本は、何日か前に購入していたのですが、最後まで読み進めるまでに時を要しました。なぜなら、主人公:楊令の死で終わりそうな予感がしたからです。替天行道の志のもと、亡くなっていった英雄たちが求めた、理想の国の形をつくりあげていった 梁山泊頭領の死を 認めたくなかったからなのかもしれません。
最終巻では、共に志をもって戦い続けた英雄たちが、数多く亡くなっていきます。一人一人の最期が、楊令の最期に結びついていくような感じがしました。
金との交渉を続ける宣賛との会話の中で、楊令は思い定めます。
替天行道の思想は、いまいまでにない新しいものを求めることで、その根底に民という意 識があればいい。
自由市場と 物流の流れをつくることで、国という形にとらわれない、国の支配の枠を超えた、民が民の力で豊かに生きることのできる社会の実現が、楊令の求める 志を形にした理想だったのではないかと思います。
それでも、その志を形にするために、多くの命が犠牲になったことに 頭領としての 楊令は、自分を責めます。
なにが替天行道なのだ、と思う。志を、失うことなく抱き続けた人間を死なせて、なにが頭領なのだ。
死を前にして、武松は思います。
ひとりで、ただ志のために動く。志が光を持ったわけではなく、それが生き方だったからだ。
武松にとって、志の先にあるのが、楊令の求める国でもあり、自分の生き方でもあったのです。
花飛麟は、死に際に 楊令に語りかけます。
「見たかったです。俺たちが、作りあげる 新しいものを」
「おまえの心の中には、すでにあるはずだ、花飛麟」
「そうですね。光が見えます」
「俺も、光が見えているだけだよ、花飛麟」
「そのむこうに、なにが、あるのでしょうね」
言った花飛麟の上体を、楊令は抱いた。
「どこまでも、光さ。俺は、そう思っている。」
「どこまでも、ですか?」
「だから、追うのは、愚かなのかもしれん。」
「俺は嬉しかったですよ、追えて」
花飛麟は、かすかに笑い 、遠くをみるような眼をして 旅立っていきます。
そして、楊令も ……
この物語の続きは、楊令が最期の戦いの相手として 選んだ 岳飛を 中心とした物語に受け継がれていくようです。楊令の志も一緒に……。
果たして 自分のよってたつところの 志とは なんなのか。志をもって 生きることの大切さと共に その問いに どう答えていくのか という課題を 与えられたような気がしています。
水滸伝から楊令伝へと読み進める中で、私の心の中に 存在感をもって、替天行道の志をもって 光の中を生きた 梁山泊に集った 英雄たちが 生きているような気がします。
改めて、作者:北方謙三氏に 感謝です。 やっぱり、本はいいですね。
楊令伝の余韻をかみしめながら、次は岳飛伝を読んでみたいと思います。