翼がある物ならバットウィングから手羽先まで。脚がある物ならロボットからチャンネーまで。ストライクゾーンは無限大。
趣味人(シュミット)のプラジェクトX
師走の模型屋 完結編
趣味人(シュミット)のブログへ、ようこそいらっしゃいました。
全国ニュースも天気予報に差し掛かり、弁当を食べ終わった慎ちゃんは店に戻るよう、おばちゃんから促された。
居間に残った私は、こたつの側にあった「世界で一番美しいのはだあれ?」とおばちゃんが毎日問いかけているものを借りて、半開きのドアに差し込み 、老夫婦の間から出入り口の方が見えるよう角度を調整した。
と、引き戸がカラカラとゆっくり開く音が聞こえた。客の開け方にしては、静か過ぎる。
とうとう来たか!?
店内を恐る恐る見回しながら、防寒着に膨れた中年の女性と、その後から刺す様な目付きを持った少年が入ってきた。
何故こんなところに来なくちゃあかんの?と言わんばかりのブンむくれ面が左右反対に見てとれた。
慎ちゃんは店の通路の端に丸椅子を一杯まで寄せ、二人が進み入れるよう脇にどいた。顔を上げず小刻みに震えている。
膨れ面のキツネザルの後ろには、真っ赤な顔をして慎ちゃんを睨みつけ、今にも噛みつかんばかりの"猛"が、ズボンのポケットに両手を突っ込み凄んでみせていた。
開口一番「うちん子は万引きしとらんて言いよるです!」
「奥さん、こんばんはぐらい言いなっせ!」
店番合格者は店次長に昇格した。
「なんば盗ったとですか? ここん品もんですか?言い掛かりもよかとこです!」
店主は鼻息荒いキツネザルの言い分を黙って聞いていた。
「猛、あんたも言いなっせ!盗っとらんて!」
タバコ臭い息で慎ちゃんを睨みつけながら、吐いて捨てるように言った。
「おら、万引きしとらんばい。こやつじゃなかや。」
と、うつむき震える慎ちゃんをアゴでしゃくった。
抑留体験者はそれを待ち構えていた。
吠えるキツネザルは、どうでもよかった。
「猛くんとかいうたね。なんでこん子が万引きしたて、知っとると?」
「………。」何も答えず。
「あんたが慎ちゃんに万引きせろて、命令したつだろ?」
「言うとらん。そぎゃんこつ、知らんばい。慎、おら 言うとらんねぇ!」
ドスを利かせて慎ちゃんに詰め寄る。
「奥さん、猛君がタバコ喫いよると、知っとるね。」店主が糾す。
「……家ん中では喫うてよかて黙認しとります。外じゃあからんて」
「なんば喫いよるかわかりますか?」
「ラッキースターです。私が買うてやりよります。」
「慎ちゃん、銀行ん駐輪場で拾うてきた吸い殻ば出して。」
慎ちゃんは震える手で、茶封筒から五本のタバコの吸い殻を、裏返しの包装紙の上に落とした。暗い中、懐中電灯の灯りを頼りに這いつくばって集めてきたものだった。
はたして、ラッキースターの箔押し英字ロゴが入ったフィルターが二本混じっていた。
「こら今さっき拾うてきたとです。猛君は、そこにいっときおらした証拠です。」
「あんたは、ゲームセンターに居ったて言うたろ?」
息子をキッと睨み、キツネザルはなおも食ってかかる。
「ご主人、タバコは誰でん喫いよる。うちん子が喫うたて、何して分かっと?」
「ほんなら、警察に一緒に行きましょか。フィルターには唇の皮膚の付着しとる。唾液も吸うとる。DNA鑑定してもらいまっしょか。」
「あんた、ほんなこつあすこに居ったつね!」
目が泳ぎ出した猛に口撃目標を変え、猛然と食ってかかるキツネザル。
