あの青い空のように

限りなく澄んだ青空は、憧れそのものです。

心に残る本 2冊

2019-05-21 10:22:44 | 日記
最近、2冊の感動した本に出合いました。

〇小杉健治 「生還」 集英社文庫
 24年前に妻を殺害した犯人とされるものの証拠不十分で不起訴となった人物Yが、24年後にはジャーナリスト殺害の犯人と
され逮捕されます。その弁護を担当する弁護士Tが、二つの事件の真相を追究する物語です。
 Yは、旅先で行方不明となった妻に会えるのではないかと願い、妻が見たいと言っていた郡上おどりを見に、毎年出かけます。
そして24年後に、そこで妻によく似た人物に出会います。しかし、そのことが遠因となって、ジャーナリスト殺人事件が起こり
その犯人としてYが逮捕されてしまいます。
 24年もの間、妻への思いを抱き続けてきたYは、自ら犯人であることを認める供述をします。その弁護を通して、Tは24年前の
事件の真相とそれとつながる24年後の殺人事件の真相を明らかにしていきます。
「生還」というタイトルがなぜ付いたのか。その理由が最後に明らかになり、深い感動を覚えます。
 二つの事件の真相を明らかにすることが、主人公のYとTにとって、生きることの意味や価値を新たに見出す「生還」のプロセス
でもあったのだと思います。

〇雫井脩介(しゅうすけ)「望み」 角川文庫
 行方不明になった高校生の息子が、遊び仲間であった友人が死体で発見されるという事件を通して、殺人犯の一人として疑われ
るようになります。
 それまで平穏だった四人家族(父・母・息子・娘)の信頼の絆が、この事件を契機に崩れていってしまいます。
 事件の真相が見えない状況の中で、行方不明となった息子の無実を信じる父と、犯人であったとしても息子の生存を祈る母。両親
の息子への交錯した思いが、この作品の「望み」というタイトルに結びついているのかもしれません。兄が殺人犯と見なされること
で自分の将来を不安視する妹の思い。そういった家族の思いが、時の経過の中で 心の痛みとして読者に伝わってきます。
 加害者(殺人犯)の家族として周りから見られることで、仕事や学校・親せきとの社会的関わりの中でも、家族は辛い状況に立たさ
れます。
 そして、真相が明らかになっていく中で、それまで家族であるのに見えなかった息子の悩みや学校での出来事、友達関係、息子の
将来への夢が明らかになっていきます。

 二つの作品とも 傑作ミステリーであり、最後まで読者を夢中にさせる作品だと思います。
 同時に、単に面白いだけではなく、家族や社会の在り方を問いかける構成ともなっていて、それが深い感動を引き出しているよう
な気がします。

 機会がありましたら、是非ご一読を!
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元気です

2019-05-17 13:57:19 | 日記
久しぶりのブログとなりました。
季節は、春から夏へと移り変わろうとしています。
長期の筆休みとなってしまいました。

先日のボランティアで、5/6付けの天声人語を取り上げ読み合わせをしました。

盲目のエッセイストの三宮麻由子さんを紹介する記事でした。
目が見えなくても、鳥の声や物音に聞き入ることで、三宮さんの心の中には、さまざまな景色や色がうかんでくるのだそうです。
「私にとっては声にも景色があり色がある。もっと正確に言うと、声そのものが景色であり色なのだ。」
筆者は、三宮さんのエッセイ『鳥が教えてくれた空』の上記の言葉を引用しながら、次のように書いています。
( 滝の水の流れる音、草原が風に揺れる音、松ぼっくりが落ちる音。自然が発する声に耳を傾けながら、風景を描いていく。
 三宮さんの文章には、視覚のみではつくりだせない奥行きがある。風の運んでくるさまざまな匂いも、そこに加わる。)
そして、インスタ映えを競うような 目から入ってくる情報ばかりに頼る現代社会を憂い、
( だからこそ、ときには立ち止まってみたい。咲く花の香りを求めたり、若い葉の手触りを試したりと。) と述べています。
春から夏への季節の移り変わりを 自然の発する声に耳を傾け、花の香りや若葉のみずみずしさを肌で感じながら味わうことが
できたら、三宮さんのように奥行きのある世界にふれることができるのかもしれません。

 『五月』という言葉から思い浮かぶのが、まどみちおさんの詩「空気」の次の一節です。
   ……
   五月
   ぼくの心が いま
   すきとおりそうに 清々しいのは
   見わたす青葉たちの 吐く空気が
   ぼくらに入り
   ぼくらを内側から
   緑にそめあげてくれているのだ
   ……
 新緑の美しい中にいると、その生命力と私たちに届けられる新鮮な空気が、私たち自身を内側から緑にそめあげてくれているような
感じがしてきます。
 目だけでなく、五官をフルに使いながら、美しい自然の移り変わりを味わっていきたいものです。
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