夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

衆院選「左派の野党共闘は、後退していない。メディアに騙されてはいけない」

2021-11-12 11:14:07 | 政治
衆院選の比例代表得票数の前回との比較

 今回の衆院選では、メディアは野党共闘の敗北を強調している。確かに、選挙の結果は、与党で議席過半数を大きく超え、改憲派の維新を加えれば衆院では改憲発議に必要な3分の2を上回っており、前回に続き、立憲を中心とした野党の敗北と言うのは間違いないことだ。しかし、前回よりも、この野党勢力が後退したのかと言えば、事実はそうではない。

 僅かだが前進はあった
 上記の表で明らかなように、野党共闘に参加した4党の合計は、政党の支持状況をより表す比例代表得票数で、2百万票以上増加しており、総議席数でも41増えているのである。また、共闘の成果が出る選挙区議席数も4党は、39から59議席と増加しているのである。立憲は選挙区で18から57議席と39議席増加し、比例区得票数でも前回衆院選よりも40万票増え、2019年の参院選比例区得票数791万票から見ても、300万票あまり増えているのである。4野党の中では共産党だけが票を減らしているだけである。それは、共産党に近づいたから立憲が票を減らしたという主張が、完全に事実に反していることを表している。これらの結果を見れば、より正確な表現は、野党共闘は勝利とは言えないが、僅かだが前進はあったと評されるべきである。
 
 このような評価をメディアがしない理由は、立憲が公示前の109議席から後退したことを取り上げていることが大きいが、それは、そもそも前回の衆院選で立憲として当選したのではない議員がこの109議席に含まれているからである。その多くは、前回は希望の党から出馬し、合流・離散後に立憲に加わった者たちである。端的に言えば、立憲は他からの寄せ集めで109人になったのであり、有権者によって選ばれたのは前回衆院選の55議席であり、109議席は名目だけで、その力があったのではない、と言うべきなのである。
 
 このような野党共闘が敗北という評価をメディアがするのは、善意にとれば、期待どおりの成果をあげられず、無念だったからとも言えるが、実際にはそうではないだろう。そこには、野党共闘が自公の政権側にとって脅威なので、それを破壊したいという政権側への忖度がにじみ出ている。しかし、より深い意味では、それだけではない。そこには、メディアも評論する学者も、そして政治勢力側にも、日本独自の欠落しているものがあるからなのである。それは、政治勢力の基本的立ち位置を表す、政治的左右という概念の欠落である。

 政治的左右とは
  アメリカのバーニー・サンダースが左派だという見方を否定する者はいない。それは、サンダースがアメリカの貧困層の医療、教育、賃金等の状況の改善要求を社会に突き付けている、つまり社会的不平等や不公平を許さない立場を政治的基本に置いているからである。(サンダース自身も、自分の主張が過激extremeであるとの見方を否定するが、自身が左派leftであることも社会主義者であることも否定したことは一度もない。)このように、何よりも社会的平等・公平性を求めることを優先することを基本的立ち位置にしているものが左派なのである。そして、現状維持(国語的意味での保守)や、経済活動の自由、その他の価値を平等よりも優先する政治的立場が右派なのである。勿論、それは相対的なのものである。その政治的区分の概念によって、アメリカでは、民主党が共和党より相対的には「左」であり、民主党の中でもサンダース等が左派と呼ばれるのである。社会主義者は左派であるが、左派のすべてが社会主義者ではないのである。
 
 この政治的区分に基づいて、ドイツSPDは中道左派、CDU/CSUは中道右派、英国労働党は左派、保守党は右派というように、海外では区分されている。さらに小党も英国自民党は中道右派というように、概ねその基本的立ち位置を区分けしている。日本のメディアも海外の政党にはそのような区分をしているが、それは海外メディアがそのように表現しているので、そっくりまねているだけである。その区分では、日本の自民党は右派なのだが、(保守という言葉は見られても)そういう表現はメディアは決してしない。日本のメディアが左右の区分を使うのは、極右の「右翼」、極左の「極左暴力集団、過激派」、共産党や過去の社会党に「左翼」というぐらいで、それ以外の政治勢力に対しては、左右という概念を放棄している。そのことが、旧民主党や民進党、希望の党といった政党の基本的立ち位置がどのようなものであるのかを見えなくしているのである。
 