「奥さん、万引きしたつは慎ちゃんたい。それば強要したつがあんたが産んだバカ息子たい!」店次長からもう一つ格上げされた。
「お父さんは何して来てもらえんだったつ?」
店長の座が危ないおじちゃんは、相変わらず落ち着いた口調で問いかける。
「お父さんは仕事です。もうとっくに終わっとるとばってん、つぎん仕事はパチンコ打ちです。」
もう何もかも諦めた様子で、ガックリ肩を落とし、ボソボソと話した。
「猛君!プラモデル作ったこつあるね?」
真っ赤から「 警察 」と聞いて青ざめた顔色に変わりはしたが、慎ちゃんを睨みつける猛に店主は声をかけた。
「作ったこつ無か!」
まだ救える。答えたということは。
「ここにあっとで、欲しかとばどれでんよかけん、持って行きなっせ!」
猛はパッと顔を上げた。良心の呵責に耐えきれず、ポケットに両手を突っ込んだまま嗚咽しはじめた。『慎ちゃん、ごめん』まだ口には出せず、胸の中だけで叫んだ。
「これが欲しかっただろ?」
箱はひしゃげた跡はあるが、最終点検済みのプラモデルを、店長候補者が猛の手をポケットから引っ張り出して持たせた。
「今日はなんも無かったばい。万引きてろも、無かったばい。包んでやっとはお金ばもろてから。裸んまんまはプレゼントしたつたい。クリスマスだけん、慎ちゃんに持たせてやろうて思たと。猛君がきたけん、そん手間は省けたたい。作り方の分からんなら、慎ちゃんに手伝うてもらいなっせ!」
店番不合格から一気に名誉会長に登りつめた。
ロボットは猛の潤滑剤でところどころ輝きを放ち、強さを戻そうとしていた。
「お母さん、タバコはやめさせなっせ。
学校にもどこにも言わんですけん。お互い約束しまっしゅうで。」
息子の涙に輪をかけて鼻水混じりの涙を流す母親が、「ありがとうございます。」の言葉を口にした。
「慎ちゃん、猛を許してね。友達になってちょうだいね。」母親らしい優しい口調は、ニセモノでもなんでも無かった。
店主はいきなり振り返り、居間に突入して来た。間抜けに手鏡をもつ私を見てニヤっとし、弁当の入っていたビニール袋を取り、サンダルを2、3回踏み直して店に降り、猛に渡した。
「これに入れて行きなっせ。」
深々と頭を下げ、親子はアーケードのほうに帰って行き、慎ちゃんも電話を借りて「 模型屋にいるから心配しないで。すぐ帰るから。」と、普通の高校生に戻っていた。
出番が無かった私はというと、帰ってから晩酌をするか、メシを先に食ったので今日は止めとこうか悩みながら、ロングボウを三つ張り合って予約し、店を後にした。
外は寒い!アーケードで絡まれそうになったサンタの三角帽を被った酔っ払いサラリーマンをサイドステップで交わし、マイカーの待つ駐車場へ脚をはやめた。
遠く…♪
背中に……♪
ジングルベルを浴びながら………☆
( 完 )
( 画像と本文は関係ありません )
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全国ニュースも天気予報に差し掛かり、弁当を食べ終わった慎ちゃんは店に戻るよう、おばちゃんから促された。
居間に残った私は、こたつの側にあった「世界で一番美しいのはだあれ?」とおばちゃんが毎日問いかけているものを借りて、半開きのドアに差し込み 、老夫婦の間から出入り口の方が見えるよう角度を調整した。
と、引き戸がカラカラとゆっくり開く音が聞こえた。客の開け方にしては、静か過ぎる。
とうとう来たか!?
