今日は営業職希望者の面接をするために予定時刻の10時前から事務所で待っていたのだが、見事に背負い投げを食わされてしまった。
先週の金曜日にハローワークから連絡があって白石何某41歳が営業職の募集に応募したいと連絡があった。先方の都合の良い時間に経歴書と紹介状を持参の上で来社して欲しいと言ったところ、火曜日の10時にということで先方が時間を決めたのである。
こうしたことはこれまでにもしばしばあったが、ハローワークも一方的に紹介するだけで、後の結果や求職者の行動については極めて無責任である。
白石何某は複数の紹介を受けていて、先に面接したところで採用が決定したか、或いは失業保険を貰う手続き上の求職活動を装っていたということだろう。
営業職の採用は人選が一番むずかしいのである。兎に角、就職だけして安くても給料をせしめようとする人間が多いのである。以前、会社にいたダーマスこと増田氏は隣町の建材商社で10年の営業経験があるということで採用した。
ところがダーマスは事務所の机に座ってばかりいて一向に外出しようとしない。挙句の果てに煙草銭を1000円貸してくれなどという。
彼は建材商社を不始末があって退職した後にネットフェンスの組立などの仕事を短期間であるが自営していたために失業保険の受給資格が無かった。しかも、自営していた商売は赤字で生活資金も底をついていたのである。
ダーマスは入社すると同時に社長から15万円を前借して月々5万円を返済すると約束したそうだ。入社して一ヶ月が経過した頃になって社長から私のところへダーマスの面倒をみるようにとのお達しがあった。
そこで、どんな相手先へ営業をかけているのか詳しく問い質したのであるが、一向に要領を得ない話ばかりであった。つまり、営業しようにも軽自動車のガソリン代にも事欠く有様でほとんど動いていなかったらしい。
私は直ぐに営業日報を作って、毎日の訪問先と商談の内容を書かせることにした。
この頃、事務所の下の倉庫に保管してあった発電機用のガソリンタンクが空になっていたという騒ぎがあった。ガソリンはその後も二回ほど霧散したが、ダーマスが自分の軽乗用車の燃料にしたものと見てほぼ間違いはなかろう。霧散したガソリンは合計で120リットルほど、金額にして1万7~8000円くらいだろうか。
ダーマスの営業日報によると、朝一番に焼津市の自宅から御前崎市の建築会社を訪問し、次に藤枝市、焼津市、静岡市などの建設会社を7~8社回ったことになっていた。
自動車の走行距離は100キロメートルほどになっていた。私はダーマスに注意を与えた。一日に7~8社を訪問するだけで走行距離が100キロメートル以上は異状である。会社によっては門前払いで1分もかからないこともあるだろう。
もっと効率よく、今日は藤枝市、今日は焼津市と訪問範囲を決めて短い走行距離で多くの会社を訪問するようにしたらどうか。
翌日からは訪問先が急に20社ほどになったのだが相変わらず営業の成果はなかった。二ヶ月目も結局は何の成果もないままに過ぎた。
三ヶ月目に入った初めに私の知り合いの会社へ連れて行って事情を話したら、先方の社長が工事担当の常務を紹介してくれて10万円ほどの簡単な足場工事を発注してくれた。
しかし、相手の常務は打ち合わせは素人のダーマスでは駄目だから、仕事の解かる人に来て欲しいといった。ダーマスは解かったようなことを言っていたが、全てはハッタリで、実は足場工事のことなどほとんど経験がなかったようだ。
間もなく試用期間の3ヶ月が経とうとしたとき、ダーマスが17万円ほどの壁の洗浄工事を受注してきた。その工場は私も知っていた工場で、壁の汚れ方も分かっていた。
私が簡単には落ちそうも無い汚れだが大丈夫だろうか、と、心配すると、ダーマスは血相を変えて、変な心配はご無用だ、強力な洗剤も用意してあると豪語した。
さて、話が決まれば後は仕事をして代金を貰うだけである。
足場の材料を積み込み、現地に運んで組み立てた。強力な洗剤とやらを噴霧器で満遍なく降りかけておいて、高圧洗浄器で洗い流すのであるが、肝心の汚れは一向に落ちない。壁の材料の中まで汚れが染み込んでいたのである。
そこで、ブラシを掛けたり、束子で擦ったりしたのだが、ついに汚れは落ちなかったのである。
残った問題は代金の請求である。先方は、汚れが落ちて綺麗になるからというから頼んだのだという。こちらは、10人近い鳶職人が作業しているのだから約束の代金は欲しいのだ。
営業のダーマスは相手の工場長にやり込められてすごすごと退散してきた。
堪忍袋の緒が切れたのは社長である。ダーマスは3ヶ月間で60万円ほどの基本給を受け取り、最後に17万円の未収入金を置き土産にして試用期間の満了をもって本採用を見送られた。
代金は私が先方と交渉して30パーセントの5万円ほどを回収して残りは諦めた。
ダーマスが辞めてから一ヶ月ほどしてから会社へ一本の電話があった。
増田さんはおいでになりますか。
増田はもう辞めましたというと、実は増田さんに2万円ほどのお金を貸したままになっている。お宅の会社の名刺の裏に借用証文を書いてあるから電話をかけたという。
私は貴方様を存じ上げないが、私どもの会社の信用で増田へお金を貸したのでしょうか、と、訊くと、そうではなくて、増田氏の生家の近所の小母さんが静岡へ嫁にきているのだという。ガソリン代が足りないので明日返しに来るからといって借りて行ったらしい。
そういうのを所謂「寸借詐欺」というのだから遠慮なく警察へ届けてください、と、いうと、いやいや警察沙汰なんかとんでもないということで話は終わった。今日のお話はこれまで。乞う次回!!。
