大文字五山の送り火

 日中、京都市の気温は38.6度まで上がり、今年一番の猛暑日となった。日が落ちてからも、外はまだずいぶんと暑い。にもかかわらず、空が薄紫に色付く頃、早くも五山の送り火を見ようと繰り出した人々が、うちわ片手に京の街を歩いて行く。
 五山とは、「大文字」「妙・法」「船形」「左大文字」「鳥居形」。今年は「法」の山のそばで、精霊を送る火を見た。
 午後8時。五山の先頭を切って「大」という炎の文字が、東山に浮かび上がった。午後8時10分、「妙」と「法」が同時に燃え上がる。それに続いて、15分には「船形」と「左大文字」が、20分には「鳥居形」が、京都盆地を囲うように、煌々とした姿を闇に現した。
 山のそばで見ると、字を形作る橙色の炎の一つ一つが夜空に向って揺らめく様や、松明からもうもうと出る煙までが見え、迫力がある。
 前に一度、街の中心部にあるマンションに住む友人の招きで、その屋上から、遠く送り火を眺めたことがある。確か、鳥居を除くすべての山が見えた。夜の街を囲む屏風のような黒い山々に点々と火の文字が浮かび上がって、この京の街全体を舞台にした伝統行事の、スケールの大きさがよくわかった。五山一望は、それぞれの山のそばで見るのとはまた違った魅力がある。
 夏の夜を照らす炎は、30分のあいだ燃える。やがて、松明の火は衰えて、オレンジ色の炎は、小さくなっていく。消えていく火とともに夏が終わってしまうようで、いつもさびしい気持ちになる。五山の送り火が終わってしばらくすると、日暮れに秋を思わせるような涼しい風が、さっと吹く。
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