福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

新星ルカ・オクロス オランダ・デビュー・リサイタル

2018-06-05 11:00:23 | コンサート


順序は前後するが、6月3日(日)の午後にはコンセルトヘボウ小ホールにて、ルカ・オクロスのピアノ・リサイタルを聴いた。トビリシ生まれの26歳。ワールド・ツアーの一環で、この日がオランダへのデビューだ。

オクロスへの予備知識は全くなかった。ただ他に予定がなにもなかったので出掛けてみたところ、思わぬ豊穣が待ち受けていたというわけだ。いやあ、本当に幸せな時間だった。

シューベルト:4つの即興曲D.899

ショパン: バラード第4番

ラフマニノフ: 6つの楽興の時op.16

リスト: ハンガリー狂詩曲第2番

少なくとも、ショパンを除く3つの作品をもって、第16回ルービンシュタイン国際ピアノ・コンクールに臨んだことが、同コンクールのYouTube動画サイトにて確認できる。オクロスにとっても、研鑽を積んだ自信のあるプログラムというかことになろう。残念なことに、ファイナリストには残れなかったようだが、その演奏は人々の記憶に残り、世界的にファンが急増したとのこと。一見、華奢な体躯。嵐の二宮和也にも似た「はにかみ」が、女性ファンの心を掴むのかも知れない。

オクロスは、各作品の演奏前、ピアノ椅子に腰掛けたまま、作曲家のこと、作品のこと、或いは作品への想いを語る。
例えば、シューベルトに於いては、彼の短い生涯の晩年の作品であること、尊敬するベートーヴェンが亡くなって大きな悲しみに襲われていたこと、ここに聴かれる軽さや明るさは、シューベルトにとっての仮面であること。
また、ラフマニノフに於いては、オクロスが、6曲それぞれに「思い出」「愛」「大きな喪失」「勝利」など(我が記憶力が悪く、あと2つを思い出せないのが無念)など、名付けている、など。



シューベルトでは、まず音色の美しさに惹かれた。そして、オクロスの眼差しは、シューベルトの死への恐怖、生への執着、夢への逃避などに向かい、見せ掛けの演奏効果など一切眼中にない。特に明と暗、その狭間を行き来する第1番、感傷なき美しい夢である第3番の演奏が印象に残った。
コンクールの動画も十二分な名演だが、あれから1年経ち、その音楽は益々深化していた。いまは、こんなものではない。
(Luka Okrosで検索できるので、是非とも視聴してみて欲しい)



シューベルトで内面的な演奏を繰り広げたオクロスも、リストのハンガリー狂詩曲では、超絶的なヴィルトゥオジティを披露し、聴衆を湧かせた。内だけでなく外にも、幅広い音楽性を抱いているところが、オクロスの魅力でもある。

今現在、日本でどれほどの知名度があるのか分からないけれど、今後、人気の沸騰するような気もする。今、ここに聴けたことは大きな歓びである。


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