今のお若い鉄チャンと接していて、一番可哀そうに思えることの一つは、昔日常の生活シーンにあったツリカケ式の電車を感じられないことだ。今考えれば、超がつくほど個性あふれる電車たちが全国に走っていて、鉄道趣味の原点とも言える「想い入れ」とか、「こだわり」が満載の車両たちがずっと身近にいたのである。
アントンKにとって、最初に国電(国鉄の電車)で釣り掛け式を意識したのは、横浜線や南武線の73系電車や、中央線の山スカと呼ばれた70系電車だったが、実はもっと幼少の時期から意識していた電車があった。生まれ育った杉並沿線を走っていた、京王帝都電鉄の井の頭線のデハ1800形やデハ1900形がそれに当たる。独特のサウンドは、新型のカルダン制御の電車(デハ3000形)よりも重厚で個性豊か。窓を開け放した時のジョイント音とモーター音は、とても心地よかった想いが蘇ってくる。こんな経験から、きっと電車が好きになったとも言えるのかもしれない。
鉄道撮影を趣味としてからは、飯田線、身延線の戦前型の旧国電、御殿場線を走っていたスカ色の73系、両毛、吾妻線の旧国も大変馴染みがあり懐かしく思い出される。時代の流れに逆らうことなく、鉄道の世界も益々個性が薄れてしまい、趣味的見地からは魅力に感じる車両が減ってしまったことは残念だが、新しい感覚で現代車両に魅力を感じ楽しんでいる若い鉄チャンを見かけると、羨ましくもあり複雑な心境になってしまうこともまた事実であり、そんな刺激を貰って、自分なりの魅力を発掘しようと日頃勤しんでいる訳だ。今回の掲載写真は、大糸線の旧型国電。スカイブルーの鮮やかな塗色が景色にマッチしていて、当時からとても美しく感じていた。雪を頂いたアルペンを背後にやってきたのは、原型窓の美しいクモハ60099。力行時の釣り掛け音が忘れられない。
1979-02-16 240M クモハ60099 大糸線:信濃常盤-安曇沓掛