東京大手町にある銀行の大きなエントランスにて、企業向けのプライベートコンサートが開催された。大阪フィルハーモニーの弦楽器トップ奏者たちによる室内楽曲を集めたミニコンサートである。1階フロアの大きなガラス張りのある開放的な場所。天井も吹き抜けで高く独特の空間だったが、ここに椅子を楽器奏者を囲むように並べて、本当に真近で生の弦楽器を味わうというものだ。
もちろん企画構成は、コンサートマスターである崔文洙氏であり(おそらく)、モーツァルトに始まり、本気の情熱的な演奏を披露したドヴォルザークまで、息つく間もなく素晴らしい弦楽器の世界を鑑賞したが、今回は、途中崔氏のMCも加わり、会場は和やかな雰囲気に包まれた。客層を感じた崔氏のアレンジだろうが、楽器の音色の特徴を個々に解説して見せたり、楽曲の聴きどころを自ら我々に話してみせ、大変興味を掻き立てられたのである。アントンKのような部外者を含めて、この手の音楽からは中々ご縁がなかったが、演奏中の聴衆たちは、弦楽器の音色の奥深さに酔いしれ、その響きを味わっていたようだ。
演奏中ちょうど夕闇がせまり、大きな窓から見える景色が暗く、街の灯りを感じるようになったが、アントンKは、そんな大都会の近代的なビルとともに鑑賞した美しい弦の響きが絶妙にマッチしてしまい、いつもホールで聴く音楽とは違う感動を味わった。3曲構成だったが、何と言っても最後に演奏されたドヴォルザークが絶品。例によって崔氏の艶やかな音色は益々響き渡ったが、今回は他4人にも崔氏から発せられる「気」が飛び火しており、音楽が一つの塊になって我々に押し寄せてきた。大きなオーケストラで聴くのとは違う、まとまった凝縮感を感じた想い。あの深い想いの込められた響きの世界は、生演奏だからこそ感じられること。その響きが心に栄養を与えるのだろう。
アンコールも2曲。ここでも崔氏の采配が光る。オケではまずあり得ない「美空ひばり」の演奏だった。それも弦楽五重奏にアレンジした超絶妙な大曲だったのだ。これにはアントンKも恐れ入ったが、より音楽を身近に感じて頂きたいという大フィル奏者たちの心意気が素晴らしい。誰だって音楽は自分の心の中にあり、本来音楽とは、音を楽しむものなのだから・・・
大阪フィルハーモニー交響楽団「室内楽の愉しみ」in Tokyo
モーツァルト ディヴェルティメント ヘ長調 K138
E.モリコーネ ニュー・シネマ・パラダイス
ドヴォルザーク 弦楽五重奏曲 ト長調 OP77
アンコール
「川の流れのように」
「愛の賛歌」
1st 崔 文洙
2st 宮田英恵
Vla 木下雄介
Vc 諸岡拓見
Bs サイモン・ポレジャエフ
2018年5月21日 ライジング・スクエア1階・アース・ガーデン