 今回、野党共闘の合意した政策の中では、「憲法に基づく政治の回復 」「格差と貧困を是正する 」などを挙げているが、経済成長などの言葉はない。つまり、民主主義と平等を基軸に置いており、明白な左派の立場である。それに対して、自民党の重点政策には、感染症問題を除けば、「中間層を再構築」「成長産業」「活発な経済活動」「経済安全保障、国防力」「改憲」という言葉が並ぶ。また、国民民主党も「積極財政で経済対策」「人づくりに力」などであり、これらは典型的な右派の主張である。立憲への合流元の希望の党は、長く自民党に在籍していた小池百合子の作り上げた、言わば「私党」であり、右派に属する。また、維新は「八策」で、「減税、規制改革」「成長戦略」「労働市場・社会保障制度改革」と挙げているように、右派の立場に立っているのは、言うまでもない。(因みに、公明党は、宗教集団に有利かどうかが唯一の政策基盤であるので、左右の区別に入らない。)
 
 このように、日本で1%以上の得票率がある政党で、左派は、今のところ、4党だけであり、その他は、中道右派から極右までの差はあるとしても、すべて右派に属する。ここで留意すべきは、過去の民主党が中道右派と中道左派の寄せ集めだったことである。当然、左右両派は基本的立ち位置が異なるので、政権をとったところで、右往左往し、政権は崩壊し、政党も分解したのが、歴然とした事実である。民主党にいた中道右派の一部の議員が、自民党に入党した者もいるが、それはむしろ自然なことである。言ってみれば、過去の民主党とは、ドイツSPDとCDU/CSUが、英国保守党と労働党がいっしょにいたようなもので、当然のことながら、分裂するのである。立憲は、中道左派の政党として(当の本人たちが、それを意識していないとしても、客観的には)基本的立ち位置をはっきりさせたのである。
 過去の希望の党は中道右派であり、中道左派の立憲と同じものと見るのはまったくの見当違いである。その右派と左派が合体していた衆院選公示前の109議席は、単なる見かけ上の数字であり、立憲の真の国民の支持は、前回衆院選の55議席、参院選の比例区得票数791万票止まりだったのである。したがって、立憲の衰退を判断できるのは、それとの比較の方なのである。

 野党共闘の課題
 勿論、立憲を含め、野党共闘の課題は、中道右派政党に投票した人びとや棄権する人びとに、自分たちの主張を浸透させ、支持を獲得することである。確かに、その意味では、今回は成功したとは言えない。自公政権に反発しながらも、どの政党がよりましなのか、多くの人びとは迷い、少なくない人びとが(比例区得票で言えば、800万人が)維新に投票したという事実は、重くのしかかっている。
 その直接的要因は、維新の松井、吉村、橋下の三羽がらすが、4野党指導者より、恐らく100倍はテレビに出ていたからである(若年層では、枝野の顔はまったく知られていないが、吉村、橋下は知られている。)また、自民党は「新しい資本主義」や「新自由主義からの転換」と、実際には、そんな気はさらさらないのだが、メディア受けする言葉を並べ立てて、支持者の減少を食い止るのに成功した。それに対して、立憲は、やたらオカタイだけのテレビCMに象徴されるように、メディア対策は貧弱と言うしかない。
 
 野党共闘は失敗という自公維とメディアの攻勢の中で、立憲は今後どう進むのか、今のところ、不明である。野党共闘から離れ、過去の「栄光」を復興と、民主党の再建、つまり左右の合体した曖昧中道路線を選択するのかもしれない。しかし、その時は、メディアは失敗を懲りていないと酷評するだろうし、多くの人びとは、失望するほかはない。
 

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