半島の土の色、匂い
蓮池薫さんの「半島へ ふたたび」を読みました。24年間、拉致被害者として過ごさなければならなかった北朝鮮。その陸続きで、同じ民族ながら 異なる体制の国である韓国に行って見たい思いがあったとインタビューで、執筆の動機を述べていました。また飛行機から眼下に朝鮮半島の山野が見えたとき、過去の記憶がよみがえり、背筋がヒヤッとしたと書いています。しかし、本書の内容は、決して、自分の数奇な過去に対する嘆きや、北朝鮮に対する恨みではなく、「韓国文学翻訳家、蓮池薫」として身につけたハングルや朝鮮の歴史の知識を武器に 新しい人生を切り開いていこうとする決意が感じられるものでした。韓国旅行で 時折、朝鮮民族の風習や食に触れるたび、苦しかった北朝鮮での暮らしが頭をよぎりながらも、文化、風習に対しては、どこか懐かしいような不思議な感覚に陥っていることもあったのではないか思います。これは私の勝手な想像ですが、もしかすると日本に帰国した‘浦島太郎’として、拉致被害者としてしか見ない日本よりも、自由な体制の朝鮮半島である韓国、韓国人のほうが、居心地が良く、身近に感じることもあったかも知れません。
同じ民族ながら異なる体制を持った最後の分断国家である韓国と北朝鮮。統一の日は それ程遠い未来ではないでしょう。しかし、その日から、しばらくは多くの浦島太郎と家族たちが、新しい環境への適応に戸惑うことでしょう。ある世論調査機関で 統一後のドイツ人に対する最近のアンケートの結果、ベルリンの壁の復活を望んでいる人が7人に1人であったと伝えました。東西地域での所得格差、統一に対する諸費用による税金負担の増加が理由のようです。
それでも、本人が望んだものではないにしろ、結果的に北朝鮮を誰より知る日本人として、蓮池薫さんが感じた同じ半島故の土の色、人のにおい、風習は、60年以上の分断の時を埋めてくれるものと信じます。