高校に入っても
すぐに運動部には属さなかった僕
一年間は帰宅部でバイトに明け暮れた。
2年になって同じクラスのS藤くんと仲良くなり、
ずんぐりむっくりの彼は
モロに柔道部体型。
その頃
柔道部の存続の危機だった。
部員数減少で来年新人が
四人入らなかったら
廃部になる
そんか窮地にたたされていた。
学校創立以来
歴史ある柔道部
過去には栄光ある
成績もあげて
部として誇りある
立派な部であった
それも
女子生徒の数の増加で
男子生徒の減少による
部員数自然減での
存続の危機に…
言わずと知れた
その環境下に
僕に、こんな僕に
声がかかったのだ…
中学の頃
ヘルニアをやって
水泳部も二年間はマネージャーを
していたくらい
運動から遠ざかっていた。
もともと運動するのは嫌いじゃなかったけど
今思えば
あの時
友達のS藤くんからの
入部への懇願を断らずに
入部したのが何かの縁だったのか
何故、柔道をやろうと思ったのか
不思議だどいえば不思議
プロレス、格闘技好きなのはあった
喧嘩といっても
殴り合いとかは
しなかった
でも
体がウズウズして
エネルギーが
溢れていたし、
暴力的に、何かに発散しないと
内なるエネルギーが
暴発しかねない
そんな時期だったこともある
自分を感じていた事もあった。
発散できる何か…
そのひとつに…
誘われた
柔道だったのかもしれない
「在籍してるだけで、
参加しなくていいよ」
なんて甘い言葉で誘われたから
気軽い気持ちで
二つ返事で
やることに
入部することにした
先輩二人、強面の二人に
挨拶して
見学だけをしていた。
籍だけおいといて
また、帰宅部にすればいい
なんて思っていたのも
束の間
なんと、
バリバリの先生が柔道部に
顧問としてついたのだ
その日から
僕は柔道着を買わされ
あれよあれよと
練習に参加させられ
こんなはずじゃぁ無かったけど…
とそれから
憂鬱な日々が始まるのだった
学校にいくのが憂鬱で
ホントに
今の世の中だったら
引きこもりになる原因に
充分値するくらい
辛い毎日だった
望んで入部してない
部活
予期せぬ展開で心と身体が
ついていってないまま
新人レベルを克服するための
ハードトレーニングを僕は
課せられ
他のメンバー、先輩も含め
今まで
チンタラチンタラ練習していた
その柔道部が一変。
新しく顧問についた先生からは
県大会出場の旗印を掲げられて
急に厳しいトレーニングが
おっ始められたのだから
経験してる人達も面食らってるのに
(僕はそれ以上
大変な所に来てしまった
あゝ逃げ出したい
逃げたい)と思う
毎日だった。
当時流行っていた
シャネルズの
ランナウェイは
僕らのテーマ曲でもあった
武道場へは2階への階段を
使って上がる
その足取りは重く
柔道部
剣道部
卓球部
が武道場で
部活をしていた。
階段を一歩一歩登りながら
♪ランナウェイ〜ィ
とても好きさぁ (ランナウェイ〜)
連れていってあげるよぉ
二人だけの遠い世界へぇ〜
お前を抱いて
ランナウェイ〜
柔道だけに
締め落とされると
遠い世界へ連れていかれる
お前を抱いて…
組みつかれて
試合、乱取りをする
正しく替え歌のような
笑えるようで
笑えない
激闘の日々が続いた
今日こそは…
今日だめだと思ったら…
辞めよう…
逃げよう…
そうやって心に思いながら
一歩一歩階段を上がっていく
まるで死刑台へ登る13階段のように
足取りは重く…
練習は過酷極まるハイペース
一年かけて覚えるものも
体力的なことも
全て短い時間でレベルアップさせる
詰め込み式の毎日だから
ハードもハード
勉強もその頃の記憶も
柔道部での辛い厳しい日々の
事しか
残っていない。
あの生地の厚い柔道着の
肘あたりは
血で滲み
畳に肘を立て
ほふく前進を
なん往復もくりかえす
血が出て、かさぶたになり
また、かさぶたが破れ
血が滲み出る
それを繰り返し
受け身の練習では
バンバン
畳の上に投げ飛ばされ
…(こんなはずじゃあ、無かったけど)
(いっ痛え〜)
汗臭くなった
柔道着、あの分厚い道着が汗で湿っている
大量の汗を吸っている
まさしく、
これが
「血と、涙と、汗の、世界、!!」
あの時
それを味わった
僕の柔道部活の練習だった
それでも
逃げずになんとか
食い下がって
3年になるまで
ほぼ9ヶ月で黒帯を取ってしまった。
2年生から誘われて入った柔道部
顧問が「全員黒帯で県大会に出るぞ!」の旗印を掲げ
またそれをやってのけた
もちろん僕は白帯からスタート
S藤くんは茶帯だった。
それも
なんとかみんな黒帯をとって
ここ数年予選一回で敗退してた
我が校が県大会に出場した。
県大会では
初戦で敗れはしたけれど
とても大きな成長と僕らの中の
自信として
残っている。
あんなに嫌だった練習
いつ辞めよう
いつ逃げ出そう
そればかり考えてた日々
誘われて入ったんだから
そこまでやる必要もなかったわけだし、辞めようと思えば
逃げ出そうと思えば
出来たはず。
でも
そうしなかったのは
僕の中の
今更辞めれない
と粘る気持ちと
仲間を置いて逃げ出せない
という気持ちが
あったと思う
決してモテる部活ではない
柔道部
汗臭くて
ガニ股にはなってしまったし
猫背になるし
シャネルの香水でもつけなきゃ
男の子臭い
汗臭く
部室
ランナウェイ
を歌いながら
逃げ出すことを
夢見ながら
結局
そのまま
在籍したまま
高校卒業した
僕
中途半端な僕が
逃げ出さずやり切った
部活
血と涙と汗のスポ根物語。