讀賣新聞オンライン(三重県のローカルニュース)から引用
「危険運転最大限の罰を」 遺族が交通捜査員らに講演
赤信号を無視した車にはねられ、娘を亡くした東京都の税理士、波多野暁生さん(46)が6月13日、津市の県警察学校で講演し、「悪質な運転には法律で定められている最大限の罰を与えることが、最大の被害者支援になる」と訴えた。交通捜査に携わる警察官や検察官ら約100人が聴講した。危険運転致死傷罪の見直しに向けた機運が高まるなか、遺族の声は届くか――。(小林加央、松岡樹)
2020年3月、波多野さんは東京都葛飾区で、小学5年だった娘の耀子さん(当時11歳)と横断歩道を渡っていた。赤信号を無視して突っ込んできた軽トラックにはねられ、2人とも病院に運ばれた。波多野さんは重傷を負い、耀子さんは死亡した。
美容院から帰る途中で、自宅から約300メートルの場所だった。「娘を連れて行かなければ……」。今でも後悔と自責の念を抱えていると語った。
軽トラックを運転していた男は現行犯逮捕され、過失運転致死傷容疑で送検された。波多野さんは、赤信号を無視するという危険な行為は「過失」などというものではない、と納得できなかった。
波多野さんは、同種の裁判事例を探し、東京地検に「危険運転」の適用を何度も訴えた。その結果、罪名が危険運転致死傷罪に変更されて起訴された。事故から約2年が過ぎた22年3月、男は懲役6年6月の実刑判決を受けた。
「捜査の実務が伴わないと、法律は『お飾り』になる」。波多野さんはそう強調し、証拠を的確に集め、危険運転が認められた過去の事例を共有してほしいと訴えた。
娘の命が奪われた経緯を説明するとき、波多野さんは「交通事故」でなく「事件」という言葉を使う。危険運転は悪質な犯罪行為だと強調したいからだ。講演会の後、報道陣に「一般的に危険だと考えられている運転が(裁判では)必ずしも危険運転だと認められていない。おかしいと声を上げることが、『事件』を体験した私のできること」と語った。
時速146キロ、4人死亡でも「過失」
条文見直し求める声も
適用見送り多く
2018年、津市で4人が死亡した事故で大破したタクシー
大幅な速度超過が原因で起きた死亡事故でも、法定刑の軽い「過失運転」と判断されるケースが各地で相次いでいる。危険運転致死傷罪の条文には「時速何キロ以上」といった明確な線引きはない。事故の被害者遺族からは、見直しを求める声が上がっている。
津市の国道23号で2018年、時速146キロで走行していた乗用車が、道路を横切ろうとしたタクシーに衝突し、4人が死亡する事故が起きた。
津地検は、乗用車を運転していた元会社社長を危険運転致死傷罪で起訴したが、津地裁は「過失運転」と判断した。控訴審の名古屋高裁も「常識的に見て、危険な運転」とした上で、法的には「単なる高速度ではなく、制御困難な高速度であること」を立証する必要があるとし、地裁判決を支持した。
宇都宮市では23年、法定速度を100キロ以上超えた車がバイクに追突、バイクの男性は死亡した。この事故も「過失運転」として起訴され、遺族らが危険運転の適用を求めている。
法務省は危険運転致死傷罪の改正も視野に、今春から有識者による検討会を開いている。
津市の事故で長男の 朗あきら さん(当時31歳)を亡くした大西まゆみさん(64)も、法務省の会合で意見を述べた。県警察学校で13日に開かれた講演会にも参加し、報道陣の取材に「(現行の法律は)社会通念から本当にかけ離れている」と話していた。
※危険運転致死傷罪 2001年に新設され、危険な運転や、正常な運転が困難な状態での走行で死傷事故を起こした場合に適用される。法定刑の上限は懲役20年で、懲役7年の過失運転致死傷罪より重い。適用には、過失ではなく故意であることなどを立証する必要がある。