ハチの隠れ家

 いつも夏の初めの頃に、アシナガバチが飛んできて家の軒下に巣を作ろうとするのを、まだ巣が小さいうちに私が取ってしまい、またハチが別の場所に作るのを私が取るといういたちごっこがしばらく続くのだけれど、七月になって、梁のうしろの見えないところに作った巣を見逃していたことに気がついた。
 一匹で作り始めた巣が相当大きくなって、すでに9匹もの家族になっていた。ハチの巣の各部屋には、幼虫もたくさん入っていただろうけれど、普段通る庭のすぐ上に大きなハチの巣があるというのは少し怖いから、気の毒だけれど、大人のハチを忌避剤で追い払って、巣を取って捨ててしまった。
 巣がなくなったから、みんなどこかへ飛んでいってしまうだろうと思っていたら、意外にも家族の結束と、場所への執着が強くて、すぐ近くの壁に9匹がかたまってとまっている。これからどうしようかと家族会議を開いているかのようだ。
 しばらくしたらいなくなるかと思ったらその逆で、次の日にはさっそくあたらしい巣を作り始めていた。またそれも取ったけれど、やっぱり同じようなところで9匹がいつまでもうろうろして、次の日には小さな巣を作っている。そんなことを繰り返して、やがてハチの姿が見えなくなったので、ようやくどこかへ行ったものと思っていた。
 ときどき、庭にハチの姿を見ても、よそから飛んできたのだろうとあまり気にかけなかったのだけれど、ある日、一匹のハチが、余った人工芝を巻いて置いてある、その巻き始めが緩んでできた隙間の中へ入っていくのを見た。
 まさかと思って、人工芝の巻いてある隙間を、したからそっと除いてみたら、そこに大きなハチの巣が出来て、大人のハチが、巣の表面でせっせと働いていた。
 一本取られたと思った。狡猾にも私の目をあざむいて、見事に復興を成し遂げたハチの巣を、また忌避剤を撒いて取る気にはなれなかった。もう夏も終わりである。巣を取るのは、秋が来て風が寒くなって、ハチたちが自然に姿を消してからにしようと思う。
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