今宵のコンサートに立ち会えたことは本当によかった。まさに稀有の体験であった。
日本人であるボクが言うのも、誠におこがましい話だが、大野和士ほど日本人の指揮であることを忘れさせてはくれる人は居ない。
まず、歌心。
こんなに伸びやかに、しなやかに、美しく歌う指揮というのは有るようでなかなかない。それに卓越したリズム感やら、計算され尽くした造形美があるのだから鬼に金棒である。
しかし、何より大野和士が日本人離れしていると思わせたのは、その生み出された音楽の多層性、多様性ではなかろうか?
弦、木管、金管、打楽器、コーラスが渾然一体となりながらも、それぞれの声部、パートにそれぞれの味わいがありながら、全体としての統一も取れている、という点が素晴らしいのだ。
さらに、ただ耳がよいとか、棒が起用だとかに留まらない魂の躍動。止むに止まれぬ舞台人としての衝動を内に秘めている。
これこそ、表現者として、もっとも大事なことであり、それを目の当たりにし、客席にて高揚感を共有できたことは、幸せであった。
フランス国立リヨン歌劇場管のメンバーの個々の実力も素晴らしく、洗練され、色彩感に溢れながら、温もりのあるサウンドに酔いしれた。
コンサートのチケット代金は、S席で13,000円! ウィーンやベルリンのオーケストラのおよそ3分の1というリーズナブルな価格で、これだけ充実したプログラム、優れた演奏を味わえるのであるから、ひとつのコンサート通いの楽しみ方として、「敢えて、超メジャーは狙わない」という道もあるな、とも思った次第。
アンコールは、フォーレ「ペレアスとメリザンド」から終曲「シチルアーノ」とビゼー「アルルの女」から「ファランドール」。
その静と動、夢と躍動の対比がまた心憎いばかりであった。
この写真は、休憩時間から第二部開幕を告げる鐘。電子音やブザーに較べ、各段に趣味が良くて、気に入っている。