私の家は時計屋でしたが、お店の天井には父が製作した模型飛行機が幾つも吊り下げてありました。
ロウソクの炎で炙って曲げた竹ヒゴにロウでコーティングした紙を張り、ゴム動力で飛ばす模型飛行機の他に、軽いバルサ材を使った全長1mを超える大きな模型飛行機までいろいろありました。
小さい頃の私はお店の天井を見上げるのが大好きでした。
お正月には、父の作った模型飛行機を抱えて、父と一緒に飛行機を飛ばしに出かけたものです。
目の前に田んぼが広がる一段高くなった土手の上に立ち、空に向けて飛行機を放ちます。
手を離れた飛行機は、青い空に吸い込まれるように高く揚がり、ゴムの力がなくなるとゆっくりと頭を上下させながら風に乗る様に舞い降りてきます。
時には上昇気流を捉えて見えなくなるくらいに高く、遠くまで飛んで行き、回収できない飛行機もありました。
まだ小さかった私は、父の真似をして模型飛行機を作りますが、なかなか父の飛行機みたいによく飛ぶものはできませんでした。
そんな私に父は、「重心」とか「抵抗」とか「揚力」といった難しい言葉を使って飛行機の飛ぶ原理を説明しました。
理解できない話を聞いたところで、よく飛ぶ飛行機はなかなかできあがりませんでした。
父はきっと『物事の本質を捉える事の大切さ』を、まだ小さかった私に伝えたかったんだと思います。
それは今の私にとっても難しい事ですが、できる限り深く考察し、できる限り丁寧に物事を進めることを心掛けています。
それが父が私に教えてくれた事だと思っています。