京都楽蜂庵日記

ミニ里山の観察記録

Covid-19:特効薬は開発されたか?

2021年01月03日 | 環境と健康

Covid-19のパンデミック以来、これの特効薬探しがはじまり、聞き慣れない薬の名前が次々とマスコミに登場するようになった。その度に、sars-cov2をピタリと押さえ込む薬があれば、どんなに安心かと期待してきたが、はたして状況はどのようなものであろうか。

よく出て来るレムデシビルはアメリカの製薬会社 (ギリアド・サイエンシズ)が、エボラ出血熱治療のために開発を進めていた薬剤である。ウィルスの複製に関すRNAポリメラーゼを阻害する効果があり、これによりsars-cov2の増殖を抑え、症状を改善する効果が期待されていた。とくに、2020年2月に武漢の研究所から、培養した細胞でレムデシビルがsars-cov2の増殖を抑制したとする報告が医学雑誌に発表されたので注目を浴びた。日本では5月に、新型コロナウイルスの治療薬として初めて承認され、アメリカでも10月に正式に承認され、この薬はまさにcovid-19の特効薬として期待の星であった。

 ところが、11月20日にWHOは、世界各地の臨床試験を分析した結果、死亡率の低下、重症化(人工呼吸器の必要性)、それに症状の改善にかかる時間についてレムデシビルは重要な効果はなかったとし、「症状の軽い重いにかかわらず、入院患者への投与は勧められない」とする指針を公表した。この夢も希望も打ち砕くようなWHOの御宣託にたいして、ギリアド・サイエンシズ社は「患者が回復に至るまでの期間は短縮している」などと反論している。厚生労働省も「承認時に根拠にした治験のデータが否定されたわけではないうえ、有効性がないという結果でもないため、承認について見直す予定はない」という何度読んでも理解不能なコメントを出した。

 大半の患者はレムデシビルを5日で6回投与されるが、一人当たり総額で2340ドル(約25万円)もかかる。高額でそれほど有効と思えないこの治療薬に対してアメリカの消費者権利保護団体は抗議の声を上げている(日本と違って医療保険の自己負担分が半端でないから)。一方、これを使用している日本の医療機関の医師の一人は「レムデシビルの効果を実感してきた。命はお金より重いはずだ。ほかに特効薬が出るまでは、私たちとしては引き続き使っていく」と苦しそうに述べている。(NHK:新型コロナ特設サイト等の情報)。

 アビガン(ファビピラビル)は、富士フイルム富山化学が開発したインフルエンザ用の抗ウイルス薬である。レムデシビルと同様にウイルスRNAの合成を阻害する。安倍前首相が5月の記者会見で「日本にはアビガンがあるぞ」と鳴り物入りで宣伝したので有名になった。しかし12月21日、厚生労働省は、薬事・食品衛生審議会の専門部会を開き、アビガンをcovid-19の治療薬として承認するかを審議したが「有効性を明確に判断することは困難」だと判定し継続審議にしてしまった。富士フイルム富山化学が申請の根拠とした試験結果は、「症状の軽快かつウイルスの陰性化までの時間」が、ほんの少し短くなるという頼りないものであった。トランプ大統領が推奨し、みずからCovid-19の予防のために使っていた抗マラリア薬・ヒドロキシクロロキンも、本人が感染したために無効であることが証明された。またノーベル賞受賞者の大村智博士が発見し、Covid-19の治療薬候補の一つにあげられていたイベルメクチンについても、それを有効とした論文に問題があり取り下げられた。

 他の新薬を含めた試験は、現在も進行形なので最終的な評価は後日を待たねばならないが、今のところ著効を発揮したという報告はない(例外としてデキサメタゾンがあるがこれは抗ウィルス薬ではなくステロイド剤)。もともと風邪には「薬」はなく、ただ栄養をとり安静に寝てしかないというのが常識だった。これが大型風邪のcovid-19にも適応されるのだろうか?そうすると後は予防の為のワクチン開発にかけるしかない。

参考記事

勝俣範之 『薬の効果に残る懸念ーコロナ禍を機に「治験」を見直せ  Wedge 2020年11月号 p58-p61

追記1

最近のニュースでは、英国での治験でイベルメクチンが死亡率をかなり低下させたという。(https://news.yahoo.co.jp/articles/4939e4329f7e8a7853526489b0c4b0802a88d789)北里大学などの今後の治験結果が注目される。

読売新聞ニュース (2021/04/28)

https://www.yomiuri.co.jp/choken/kijironko/cknews/20210427-OYT8T50019/

追記2

デキサメタゾンの有効性は昨年6月頃発表され論文がプレプリントサーバーに投稿されている。1日6mを10日間投与するのが標準である。重症者に効果があり軽症者に効果がないのは、重症の多くが免疫反応の暴走によるという説と符号している(Natureダイジェスト2020年8月号)。

 


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