ショスタコーヴィチ「ムツェンスクのマクベス夫人」
指揮: ケント・ナガノ
演出:アンジェリーナ・ニコノーワ
カテリーナ: カミラ・ニールンド
セルゲイ: ドミトリー・ゴロヴニン
ボリス: アレクサンダー・ロスラヴェッツ
ジノーヴィ: ヴィンセント・ヴォルフシュタイナー
ソニェートカ: マルタ・シヴィデルスカ
アクシーニャ: キャロル・ウィルソン
ハンブルク州立歌劇場で鑑賞した4公演のうち、強く印象に残ったのは、1月25日(水)と28日(土)の「ムツェンスクのマクベス夫人」である。このプロダクションを観られただけでも、ハンブルクを訪れた意味があった! 充実したキャストと読み替えなしの正統的な演出(ここ、とても大事!) - しかも、洗練されている ー によって、心よりの満足と興奮を味わった。
どのシーンも絵的に美しい。まさにこれだけでも第一級の芸術作品。そして、時折、背景に投影されるビデオの何と効果的だったことか、と思って、ニコノーワのプロフィールを調べてみたら、彼女は著名な映像作家でもあり、プロデューサーでもあることを知り、成る程と合点した。
歌手では、カテリーナの移ろう心情を圧倒的な声と芝居で表現し尽くしたカミラ・ニールンドに心を奪われた。その声を聴くだけで、カテリーナの寂しさ、心の飢え、愛欲、絶望が胸に響いてくる。この公演後4日経つのに未だに我が胸に余韻が燻っているほどだ。
セルゲイ役のドミトリー・ゴロヴニンも、このどうしようもない男の性を、輝かしくもヤクザな声で歌いきった。立ち居振る舞い、顔つき、全てがセルゲイであった。
また、セルゲイが心を移すソニェートカ役、マルタ・シヴィデルスカは、ポーランドの若きメゾ・ソプラノ(と言っても年齢は知らないが・・)で、その美しさと深く豊かな声で、聴衆の心を掴んだ。そして、ストッキングをねだったり、履いたりするとき、また、セルゲイと抱き合うときに見せた生足の美しいこと! また、この見せ方(演出)が心憎い。
ところで、アクシーニャ役はどこかで観た姿と思ったら、ヤンソンスによるネーデルランド・オペラのDVD (ライヴ)でも歌っていたキャロル・ウィルソン。はまり役なのだろう。今回は衣服を剥がされるような暴力的な演出でなく、ホッとした。
この優れたプロダクションは、「音による心理描写にかけて、ショスタコーヴィチはモーツァルト以後最高のオペラ作曲家ではないか?」
を改めて思わせてくれた。
「ムツェンスクのマクベス夫人」がスターリンの不興を買ったことで、以後、ショスタコーヴィチにオペラを書く機会の生まれなかったことは、大きな損失だった。でなければ、5年後、10年後にどんな大傑作が生まれていたことか!