コウモリ(翼種目)は1100種を越える多様なグループである。ココウモリの仲間はエコローケーションの知覚能があり数百万もの巨大コロニーを形成して洞窟内で生息する。オオコウモリはエコローケーションを行わず、視覚を発達させているが、洞窟や樹間で生息する。
(オオコウモリ:ウィキペディア(Wikipedia)より引用転載)
コウモリが、ヒトを含めた他の哺乳動物へのウィルス感染源である事は、何度もこのブログで述べてきた。狂犬病、エボラ出血熱、SARS、MERSそれに今回のCOVID-19のSARS-CoV-2は、もともとコウモリ由来と考えらえている。ある種のインフルエンザウィルス(H18N11亜型)も、ヒラバナフルーツコウモリで同定されている。コウモリは、まさに感染性ウィルスの宝庫である。
コウモリは、何故、ウィルスを体内に保持して他の動物に感染させることができるのだろうか?カリフォルニアバークレー校のブルック教授は次のような実験を行った。
エジプトルーセットオオコウモリ(Rousettus aegyptiactus) とクロオオコウモリ(Pteropus alectos)の培養細胞に3種のウィルスを感染させた。比較として用いたアフリアカミドリザルの培養細胞は、短時間にウィルスにやられてしまったが、コウモリのは細胞からインターロイキンαが分泌されて感染防御が起こった。コウモリはインターフェロン経路というものを備えており、彼らがウィルス保有宿主(reservior)である大きな理由のようである。
ヒトはコウモリに比べて微生物ストレスの少ない清潔な環境にいるために、いったん体内に細菌やウィルスが侵入すると、免疫系が極端に働き、かえって不都合なことが起こる。たとえば侵入者を感知してインターフェロンが放出されるが、これが細胞のタンパク質合成の停止から感染細胞の死を誘発する。これは身体で炎症反応となって表れ、破壊的な作用を及ぼすことがある。ミイキンの論説によると、微生物だらけの環境に生息するコウモリでは、こういった過剰免疫反応は身体でおこらず、ウィルスとの共存路線をとっているらしい。
コウモリはねぐらで密集集団でくらす事が多く、そこではウィルスの伝播もはやい。彼らは唾液、飛沫、糞や尿を通じて、飛翔しながらウィルスをまき散し、周りのさまざな動物にこれを感染させる。最近は、人間による森林の乱開発で、コウモリと接触する機会が増えている。また民族によってはコウモリを捕らえて食材にしている。コウモリの密集性、飛翔性、比較的長寿の特色はヒトの都市生活、自動車と飛行機、寿命の長さという点で類似している。
コウモリのウィルスがヒトに感染する場合は媒介動物が介在するケースが多い。狂犬病ウィルスはイヌ、SARSはハクビシン(一説ではジャコウネコ)、MERSはラクダ、今回のCOVID-19はセンザンコウが媒介動物だと言われている。
SARSのウィルスは229E, NL63, OC43, HKU-1, Sars, Mers, Covid-19の7種が知られている。後の3つがエマージングウィルスとしてヒトにパンデミックを引き起こした。Sarsは2003年2月になって発生した。イタリア人のカルロ・ウルパーニ医師が最初の患者を発見しWHOに報告した。ウルパーニは4月、バンコクでの国際会議に出席したがsarsを発症しなくなった。
SARS-CoV-2は、全ゲノム比較の分子系統解析からはキクガシラコウモリのコロナウィルスに近いが、細胞レセプター(ACE2)に結合するスパイク蛋白の配列部分はセンザンコウのコロナウィルスに一致している。コウモリのコロナウィルスがセンザンコウに移り、そこで変異をかさねてものがヒトに感染した可能性がある。
媒介動物がセンザンコウとすればどこで、どのようにしてSARS-CoV-2がヒトに感染したかが問題になる。武漢海鮮市場説、それを含めた中国内2カ所説、さらに中国国外説もでているが、今のところ結論は出ていない。
日本の都市部では、アブラコウモリが普通にみられるコウモリである。これがどういったウィルスを保持しているかについての調査はまだない。
追記1)(2021/05/19)
ヒトでもウィルスに侵入された細胞は、それを周囲に知らせる警報物質インターフェロンを放出する。これは血流に乗って全身に広がり、食細胞に知らせる。食細胞は感染部位に集まってウィルスや感染細胞を丸呑みする。しかしコロナウィルスはこのインターフェロンの放出を抑える狡猾なメカニズムを備えている。ウィルスのORF3bという部位の遺伝子がこれに関係しておりこの部位が変異した物は重症化率が高いとされている。reの
追記(2022/03/04)
感染ウイルスは寄生者である。これの捕食者は免疫における白血球(T細胞、B細胞、樹状細胞、ファゴサイトなど)。生態系では捕食被食連鎖で調節しきれきれなかった集団(ポピュレション)をウイルス感染で減殺する仕組みがある。これはガイア的なホメオスタシスといえる。ただ宿主の方もやられっぱなしでは全滅の可能性が高いの、体内にウイルスを捕食する免疫のシステムを進化させた、寄生者と宿主との軍拡戦争は妥協がなければどちらかあるいは両方の絶滅にいたる。そこでなりたった妥協が共生である。たんなる共生ではウイルスの方に利があるので(偏利共生という)、宿主もなんとかこのウイルスを利用するようになった。
参考図書
小澤祥司『わかってきた感染・重症化メカニズムと治療薬への期待:新型コロナウィルス感染症(その2)』岩波科学vol.90、5月号 (2020)
山内一也 『ウィルスの世紀』(2020) みすず書房
S. メイキン 『コロナウィルスはどこから来たのか』日経サイエンス 2020/05月号 p37-39
K.G.Andersen et al. 、『The proximal origin of SARS-CoV-2』Nature Medicine volume 26, pages450–452(2020)
https://doi.org/10.1038/s41591-020-0820-9
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