朝焼けを見るために

神様からの贈り物。一瞬の時。

流水子   第1話

2005-02-22 17:31:42 | 流水子
『もしも。架空の出来事として、今から私が其所に行ったとしたらどうする?』
『何をばかな事言っているんですか?ここが其所からどれだけ離れているか、わかっているんですか?それに今何時なのかわかっているんですか?』
『わかってるわよ。距離も時間も。だから、もしもって言っているじゃない。架空だって。』
『呑んでるんですか?』
『少しね。でも酔っぱらってなんてないわよ。』
『じゃあ、いったいなんなんです?らしくないですよ。こんな電話。』
『もう、ごちゃごちゃうるさいわよ。酔っぱらいでも、らしくなくてもいいから、ゲームだと思って答えなさい。』
『本当にどうしちゃたんですか?』
『だからゲームよ。ゲーム!答えないと切らないわよ。』
『わかりましたよ。ゲームですね。じゃあ、もう一度言ってください。始めの質問を。』
『今から、其所に行ってもいいかしら?』
『・・・、いいですよ。』
『今の私を、其所に・・・。今のあなたなら、・・・受け止めてくれるかしら、今の私を。』
『・・・、受け止めてみせます。』
『有難う。おやすみ。』
『おやすみなさい。』



そのまま、寝つくことはやはりできなかった。多少酔っぱらっている振りをしてみた。が、かなりの量を呑んでいるはずなのに、なぜか頭の芯の部分が妙に冷えていた。でも、やはり冷えきった回りは、常温で放置したままのバターのように軟化しているにちがいない。そうでもなければ、こんな時間にできる電話ではなかった。
日常の中で、何か変化がおこったわけではない。むしろ何もおこらない、おこさないそのことに、大きな問題や間違いがあるのかもしれない。
どうして、あの男性(ひと)に対してあんなあまえかたをしてしまったのだろう。数人の仲間とともに呑んだ、3週間前のことを思い出していた。
十数年の空白は皆無。学生の頃に戻って呑んだ。帰る方向がたまたま同じだったあの男性と私。私をタクシーに乗せる、ただそれだけの何気無いエスコートに、あの頃にはなかった、年相応の男としての器量の大きさをふと感じた。
それだけのことが、このあの男性の言うらしくない行為に結びついてしまったのだろうか。
本当は、違うナンバーを・・・。
訳もなく、酔いのせいでもなく、気持ちが萎えてしまっている。
それだけのこと。ただ、それだけのこと。



電話を切った後も、なんとも言い表しようもないものが。子供の頃魚の小骨が喉にひっかかったまま、ご飯を小さな団子にして飲み込んでも取れない時のように。
あの女性(ひと)が、いまだかつて俺に、あんな自分を見せたことがあっただろうか。学生の頃、卒業後、あの女性の結婚後、季節の便りのやりとり、時々入るメール。どの場面を思い返してみても、思いあたらなかった。いつだってあの女性は、毅然と誰に対しても弱味は見せたことはない。
確かに呑んではいただろう。多少の酔いはあっただろう。だが、何だ。ああは言ってみたが酔っているふうでもなかった。
3週間前、皆で呑んでいた時、
『そうは言ってもねぇ。』
そう言った一瞬の横顔が頭の中を、斜めに走った。
あと数時間、朝一番の営業会議があることを思いだした。が、今から少しの時間を睡眠に当てるには、ひっかかったものがあまりにも重かった。
ゲームだといわれなかったとしたら、なんと答えていただろう。ゲームだと言われたからこそ・・・。
いや、今のおれならば本当に・・・。

入れっぱなしのCDをそのままに、プレーヤーのスイッチをONにした。


==完==




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2 コメント

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まだまだ (ともたん)
2005-02-23 09:20:53
先は読めませんねぇ(^_^)

楽しみにしています(^O^)



いよいよ、体が訴え始めています…

減らさなきゃな~



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よくわからないでしょ (るな)
2005-02-23 09:31:22
なんとなく、なんとなく。

1話完結なのです。



後の24話は追々。(恥ずかしくなってやめるかも)





春は直ぐ其処。。

脂肪を一枚脱がなくては。。。

これが大変。

自己との戦いね。

一番苦手なのよねぇ。
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