ある韓国ドラマの中で「歳を取ると子供が人生の成績表のように思える。」という台詞があった。ドラマの題名や、どの様な場面であったかは不確かであるが、その言葉がなぜか耳に残っている。韓国では、友人、家族など親しい間柄で相手に対して、その人が結婚して子供がいるなら「○○アッパ(アボジ)、○○オンマ(オモニ)」と○○のところに子供の名前を入れて呼ぶことが多い。日本で言えば、誰々ちゃんのパパ、ママという意味であるが、より浸透した呼称であり、時には夫婦間でも配偶者に対しても使われる。一人の個人としての立場より、家族の中での存在や役割を重要視してきた表れだろうか。特に女性の場合、儒教的価値観の強かった韓国社会において妻、嫁、そして母親としてのみ認識される事への違和感や反発は強まってきている。「私は○○オンマではなく、れっきとした名前がある!」と主張する場面も近年の映画などで時々見られる。反面、前述したように、家族を築き、仕事や家事に限らず精一杯子育て、教育など子供の成長のため、自分なりに努力してきた親として「子供が人生の成績表」と感じるとしても不思議ではない。反面、日本では‘親ガチャ’、韓国では‘金の匙、銀の匙’と言われる親の努力、金銭面や学歴、職歴で子供の人生が決まるという考え方が行き過ぎると、社会とっても個人的にも好ましい事ではない。子供は成長すれば独立した一人の人間であり、「親の思い通りにならないのが子供」というのも真実であるから。
今回紹介する作品「満ち足りた家族」は、韓国映画やドラマでよく登場する財閥一族や政治家といった所謂特権、権力階級ではないが、社会的に安定した職業の代表とみなされる弁護士と医師の兄弟とその家族の物語である。監督は、いまでも韓国映画の名作として挙げられる「八月のクリスマス」で長編映画デビューし、その後も数々の作品で高い評価を受けるホ・ジノ監督。彼を慕って参加した出演陣は、ソル・ギョング、チャン・ドンゴン、キム・ヒエ、クローディア・キムら韓国映画界を代表する名優達となれば、自然と期待は高まる。ストーリーは、道徳よりも利益を優先するやり手弁護士の兄ジェワン(ソル・ギョング)は、出産したばかりの若い再婚相手(クローディア・キム)と前妻との高校生になる娘とで優雅なマンション暮らしをしている。一方、まじめで道徳的な小児外科医の弟のジェギュ(チャン・ドンゴン)は長年連れ添った妻(キム・ヒエ)と息子と、母の介護をしながら堅実に暮らしている。価値観の異なる彼らだが、月に一度食事会を開いていた。そして、いつものように夫婦同士で兄の行きつけの高級レストランでディナーをしていたある夜、彼らの子供たちは重大な事件に巻き込まれる。この日を境に、満ち足りた家族は予想もしなかった運命に・・・。人間の表と裏、善と悪、家族という存在の前で人間の本性が問われる展開に引き込まれる作品である。
日本でも少子高齢化は深刻な社会問題である。しかし出生率に注目すれば、韓国は世界最低であることが知られている。その原因として若い世代の結婚、子育てに関する価値観の変化、そこには就職率の悪化に伴う経済的問題が大きい。特に韓国では、学歴から始まる激しい競争社会のなか、教育は子供が人生を勝ち抜くための投資との意識が強い。その為、親としての義務感が子供を持つことへの負担感に繋がり易いかも知れない。6年ぶりに長編映画に復帰出演したチャン・ドンゴンが、「この映画のタイトルを自分でつけるとしたら‘子無しが最高!’(笑)」と答えた。勿論、冗談ではあるが、笑えない現実が、韓国そして日本にもあるようだ。
新年を迎え、あらためて読者の皆様、そして日韓両国さらには世界がより平和で穏やかな1年になるように願うばかりです。
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