店内を恐る恐る見回しながら、防寒着に膨れた中年の女性と、その後から刺す様な目付きを持った少年が入ってきた。
何故こんなところに来なくちゃあかんの?と言わんばかりのブンむくれ面が左右反対に見てとれた。
慎ちゃんは店の通路の端に丸椅子を一杯まで寄せ、二人が進み入れるよう脇にどいた。顔を上げず小刻みに震えている。
膨れ面のキツネザルの後ろには、真っ赤な顔をして慎ちゃんを睨みつけ、今にも噛みつかんばかりの"猛"が、ズボンのポケットに両手を突っ込み凄んでみせていた。
開口一番「うちん子は万引きしとらんて言いよるです!」
「奥さん、こんばんはぐらい言いなっせ!」
店番合格者は店次長に昇格した。
「なんば盗ったとですか? ここん品もんですか?言い掛かりもよかとこです!」
店主は鼻息荒いキツネザルの言い分を黙って聞いていた。
「猛、あんたも言いなっせ!盗っとらんて!」
タバコ臭い息で慎ちゃんを睨みつけながら、吐いて捨てるように言った。
「おら、万引きしとらんばい。こやつじゃなかや。」
と、うつむき震える慎ちゃんをアゴでしゃくった。
抑留体験者はそれを待ち構えていた。
吠えるキツネザルは、どうでもよかった。
「猛くんとかいうたね。なんでこん子が万引きしたて、知っとると?」
「………。」何も答えず。
「あんたが慎ちゃんに万引きせろて、命令したつだろ?」
「言うとらん。そぎゃんこつ、知らんばい。慎、おら 言うとらんねぇ!」
ドスを利かせて慎ちゃんに詰め寄る。
「奥さん、猛君がタバコ喫いよると、知っとるね。」店主が糾す。
「……家ん中では喫うてよかて黙認しとります。外じゃあからんて」
「なんば喫いよるかわかりますか?」
「ラッキースターです。私が買うてやりよります。」
「慎ちゃん、銀行ん駐輪場で拾うてきた吸い殻ば出して。」
慎ちゃんは震える手で、茶封筒から五本のタバコの吸い殻を、裏返しの包装紙の上に落とした。暗い中、懐中電灯の灯りを頼りに這いつくばって集めてきたものだった。
はたして、ラッキースターの箔押し英字ロゴが入ったフィルターが二本混じっていた。
「こら今さっき拾うてきたとです。猛君は、そこにいっときおらした証拠です。」
「あんたは、ゲームセンターに居ったて言うたろ?」
息子をキッと睨み、キツネザルはなおも食ってかかる。
「ご主人、タバコは誰でん喫いよる。うちん子が喫うたて、何して分かっと?」
「ほんなら、警察に一緒に行きましょか。フィルターには唇の皮膚の付着しとる。唾液も吸うとる。DNA鑑定してもらいまっしょか。」
「あんた、ほんなこつあすこに居ったつね!」
目が泳ぎ出した猛に口撃目標を変え、猛然と食ってかかるキツネザル。
「奥さん、万引きしたつは慎ちゃんたい。それば強要したつがあんたが産んだバカ息子たい!」店次長からもう一つ格上げされた。
「お父さんは何して来てもらえんだったつ?」
店長の座が危ないおじちゃんは、相変わらず落ち着いた口調で問いかける。
「お父さんは仕事です。もうとっくに終わっとるとばってん、つぎん仕事はパチンコ打ちです。」
もう何もかも諦めた様子で、ガックリ肩を落とし、ボソボソと話した。
「猛君!プラモデル作ったこつあるね?」
真っ赤から「 警察 」と聞いて青ざめた顔色に変わりはしたが、慎ちゃんを睨みつける猛に店主は声をかけた。
「作ったこつ無か!」
まだ救える。答えたということは。
「ここにあっとで、欲しかとばどれでんよかけん、持って行きなっせ!」
猛はパッと顔を上げた。良心の呵責に耐えきれず、ポケットに両手を突っ込んだまま嗚咽しはじめた。『慎ちゃん、ごめん』まだ口には出せず、胸の中だけで叫んだ。
「これが欲しかっただろ?」
箱はひしゃげた跡はあるが、最終点検済みのプラモデルを、店長候補者が猛の手をポケットから引っ張り出して持たせた。
「今日はなんも無かったばい。万引きてろも、無かったばい。包んでやっとはお金ばもろてから。裸んまんまはプレゼントしたつたい。クリスマスだけん、慎ちゃんに持たせてやろうて思たと。猛君がきたけん、そん手間は省けたたい。作り方の分からんなら、慎ちゃんに手伝うてもらいなっせ!」
店番不合格から一気に名誉会長に登りつめた。
ロボットは猛の潤滑剤でところどころ輝きを放ち、強さを戻そうとしていた。
「お母さん、タバコはやめさせなっせ。
学校にもどこにも言わんですけん。お互い約束しまっしゅうで。」
息子の涙に輪をかけて鼻水混じりの涙を流す母親が、「ありがとうございます。」の言葉を口にした。
「慎ちゃん、猛を許してね。友達になってちょうだいね。」母親らしい優しい口調は、ニセモノでもなんでも無かった。
