クナッパーツブッシュの「神々の黄昏」1951年バイロイト・ライヴである。
改めて述べるまでもなく、カルショー&ウィルキンソンの黄金コンビでによって録音されながらも長らく日の目を見なかったものだ。
その幻と言われた「リング」全曲のうちの「神々の黄昏」が英テスタメントからCDとしてリリースされたのは1999年。
その後、しばらくしてアナログ盤としてもリリースされた(正確な日付は失念)。
このレコードはどうしようもなく素晴らしい。
スタジオ録音では聴くことの出来ない感興豊かなクナッパーツブッシュの指揮ぶりを、超優秀な録音によって生々しく体験できるからである。
残る「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」のテープは、デッカの倉庫に残っていないということだが、わたしの命のあるうちに発見されることを願ってやまない。
ところで、数年前、この幻の「神々の黄昏」に英デッカのテスト・プレスがオークションに出品されていたので、思い切って落札した。
ただし、全曲ではなく、片面ずつの7枚。
恐らくは、全6枚12面が完成形であるから、5面分が欠落していることになる。
序幕はまったくなし。
あるのは、第1幕は1面分のみ、第2幕はコンプリートながら、第3幕ははじめの2面半のみとなる。
これは、どういうことかというと、「夜明け」「ジークフリートのラインへの旅」「ジークフリートの葬送行進曲(その大部分)」「ブリュンヒルデの自己犠牲」といった、
単独でも聴かれるような聴きどころのナンバーが含まれないことを意味する(当然ながら、面の切り方はデッカとテスタメントでは一致しない)。
誰かが、そこだけ保管して、残りを放出したのか?
とも想像してみたりしたが、あながちそうとも言えない。
この7枚にはインナースリーヴに通し番号が1から7まで振ってあり、それが写真の4枚目の「4」と一致する。
ということは、少なくとも、このテスト盤の前オーナーはこの7枚をセットとして保有していたと可能性が高い。
また、正確に言うなら、「ジークフリートの葬送行進曲」ははじめの数小節だけは入っている。
音楽がここから爆発するぞ、という手前で第7面が終わるのだ。
この切り方から、これは仮のテスト盤だったということも考えられるが、切りやすい場所がここしかなかった、とも考えられる。
或いは、前オーナーが、誰かと山分けをして、その残り・・・、ということも有り得なくはないけれど、
仮にそうだとしても、それを入手できる見込みは限りなくゼロに近いだろう。
しかし、どこかには存在していて欲しい。
さて、その音であるが・・・。
悪いわけはない。
同年に収録された「パルジファル」の英デッカ・オリジナル盤のクオリティとほぼ同一と言ってよいだろう。
もちろん、古い盤ゆえ、バックグラウンドのノイズがあるなど、完璧な状態ではない。
しかし、やはり、「デッカの音」というメリットは大きい。
全曲でないのは残念ではあるが、この紛れもない英デッカの音と、ダイナミクス・レンジが広く、静寂性に優れた英テスタメント盤の音との両方を味わうことの出来るのは幸いなことである。
ああ、今宵も寝る時間が惜しい・・・。