庭のオハグロトンボ

 町の中であるにもかかわらず、鴨川や御所が近いせいか、我が家の小さな庭には、意外と多くの種類の虫がやってくる。夏の初め、山椒の木に卵を産みに来た大きなアゲハチョウや、巣をめぐって、人間と作る、作らせないの一悶着が起きるアシナガバチ、よく金魚の鉢に落っこちてしまうカナブンの類などについては、以前書いたけれど、そのほかにも、アリに擬態したアリグモや、草むらに潜むオンブバッタ、最近では、シジミチョウやオハグロトンボがよく飛んでくる。
 おなじトンボでも、青々とした田んぼの上を滑空するシオカラトンボや、青空をすいすいと飛び交うアキアカネなどとは違って、オハグロトンボは、ひっそりと日陰にいることが多い。実家の庭にもよく見かけたけれど、たいてい、竹やぶの光と影が格子縞になったところや、裏庭のつくばいの周りの湿っぽい場所をとりとめなく飛んでいた。
4枚の控えめな黒い羽を交互にうごかして、木の葉陰の、明暗錯綜する静的な景色をひらひらと舞って行く。薄緑色の羊歯の葉に止まれば、黒く透き通った羽を、開いたり閉じたりしている。
 そんな静かなトンボだから、ある日庭にやって来た二匹のオハグロトンボを、見る側も声をひそめ、息をひそめて、眺めていたら、庭に出たみゆちゃんが、あっというまにトンボを捕まえてしまった。優雅でやさしげなうごきしかできないオハグロトンボは、猫の格好の獲物だった。あとで庭に降りてみたら、もう一匹のトンボも、無残に羽があらぬ方向を向いて、地面に落ちて死んでいた。
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