店主はいきなり振り返り、居間に突入して来た。間抜けに手鏡をもつ私を見てニヤっとし、弁当の入っていたビニール袋を取り、サンダルを2、3回踏み直して店に降り、猛に渡した。
「これに入れて行きなっせ。」
深々と頭を下げ、親子はアーケードのほうに帰って行き、慎ちゃんも電話を借りて「 模型屋にいるから心配しないで。すぐ帰るから。」と、普通の高校生に戻っていた。
出番が無かった私はというと、帰ってから晩酌をするか、メシを先に食ったので今日は止めとこうか悩みながら、ロングボウを三つ張り合って予約し、店を後にした。
外は寒い!アーケードで絡まれそうになったサンタの三角帽を被った酔っ払いサラリーマンをサイドステップで交わし、マイカーの待つ駐車場へ脚をはやめた。
遠く…♪
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続 続 師走の模型屋
趣味人(シュミット)のブログへ、ようこそいらっしゃいました。
「趣味人さん、お願いのあるばってん。猛( 仮名 )ちゅうやつは元気のよかごたるけん、もし万が一暴れだしたら、抑えちもらえんどか。居間に待っとってはいよ。仕事帰り、腹ん減っとるど。こたつに入って、ミカンでんお菓子でんたべときなっせ。」
「よかよー。乗り掛かった舟たい。猛ちゅうやつば、見てみよごた!」
靴を脱ぎ店から居間に上がった。視聴者のいない付けっ放しのテレビは、平気でニュースを棒読みしていた。こたつには入らず座布団も脇に追いやり、正座・腕組みで半開きのドアの向こうに意識を集中させた。
ガラガラと店の戸が開く音。緊張感が 走る。
「 もう閉めたと?」
待ち人ではなさそうである。
おばちゃんがやんわりと「帰れ!」と、諭す。
「 ハセガワのロングボウの入ったら2つお願いねー。また、来るけん。」
場の雰囲気を悟る、いい大人である。
あの声は開業医の横山先生だ(仮名)。オレの次に常連さんだと、心の中で張り合った。
おばちゃんがひしゃげたロボットを大規模改修しながら、慎ちゃんに尋ねた。
「なんして、万引きはしきらんて、断わらんだったつ?」
少し落ち着きを取り戻し ぬるくなったコーヒーを、流した涙の分だけコクンと一口飲んでから、切り出した。
「猛はどこでん万引きしよっと。ゲームソフトでん、洋服でん、お菓子でん。それば皆んなに配ると。皆んな盗んだ品もんて分かっとるばってん、何も言わんで貰うとたい。これも猛から、もろたやつ。」と、ズボンの裾をめくってトロイブロスのワンポイント入りソックスを見せた。
「いらん!て言わんけんたい!」箱の修理が終わり、ロボット再生が可能かどうか、ランナーからはずれたパーツに目を通しながら、ちょっとキツめに言った。
「いらんて言うたヤツは、もらったたヤツらからシカトされる。仕返しがおとろしかけん、皆んな先生にもチクらんとたい。」
店舗と居間の仕切り壁に、どちらからも手が届く絶妙な位置に電話台が取り付けてあった。店主のこだわりだろう。その上にあるリング式ダイアルの黒電話は、その当時としても世界遺産級だったが、立派に現役で活躍していた。
店主は慎ちゃんから、『 小島 』の住む町を聞いて、電話帳をめくった。
二軒目に"猛"という高校生がいる『 小島 』に当たった。電話の向こうは、猛の母らしい。
「…… うちは八楠町で模型屋をしよります宮田(もちろん仮名)と申します。
実はうちん店で万引きのあって、それが息子さんの猛くんに関係あるごたっとです。よかなら、店に来てもらえんでっしょか。まだ学校にも警察にも通報しとりまっせん。息子さんの帰ってきたなら、一緒に来てはいよ。
店は熊門銀行の通りばまっすぐ商店街にに向かって、アーケード越えたらふとか呉服屋の隣だけんすぐわかります。
車からなら、商店街共同の駐車場に停めてもろうて、アーケードに出たらすぐです。できたら、すぐ来てはいよ。待っとりまーす。」
電話を切った店主は、懐中電灯と茶封筒を慎ちゃんに渡し、お使いを頼んでいるらしい。
「趣味人さん、晩酌はなかばってん、弁当ば買いにやるけん、食べて行って。」
慎ちゃんは制服のボタンをきちんと全部かけ、何やら先ほどとは打って変わり明るい表情を見せ、弁当を買いに出て行った。
老夫婦は算盤をパチパチ弾き、今日の売り上げを集計し始めたかと思うと、あっという間に終わった。オレにも買い物させてよなあ。給料あとで、たっぷりあるんだけど…。
テレビは夕方のローカル番組から、全国ニュースに変わったが、トップニュースにも気は回らない。
早く来い!!!
