本日は、ベルリン国立歌劇場ウンター・デン・リンデンにて、バレンボイム指揮による「トリスタンとイゾルデ」のプレミエ。
トリスタン :アンドレアス・シャーガー
マルケ王:ルネ・パーぺ
イゾルデ: アニヤ・カンペ
クルヴェナール:ボアズ・ダニエル
ブランゲーネ: ヴィオレッタ・ウルマーナ etc.
贅沢なキャストを眺めただけで、興奮してくるが、本日の声の饗宴には、ただただ圧倒され通しであった。
アンドレアス・シャーガーといえば、東京春祭でのジークフリートの破天荒さが記憶に新しいが、本公演でも一体どこから沸いてくるのか? という無尽蔵の声には呆れるばかり。ジークフリートの記憶が強烈すぎて、トリスタンを歌っているのに「恐れを知らない男」に見えてきてしまうのが難点といえば難点か(笑)。
ヴィオレッタ・ウルマーナも深々とした情感でもってブランゲーネの憂愁を歌いきり、ボアズ・ダニエルのクルヴェナール、ルネ・パーぺのマルケ王にも一分の隙もない。
そして、何と言っても素晴らしかったのが、アニヤ・カンペによるイゾルデ。オーケストラを軽々と超える力強く、伸びやかな声。気高い精神性を湛えた存在感。
ただただ、平伏すのみ。
バレンボイムの指揮も素晴らしいものだった。7年前にウィーンで聴いたブルックナー「8番」は、どこか巨匠ぶった指揮と意味もなく立派な音楽づくりに辟易したものだが、今宵のオーケストラは雄弁にして繊細。バレンボイム特有のオイリーで粘りある弦の歌に、ホルンやバス・クラリネットの思い切った強奏が効果的。愛の躊躇い、不安、歓喜など、トリスタンとイゾルデの心の移ろいが見事に音にされていた。
演出については、愚痴や不満ばかりになるので、多くは語らないでおこう。第1幕で、トリスタンを運ぶ船が、まるで豪華なクルーズ船のようである、という一事をもって興醒めも甚だしい。ワーグナーのサウンドにマッチしていないことに気付かないのだろうか?
なお、この歌劇場の音響は素晴らしく、内装も含め建物としての魅力も大。ベルリン・ドイツ・オペラの遥か上をいくものであると感じた。