庭の蚊柱

 家の狭い庭には、蚊が大量発生している。洗濯物を干しに出たりすると、二酸化炭素のにおいだか熱だかを探知して、草むらに隠れていた数十匹の蚊がいっせいに湧き立ち、足の周りを飛び回る。よっぽど飢えているらしく、気づかれないようにそうっと止まってこっそり血を吸うなどの余裕はなくて、大きな蚊が、ぼんぼんとせわしなく足に体当たりしてくる。5匹、6匹が一度に足に止まりに来るから、手で叩いていたのでは埒が明かない。そこで、洗濯物はいったん置いて、「蚊キャッチャー」なるものを家の中へ取りに戻る。蚊キャッチャーとは、ボタンを押すと弱い電流の流れるラケット形の蚊取り器で、これを庭で振り回すと、面白いほど蚊が取れる。普段、動物愛護まがいのことを言ってるけれど、蚊に対しては、そういう気持ちは微塵くらいしか持っておらず、さらに、最近は猫のフィラリアが増えているという話も聞き、大義名分得たとばかり、可愛いみゆちゃんのため、ますますラケットを振り回す。そうして、庭の蚊がほぼ一掃されてから、落ち着いて洗濯物を干す。
 そうやって、毎日大量に蚊を取っても、次の日にはやっぱり同じかそれ以上ほどの蚊が湧いている。家にボウフラの湧きそうな場所といえば金魚鉢とメダカの鉢だが、どちらも蚊が卵を産みつけてもすぐに魚たちが食べてしまうだろうから、おそらく近所の庭に小さな池でもあって、そこでボウフラが湧き、うちにやってくるのだろう、迷惑な話だと思っていたら、ある日、いつのまにか親メダカがいなくなっていて、子メダカだけではとても食べられそうもない大きなボウフラがうようよと泳いでいるのを見つけた。
 結局のところ、近所迷惑は我が家であったわけで、少しでも他家へ蚊の害が及ばぬよう、ますますラケットを振っている。
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