ロングボウ10箱 、他にも問屋へ注文し、普段着ではあるが身支度を済ませた店主は、キリッと見えた。シベリア抑留を耐え、生き抜いた、日本人の中の日本人である。
都合 年六場所90日は店をサボっているが、抑留の労いに許してあげよう。
慎ちゃんが白い息をはきながら、弁当屋から戻ってきた。けードロの仲だったが、居間で一緒にから揚げ弁当を食べた。老夫婦は夕食は後回しに、引き戸の方を向いていた。たじろぎもせず、お互い無言で…。
(画像と本文は関係ありません)
次回へ続く…
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「趣味人さん、お願いのあるばってん。猛( 仮名 )ちゅうやつは元気のよかごたるけん、もし万が一暴れだしたら、抑えちもらえんどか。居間に待っとってはいよ。仕事帰り、腹ん減っとるど。こたつに入って、ミカンでんお菓子でんたべときなっせ。」
「よかよー。乗り掛かった舟たい。猛ちゅうやつば、見てみよごた!」
靴を脱ぎ店から居間に上がった。視聴者のいない付けっ放しのテレビは、平気でニュースを棒読みしていた。こたつには入らず座布団も脇に追いやり、正座・腕組みで半開きのドアの向こうに意識を集中させた。
ガラガラと店の戸が開く音。緊張感が 走る。
「 もう閉めたと?」
待ち人ではなさそうである。
おばちゃんがやんわりと「帰れ!」と、諭す。
「 ハセガワのロングボウの入ったら2つお願いねー。また、来るけん。」
場の雰囲気を悟る、いい大人である。
あの声は開業医の横山先生だ(仮名)。オレの次に常連さんだと、心の中で張り合った。
おばちゃんがひしゃげたロボットを大規模改修しながら、慎ちゃんに尋ねた。
「なんして、万引きはしきらんて、断わらんだったつ?」
少し落ち着きを取り戻し ぬるくなったコーヒーを、流した涙の分だけコクンと一口飲んでから、切り出した。
「猛はどこでん万引きしよっと。ゲームソフトでん、洋服でん、お菓子でん。それば皆んなに配ると。皆んな盗んだ品もんて分かっとるばってん、何も言わんで貰うとたい。これも猛から、もろたやつ。」と、ズボンの裾をめくってトロイブロスのワンポイント入りソックスを見せた。
「いらん!て言わんけんたい!」箱の修理が終わり、ロボット再生が可能かどうか、ランナーからはずれたパーツに目を通しながら、ちょっとキツめに言った。
「いらんて言うたヤツは、もらったたヤツらからシカトされる。仕返しがおとろしかけん、皆んな先生にもチクらんとたい。」
店舗と居間の仕切り壁に、どちらからも手が届く絶妙な位置に電話台が取り付けてあった。店主のこだわりだろう。その上にあるリング式ダイアルの黒電話は、その当時としても世界遺産級だったが、立派に現役で活躍していた。
店主は慎ちゃんから、『 小島 』の住む町を聞いて、電話帳をめくった。
二軒目に"猛"という高校生がいる『 小島 』に当たった。電話の向こうは、猛の母らしい。
「…… うちは八楠町で模型屋をしよります宮田(もちろん仮名)と申します。
実はうちん店で万引きのあって、それが息子さんの猛くんに関係あるごたっとです。よかなら、店に来てもらえんでっしょか。まだ学校にも警察にも通報しとりまっせん。息子さんの帰ってきたなら、一緒に来てはいよ。
店は熊門銀行の通りばまっすぐ商店街にに向かって、アーケード越えたらふとか呉服屋の隣だけんすぐわかります。
車からなら、商店街共同の駐車場に停めてもろうて、アーケードに出たらすぐです。できたら、すぐ来てはいよ。待っとりまーす。」
電話を切った店主は、懐中電灯と茶封筒を慎ちゃんに渡し、お使いを頼んでいるらしい。
「趣味人さん、晩酌はなかばってん、弁当ば買いにやるけん、食べて行って。」
慎ちゃんは制服のボタンをきちんと全部かけ、何やら先ほどとは打って変わり明るい表情を見せ、弁当を買いに出て行った。
老夫婦は算盤をパチパチ弾き、今日の売り上げを集計し始めたかと思うと、あっという間に終わった。オレにも買い物させてよなあ。給料あとで、たっぷりあるんだけど…。
テレビは夕方のローカル番組から、全国ニュースに変わったが、トップニュースにも気は回らない。
早く来い!!!
