新日本フィルの定演「トパーズ」公演へ行ってきた。
今回の指揮者フィリップ・ヘレヴェッヘは、ピリオド奏法の第一人者として世界で活躍ている指揮者の一人だ。音楽とともに精神医学も学んだ学者らしいが、ちょうど同じような指揮者のジュゼッペ・シノーポリを思い出してしまう。自分でオーケストラを立ち上げたり、オリジナル楽器に拘り、いわゆるピリオド奏法での演奏が話題になった。もちろん、この種の指揮者には、ガーディナー、ノリントンなどいて録音も多いから、昔からピリオド奏法による演奏はアントンKも聴いていた。もちろんヘレヴェッヘのCD録音もブルックナーを中心に持っていたが、どうも響き自体が肌に合わず、どちらかと言えば敬遠していた演奏だった。ただいつも聴いている新日本フィルが、ヘレヴェッヘの指揮のもと、どんなに響きが変わるのか大変興味があり、今回はそこを聴きたくて出向いた訳だ。
結論から言うとヘレヴェッヘの演奏は、今までの録音での先入観を吹き飛ばすくらい、大変素晴らしい演奏だと感じたのだ。もちろんオケの配置が対抗式と呼ばれる配置になっていて、それだけでもいつもの音色とは相違が明らかだが、楽曲に共通して言えることは、どれも響きがすっきりしていて細部が明瞭であり、スケールは大きくないが各声部のいつもだったら聴こえてこない旋律が浮かび上がり、新たな発見が多発する状況だった。
メインのプログラム、シューマンの第2交響曲というと、どうしてもアントンKには、昔のビデオが蘇ってしまう。それはバーンスタインの「最後のメッセージ」というビデオで、晩年のバーンスタインが、まだ若い音楽家のオーケストラにこのシューマンの第2を指導する内容だったように思う。このビデオ、正確にはレーザーディスクだが繰り返し聴いていたお陰で、楽曲の隅々まで記憶してしまったが、バーンスタインの演奏解釈までも焼き付いてしまったため、今回の演奏との対比がとても面白く聴けたのだった。方や究極のロマン派演奏とも言えるバーンスタインだが、スケルツォの第2楽章については、どちらも難解で演奏が大変だろうと思わされた。弦楽器群の奮闘ぶりには驚愕したが、指揮者の要求に無心で食いついていき、全員合奏での響きの広がりはとても美しく感じた。これは、コンマスの崔氏を中心とした弦楽器奏者たちの努力の賜物なのだろう。いつも以上に底力を感じてしまったが、アントンKも本音を言うと、やはり従来の奏法でも鑑賞してみたかったと考えてしまうのだ。邦人オイストラフだと思っている崔文洙氏の音色で、特に第3楽章は聴きたかったと思ってしまうのだ。どこかアントンKには、自らいつもの艶や雄弁さを極力抑えて、演奏していたように思えてならなかった。
新日本フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会「トパーズ」
メンデルスゾーン 序曲「フィンガルの洞窟」 OP26
シューマン ピアノ協奏曲 イ短調 OP54
シューマン 交響曲第2番 ハ長調 OP61
(アンコール)
シューマン トロイメライ
指揮 フィリップ・ヘレヴェッヘ
ピアノ 仲道 郁代
コンマス 崔 文洙
2019年5月31日 すみだトリフォニーホール