人類において感染症のエピデミックやパンデミックがおき始めたのは、おそらく人々が集落を形成した以来のことと思える。それでは、本来、人はどれほどのサイズの集団でくらしていたのだろか?
英国ハーバード大学の人類学者Robin Ian MacDonald Dunbar(ダンバー)教授は、各種の霊長類の大脳新皮質 (neocortex)の大きさがその種における群れのサイズと相関することを発見した(論文1)。大脳新皮質は、群れの増大に伴う情報処理量の飛躍的な増加に対応して、大きくなってきたものと考えられたのである。それまでは、大脳新皮質の進化は生態的問題の解決能に関連していると考えられていた。
Dr Robin Ian MacDonald Dunbar
この関係式から計算されたヒト(人)の群れサイズは、約150人ぐらいとされた。ダンバーはまた、クリスマスカードの交換に基づいた西洋社会における平均的なソシアルユニットは、やはり150人ほどだとしている(論文2)。
ユヴアル・ノア・ハラリはその大著『サピエンス全史』において、噂話によってまとまっている集団の自然なサイズの上限を150人としている。この「魔法の数」を越えると、メンバーはお互いに人を親密に知る事も、それらの人について効果的に噂話をすることもないと述べている。この限界を越えるために、人類は神話という虚構が必要だったというのがハラリのご自慢な説である。
縄文時代の三内丸山遺跡で約5500年前に集落が形成されはじめた頃、住居の数は40-50棟で人口は約200人ぐらいだったそうだ。これもDunbarの150人仮説に近い。
このサイズが、感染症の抵抗性に関して最適なのかは、今後の研究が必要である。
論文と参考図書
1) RIM Dunbar:Neocortex size as a constraint on group size in primates. 3ournal of Human Evolution ( 1992) 20,469-493.
2) RA Hill and RIM Dunbar: Social Network size in humans. Human Nature (2003)14, 53–72.
亀田達也 『モラルの起源』岩波新書 1654 岩波書店 2017
追記(2024/10/25)
ルネ・デュボスはその著「人間への選択ー生物学的考察(紀伊国屋書店)」(p98)で「原始農耕以来、人類は主として血縁者で組織された小集団で生活しており50人を超えることはなかった」としている。150人は歴史時代になってからかもしれない。
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