ロングボウ10箱 、他にも問屋へ注文し、普段着ではあるが身支度を済ませた店主は、キリッと見えた。シベリア抑留を耐え、生き抜いた、日本人の中の日本人である。
都合 年六場所90日は店をサボっているが、抑留の労いに許してあげよう。
慎ちゃんが白い息をはきながら、弁当屋から戻ってきた。けードロの仲だったが、居間で一緒にから揚げ弁当を食べた。老夫婦は夕食は後回しに、引き戸の方を向いていた。たじろぎもせず、お互い無言で…。
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サンタ エクスプレス
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今日は、クリスマス イヴ☆♪
ニワカ クリスチャンは、クリパーで馬鹿騒ぎするのが忙しくてブログどころじゃないもんねー(^_^)v
1/24 ハセガワ フォルクスワーゲン
はい、やや左斜めねー!
バックのリースは百均ねー! 次!
はい、やや右斜めねー!
はい、左側ねー! 次!
はい、右側ねー!
ちょい シャコタンねー! 次!
はい、ルーフねー! 次!
はい、アンテナポールねー!
雪ダルマはキットにはないけんねー!
ディズニーのキャラクターは、お菓子のオマケのシールねー!
はい、次!
次回のお楽しみねー!
クリパー、行ってもよかですかぁ!
では~! *・゜゜・*:.。..。.:*・'(*゜▽゜*)'・*:.。
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続 師走の模型屋
趣味人(シュミット)のブログへ、ようこそいらっしゃいました。
冬の夕暮れどき、仕事をハネて職場の駐輪場をすり抜け中心街のアーケードに繋がる裏通りに出た。少し寒い。模型屋で暖をとってから家に帰ろう。老舗旅館の板塀を越えて逃げてきた、赤や茶色の落ち葉が五、六枚、鬼ごっこをするかのようにクルクルと足元に遊んだ。
職場の近くには地方銀行の駐車場があり、併設された屋根付きの駐輪場に高校生と思しき男の子が、自転車にまたがったままタバコに火を点けようと、百円ライターの点火ホイルをカシャカシャ弾きながら、咥えたタバコの先に当てがっていた。
… こいつ制服のままでタバコなんか咥えやがって…
歩みを進めながらも視線が合うまで睨みつけ、そいつに昔の自分を重ねた。点火に成功したものの、眼を合わそうとしなかった。
たかだか高校生、かわいいもんよ。
アーケード街は夕暮れどきにもかかわらず、人影はまばらだった。歳も暮れようというのに、クリスマスソングだけが活気を取り戻そうと、やかましくスピーカーから流れていた。
ジングルベルが遠ざかり、模型屋のショーウィンドウが目に入ってきた。
相変わらずの面々が薄いホコリをかぶり、新参者との交代を待ち望んでいたが、中々現れなかった。
空で言える程見飽きた戦車やロボットに一べつを加え、店の入り口に手を掛けようとした時、自動ドアよろしくさっと中から開き、制服姿の男の子が突っ立つ私の横を滑り抜けていこうと、かがみながら出ていった。
制服のボタンは外され、模型の箱を胸に詰めていた。
何かおかしい!
そうだ!包装してないもの持ってる!
儀式が済んでない!!!
開けっ放しの引き戸越しに半身を店内に突っ込み、新聞に顔を埋める呑気な店番に声を掛けた!
「おばちゃん!今の男ん子に、模型売ったと?裸んまんまん箱ば持っとったばい!」
老眼鏡にシニアグラスを嵌めた三倍に見える黒まなこが、事の大事に五倍に拡大して見えた。
「なんて!何も売っとらんばい!」
売っとらんばいの“ う ”を聞くや否や反転し、男の子の背中を追った。
走り出した私の気配を感じたのか、一瞬振り返った男の子も走り始めた。今だ模型は胸に突っ込んだまま。
舐めんなよ!元ラガーマンを!