先週の金曜日にハローワークから連絡があって白石何某41歳が営業職の募集に応募したいと連絡があった。先方の都合の良い時間に経歴書と紹介状を持参の上で来社して欲しいと言ったところ、火曜日の10時にということで先方が時間を決めたのである。
こうしたことはこれまでにもしばしばあったが、ハローワークも一方的に紹介するだけで、後の結果や求職者の行動については極めて無責任である。
白石何某は複数の紹介を受けていて、先に面接したところで採用が決定したか、或いは失業保険を貰う手続き上の求職活動を装っていたということだろう。
営業職の採用は人選が一番むずかしいのである。兎に角、就職だけして安くても給料をせしめようとする人間が多いのである。以前、会社にいたダーマスこと増田氏は隣町の建材商社で10年の営業経験があるということで採用した。
ところがダーマスは事務所の机に座ってばかりいて一向に外出しようとしない。挙句の果てに煙草銭を1000円貸してくれなどという。
彼は建材商社を不始末があって退職した後にネットフェンスの組立などの仕事を短期間であるが自営していたために失業保険の受給資格が無かった。しかも、自営していた商売は赤字で生活資金も底をついていたのである。
ダーマスは入社すると同時に社長から15万円を前借して月々5万円を返済すると約束したそうだ。入社して一ヶ月が経過した頃になって社長から私のところへダーマスの面倒をみるようにとのお達しがあった。
そこで、どんな相手先へ営業をかけているのか詳しく問い質したのであるが、一向に要領を得ない話ばかりであった。つまり、営業しようにも軽自動車のガソリン代にも事欠く有様でほとんど動いていなかったらしい。
私は直ぐに営業日報を作って、毎日の訪問先と商談の内容を書かせることにした。
この頃、事務所の下の倉庫に保管してあった発電機用のガソリンタンクが空になっていたという騒ぎがあった。ガソリンはその後も二回ほど霧散したが、ダーマスが自分の軽乗用車の燃料にしたものと見てほぼ間違いはなかろう。霧散したガソリンは合計で120リットルほど、金額にして1万7~8000円くらいだろうか。
ダーマスの営業日報によると、朝一番に焼津市の自宅から御前崎市の建築会社を訪問し、次に藤枝市、焼津市、静岡市などの建設会社を7~8社回ったことになっていた。
自動車の走行距離は100キロメートルほどになっていた。私はダーマスに注意を与えた。一日に7~8社を訪問するだけで走行距離が100キロメートル以上は異状である。会社によっては門前払いで1分もかからないこともあるだろう。
もっと効率よく、今日は藤枝市、今日は焼津市と訪問範囲を決めて短い走行距離で多くの会社を訪問するようにしたらどうか。
翌日からは訪問先が急に20社ほどになったのだが相変わらず営業の成果はなかった。二ヶ月目も結局は何の成果もないままに過ぎた。
三ヶ月目に入った初めに私の知り合いの会社へ連れて行って事情を話したら、先方の社長が工事担当の常務を紹介してくれて10万円ほどの簡単な足場工事を発注してくれた。
しかし、相手の常務は打ち合わせは素人のダーマスでは駄目だから、仕事の解かる人に来て欲しいといった。ダーマスは解かったようなことを言っていたが、全てはハッタリで、実は足場工事のことなどほとんど経験がなかったようだ。
間もなく試用期間の3ヶ月が経とうとしたとき、ダーマスが17万円ほどの壁の洗浄工事を受注してきた。その工場は私も知っていた工場で、壁の汚れ方も分かっていた。
私が簡単には落ちそうも無い汚れだが大丈夫だろうか、と、心配すると、ダーマスは血相を変えて、変な心配はご無用だ、強力な洗剤も用意してあると豪語した。
さて、話が決まれば後は仕事をして代金を貰うだけである。
足場の材料を積み込み、現地に運んで組み立てた。強力な洗剤とやらを噴霧器で満遍なく降りかけておいて、高圧洗浄器で洗い流すのであるが、肝心の汚れは一向に落ちない。壁の材料の中まで汚れが染み込んでいたのである。
そこで、ブラシを掛けたり、束子で擦ったりしたのだが、ついに汚れは落ちなかったのである。
残った問題は代金の請求である。先方は、汚れが落ちて綺麗になるからというから頼んだのだという。こちらは、10人近い鳶職人が作業しているのだから約束の代金は欲しいのだ。
営業のダーマスは相手の工場長にやり込められてすごすごと退散してきた。
堪忍袋の緒が切れたのは社長である。ダーマスは3ヶ月間で60万円ほどの基本給を受け取り、最後に17万円の未収入金を置き土産にして試用期間の満了をもって本採用を見送られた。
代金は私が先方と交渉して30パーセントの5万円ほどを回収して残りは諦めた。
ダーマスが辞めてから一ヶ月ほどしてから会社へ一本の電話があった。
増田さんはおいでになりますか。
増田はもう辞めましたというと、実は増田さんに2万円ほどのお金を貸したままになっている。お宅の会社の名刺の裏に借用証文を書いてあるから電話をかけたという。
私は貴方様を存じ上げないが、私どもの会社の信用で増田へお金を貸したのでしょうか、と、訊くと、そうではなくて、増田氏の生家の近所の小母さんが静岡へ嫁にきているのだという。ガソリン代が足りないので明日返しに来るからといって借りて行ったらしい。
そういうのを所謂「寸借詐欺」というのだから遠慮なく警察へ届けてください、と、いうと、いやいや警察沙汰なんかとんでもないということで話は終わった。今日のお話はこれまで。乞う次回!!。