとする人がいるわけです。
逆に、内にこもるタイプの場合には、家庭のなかの責任になり、「子供の出来が悪かった」と考えて子供のほうを責めたり、「母親である自分が、昔、それほど勉強ができなかったために、子供の出来が悪いのだ」「父親の出来が悪かったからだ」「父親が仕事で家を離(はな)れていたからだ」「家にお金がなかったからだ」などという言い方をしたりすることもあります。
このように、不幸の説明を、内側に求める場合と外側に求める場合の両方がありますが、いずれの場合も、原因をグーッと絞っていくと、「自己防衛の気持ち」という一点に辿(たど)り着くはずです。
どうか、「自己防衛の気持ちが働いていないか」ということを、よく考えていただきたいのです。おそらく、そういう気持ちがあるだろうと思います。
実は、それこそが、みなさんを悲しませたり苦しませたりしている本当の原因なのです。
---owari---
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