模型を必死に隠しながらのぎこちない走り方の男の子を、ズンズンと追いかける。
あと10ヤード!アーケード街にチラシしか持ちあわせない偽サンタクロースをサイドテップで交わし、もう2ヤードで追いつく!ダッシュ、ダッシュ、ラッシング!百貨店跡地のコインパーキング横でスマザータックル(ラグビーのタックルの技法のひとつ。ボールごと羽交い締めにしてパスも走る事もできなくする)をかませ、サビだらけの金網に男の子を押し付け、逃げるのを諦めさせた。
ガシャンと金網が軋む音に、フーっと煙を吐きながら火の着いたままのタバコを投げ捨て、慌てて自転車を漕ぎ出す 不良野郎が遠く目に入った。
グルか!
「なんか こら!買うてきたもんや?」
ハアハア息があがる男の子を押し付けたまま、模型の箱を引き剥がした。元ラガーの一撃で、無敵のアニメロボットの箱絵は無惨にも破壊されひしゃげていた。
黙ったままの男の子の腕を掴み、店の方に連れていこうとした。
向こうからは、歩く速度で走るかっこうばかりの、店番失格者がさすがに真っ青になりながら、近づいてきた。
「 慎ちゃん(仮名)、なんばしよっと!
話しばするけん、店にもどんなっせ!」
店番失格者は取り消そう。客としての男の子の名前を覚えていた。しかもちゃん付けで呼んだ。
三人、黙ったまま走った逆の方向にゆっくり歩いていった。チラシを渡そうとするサンタを尻目に。
幸い店には他の客はおらず、三人戻ったところで、寒さに震えるふたつ星の入った路上看板も店内に引き入れ、臨時閉店となった。
もぬけの殻になった店を店主が出て来て番はしてはいるが、名残おしそうに居間のテレビをドアを半開きにして観ていた。
( おじちゃん、もう印籠はかざされたんだろう?やっつけなきゃいけない奴、しょっ引いてきたんだから!テレビはあとで!)
万引きに遭遇し、しかも捕まえた興奮状態の私と対照的に、穏やかに話かける店主。
百戦錬磨、 慣れたもんである。ニコニコしながら
「なんしたんねえ。慎ちゃん。」
店主もその黙り込む男の子を知っていた。常連らしい。私も店で見掛けたような、いないような。ワーワー騒ぐような子は目にも付く鼻もつくが、静かな子は印象に残り辛い。
店番合格者は店主の横をすり抜け、ほどなく熱いインスタントコーヒーを四杯用意した。私もこの場にいても良いと。
「ゴメンなさい。僕、お金はらいます。その模型買います。」
震える声を絞り出し、裏返しの包装紙の上に置かれた人間に負けたアニメロボットを引き取ると意思表示した。
店番だけが座れるスチル製の丸椅子を売り場に出し 慎ちゃんを座らせ、私は地袋に腰掛け熱いコーヒーを手渡され、興奮を収めようと深呼吸を繰り返した。
「 なんてや?金ば…」
「まあまあまあ」
店主が私の言葉を遮った。
「慎ちゃん、初めてねぇ。こぎゃんこつすっと。(こういったことをするのは)
こまか頃から来てもろて、今日はなんしたと?訳ば聴かせてくれんね。」
沈黙が数分……続いた。ジングルベルが遠くかすかに聞こえた。
慎ちゃんはポロポロと涙をながしながら、やっと事の真相を語り出した。
「 万引きしてこいと、小島(仮名)に命令されたと。 お金払えばおばちゃんたちは綺麗に包んでくれるでしょ。でもあいつ、はだかのまんまの箱ば持って出てくっとば見とっとたい。」
自転車で逃げたひとりを確かに見た事を、並んで座るおばちゃんに耳打ちした。うんと頷き、阿吽の呼吸でおじちゃんに伝わった。
陰湿なイジメにあっている。かわいそうに。
頭ごなしに叱ろうとした自分が、恥ずかくなった。
「 小島君は、連絡とるるかい?ここに来てもらわんばん。」
店主の眉がつりあがった。ぬるくなったコーヒーを飲み干し、初めてみるキツい形相に変わった。
印籠をつきつける相手は、ここには居なかった。
………………………………………
不良少年は現れるのか!
店主が下したお裁きは!
