松田聖子さんが
ポスト山口百恵と言われて
注目されていくまで
女子は
髪型や仕草、そして、
山口百恵ファンとしての
自覚みたいな、
プライドみたいな
そんな雰囲気を持っていた
女子が多かった。
ファッションリーダー的な、
オピニオンリーダーというと
大袈裟だけれど…
確かに1980年くらいまで
百恵さんが引退するまで
影響力は多分にあった。
身の回りの人を見ても
山口百恵っぽい格好、髪型、喋り方
憧れの人に近づきたいと思うのは
男子も、女子も同じ。
トシくんの一個上のねぇさん
まぁちゃんもそんな山口百恵っぽい髪型、考え方?雰囲気をもっていた。
「さよならの向こう側」という歌が出たのが1980年8月21日にリリースされて
その後、この歌のタイトルが
重く僕の心にも影を落としていたことがあった。
多分その年の冬に差し掛かるころのことだったと思う。
いつものように
トシくんの家に寄った僕は
玄関上がって左手の部屋を覗くと
早い時は
トシくんの親父さんが仕事から帰っていて、晩酌をしてる時があった。
「おー、〇〇〇!飲んでいくか?」
なんとも、未成年にビールを勧める親父さん。
僕も細かいことは抜きにして
駆けつけいっぱいとばかりに
親父さんに酌をしてビールをいただきながらよく、トシくんの帰りを待ったりしたものだし、
早い時は
トシくんの部屋で漫画よんだり、レコード聞いたり、して何しろトシくんの家に入り込んでいた。
家族の一員のように…
その日は
玄関上がって左手の居間に
まぁちゃんが紅いトレーナーをきてスェットのズボンを履いて
ドヨーンとしてテレビを見ていた
もう、まぁちゃんは卒業して勤めに出ていた。
「あれ?まぁちゃんどうしたの?今日休み?」
「あ、〇〇〇、お帰り、会社休んじゃった」
「なになに!元気ないじゃん、どうしたの?風邪?」
「うん、うん、ちょっとね…」
まぁちゃんは居間でビール飲みながらつけっぱなしのTVを遠い目で見てるようで見てない感じで
ちびちびビールを飲んでいた。
何かそれ以上僕も、踏み込んだ事聞くのも失礼かなぁと、思い、
言葉なく、二階のトシくんの部屋へ上がって行った。
そのあと30分ほどしてから
一本あとの電車でトシくんが帰ってきた。
部屋で待つ僕はトシくんに開口一番、「ねぇ、まぁちゃんどうしたの?元気ないね」
「あ、〇〇〇、知らんかったっけ?まぁちゃんな、彼氏にふられよった。」
「え!あ、そ、そうなの…」
結婚の約束までしていた4年くらいの付き合いの彼氏さんと別れた
という。
もう、トシくんは膝を割って話を聞いてこの事はトシくんの家の中では一件落着してることになってる。
いわば、まぁちゃんの心の傷が時間がたって癒えていくのを待つ
というスタンスになってたようだ
それにしても
凄い落ち込み様で
僕は心配になっていたが
トシくんからは
まぁちゃんのことはほっとけばいいよと、
トシくんとまぁちゃんは双子のような感じでお互いよく理解してる姉弟だった。それに5個上の
S美ねぇちゃんはその二人を
うまく包み込む感じで
いいきょうだいだなぁと憧れていた。
僕もそんな姉弟をみて
お姉ちゃんが欲しくてたまらなかった。
お姉ちゃんをきょうだいにもつ同級生はどこか
女性に対する免疫があるのか
余裕があるように見えた
僕なんかは
なぜか余裕がなく、ドキマギしていたし、わちゃわちゃしていた。
いわゆる、女性免疫がなかったんだね。
必要以上に関わらない距離感を持つのが上手なんだね。
そんな僕もトシくんのところで
二人の姉さんに免疫つけてもらって
話し方や、僕の考え方を直されたり、そうして、姉さんのように思えたし、むこうもトシくんと同様
弟として可愛がってくれた。
次の日もいつものように
トシくんのところへ寄ってみると
まぁちゃんがまた、居間にいた。
僕はまぁちゃんに声をかけた
「まぁちゃん、大丈夫?」
「うん、大丈夫。」
「なに?ふられちゃったの?」
僕は切り込んでいった。
「うん。トシから聞いた?」
「うん、昨日聞いた、なんか、…」
言葉がつづかなかった。
「まぁねぇ…仕方ないわ、時間かかるけど、ふぬけみたいで
だらしなくていけないけど…」
「まぁちゃんいつもキラキラしてたし、明るかったのに、でも、仕方ないよね」
まぁちゃんも部屋にこもってることもできたのだろうけど
僕や、トシくんが帰ってくる頃、居間に降りてきて
みんなの帰りを待ってる風だった。
人と話す、人と会うことは
傷ついた心を少しは癒すことのできる時間だったのかもしれない
僕は、たぶん生まれて初めて
女性がふられて、落ち込んでる、やつれてる姿を目の当たりにした経験をその時
したのだと思う。
どうすることもできないくらい
かける言葉も見当たらなく、
冗談のひとつも言えず
ただ、立ち尽くすのみだった。
一個上のまぁちゃんだけど僕との年齢、距離感は10歳上くらいの遠い人のように感じた。
それだけ、まぁちゃんは大人だった。深い考え方、まだ、僕なんか大人の入り口にもたってない
子供だった。
あの時一緒の時間、空気を吸って
気持ちに寄り添ってる雰囲気でしか
思いやりのある行動ができなかった僕は、不器用で頼りない自分をこれでもかと知ることになった。
女性とつきあったことがない僕は
女性の気持ちに沿った言葉とか
かけれるわけもなく、
ただ、
「元気だしてよ、いつものまぁちゃんに早く戻って」っていうことしか
できなかった。
さよならの向こう側…
そこに待ってたのは
新しく生まれ変わろうと
脱皮する前の
美しい蝶のようだった
女性 まぁちゃんだった。