昨日は、仙台演劇鑑賞会の8月例会に出かけてきました。これまでの会場とは異なり、市民会館の地下にある小劇場での鑑賞でした。より身近で演技に接することができると期待を持ちました。会場に入るなり驚いたのは、座席の案内をしてくれたのが劇団のメンバーだということでした。事前に観客との生のふれあいを大切にする姿勢に好感を持ちました。
素劇(すげき)という手法は、劇団1980の演出家:関矢幸雄さんが提唱する独自の表現様式で、リアルな部台装置や衣装・メイキャップなどを一切排除し、観客の想像力を喚起することによって物語の真意(ドラマ)を表現していく方法です。この作品では、21個の黒箱と数本の白いロープ、俳優の肉体そのものが、舞台装置となって展開していきました。また、物語の主人公が歌手:佐藤千夜子(さとうちやこ)であるため、当時の流行歌50曲あまりが歌われるのですが、歌はすべてアカペラで、口三味線の伴奏で歌われました。さらに、108名もの登場人物を、俳優17名で演じるという内容でした。
斬新な舞台演出のもと、歌手:佐藤千夜子の一生を描く形で、ストーリーは展開していきます。1897年(明治30年)に山形県天童市で妾の子として生まれた千代は、通弁士(通訳)になるために14才で上京するのですが、やがて日本のレコード歌手第1号として活躍する歌手になります。名前を千代から千夜子と変え、大人気を博した絶頂の時期を迎えます。しかしやがてクラシックの歌手を目指しイタリアに渡るのですが、夢破れ帰国の途につきます。かっての人気は取り戻せず、戦後は歌手の道から足を洗い、さまざまな職業を転々としながら1968年(昭和43年)に、ガンのため71才の生涯を閉じます。
劇のタイトルとなっている東京行進曲は、1929年(昭和4年)に、菊池寛原作の小説「東京行進曲」が映画化された際に、その主題歌として佐藤千夜子が歌い大ヒットし、レコードは25万枚も売れ、不動の人気を博した名曲でした。主人公:千夜子が一番輝いていた時期を象徴する曲でもありました。華やかな一生であると同時に、晩年は歌手ではなく佐藤千代という本来の自分に戻ってこの世を去ります。故郷の教会での讃美歌に心を惹かれ歌手の道を目指し、讃美歌に送られて旅立つというエンディングに、救いを感じました。
休憩なしの2時間余りの劇でしたが、コミカルな演技に笑いながらも、目が離せず、想像力をかきたてられ夢中になって見つめ続けました。17名の演技者が一体となった迫力とチームワーク。当時の流行歌が次々と歌われ著名な歌手や人物たちが登場し続けます。作曲家:中山晋平の歌にかける思い・その思いにこたえる千夜子。大衆に愛される民歌として、歌は受け入れられていきます。歌のもつ力とエネルギーを実感しました。時代を越えて歌は生き、心に在り続ける、そんな思いを強く感じました。
新たな演劇の魅力にふれることのできた、心に残る2時間でした。劇団:1980の他の演劇も是非観たいものだと思いました。