次回に続く…。
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冬の夕暮れどき、仕事をハネて職場の駐輪場をすり抜け中心街のアーケードに繋がる裏通りに出た。少し寒い。模型屋で暖をとってから家に帰ろう。老舗旅館の板塀を越えて逃げてきた、赤や茶色の落ち葉が五、六枚、鬼ごっこをするかのようにクルクルと足元に遊んだ。
職場の近くには地方銀行の駐車場があり、併設された屋根付きの駐輪場に高校生と思しき男の子が、自転車にまたがったままタバコに火を点けようと、百円ライターの点火ホイルをカシャカシャ弾きながら、咥えたタバコの先に当てがっていた。
… こいつ制服のままでタバコなんか咥えやがって…
歩みを進めながらも視線が合うまで睨みつけ、そいつに昔の自分を重ねた。点火に成功したものの、眼を合わそうとしなかった。
たかだか高校生、かわいいもんよ。
アーケード街は夕暮れどきにもかかわらず、人影はまばらだった。歳も暮れようというのに、クリスマスソングだけが活気を取り戻そうと、やかましくスピーカーから流れていた。
ジングルベルが遠ざかり、模型屋のショーウィンドウが目に入ってきた。
相変わらずの面々が薄いホコリをかぶり、新参者との交代を待ち望んでいたが、中々現れなかった。
空で言える程見飽きた戦車やロボットに一べつを加え、店の入り口に手を掛けようとした時、自動ドアよろしくさっと中から開き、制服姿の男の子が突っ立つ私の横を滑り抜けていこうと、かがみながら出ていった。
制服のボタンは外され、模型の箱を胸に詰めていた。
何かおかしい!
そうだ!包装してないもの持ってる!
儀式が済んでない!!!
開けっ放しの引き戸越しに半身を店内に突っ込み、新聞に顔を埋める呑気な店番に声を掛けた!
「おばちゃん!今の男ん子に、模型売ったと?裸んまんまん箱ば持っとったばい!」
老眼鏡にシニアグラスを嵌めた三倍に見える黒まなこが、事の大事に五倍に拡大して見えた。
「なんて!何も売っとらんばい!」
売っとらんばいの“ う ”を聞くや否や反転し、男の子の背中を追った。
走り出した私の気配を感じたのか、一瞬振り返った男の子も走り始めた。今だ模型は胸に突っ込んだまま。
舐めんなよ!元ラガーマンを!
模型を必死に隠しながらのぎこちない走り方の男の子を、ズンズンと追いかける。
あと10ヤード!アーケード街にチラシしか持ちあわせない偽サンタクロースをサイドテップで交わし、もう2ヤードで追いつく!ダッシュ、ダッシュ、ラッシング!百貨店跡地のコインパーキング横でスマザータックル(ラグビーのタックルの技法のひとつ。ボールごと羽交い締めにしてパスも走る事もできなくする)をかませ、サビだらけの金網に男の子を押し付け、逃げるのを諦めさせた。
ガシャンと金網が軋む音に、フーっと煙を吐きながら火の着いたままのタバコを投げ捨て、慌てて自転車を漕ぎ出す 不良野郎が遠く目に入った。
グルか!
「なんか こら!買うてきたもんや?」
ハアハア息があがる男の子を押し付けたまま、模型の箱を引き剥がした。元ラガーの一撃で、無敵のアニメロボットの箱絵は無惨にも破壊されひしゃげていた。
黙ったままの男の子の腕を掴み、店の方に連れていこうとした。
向こうからは、歩く速度で走るかっこうばかりの、店番失格者がさすがに真っ青になりながら、近づいてきた。
「 慎ちゃん(仮名)、なんばしよっと!
話しばするけん、店にもどんなっせ!」
店番失格者は取り消そう。客としての男の子の名前を覚えていた。しかもちゃん付けで呼んだ。
三人、黙ったまま走った逆の方向にゆっくり歩いていった。チラシを渡そうとするサンタを尻目に。
幸い店には他の客はおらず、三人戻ったところで、寒さに震えるふたつ星の入った路上看板も店内に引き入れ、臨時閉店となった。
もぬけの殻になった店を店主が出て来て番はしてはいるが、名残おしそうに居間のテレビをドアを半開きにして観ていた。
( おじちゃん、もう印籠はかざされたんだろう?やっつけなきゃいけない奴、しょっ引いてきたんだから!テレビはあとで!)
万引きに遭遇し、しかも捕まえた興奮状態の私と対照的に、穏やかに話かける店主。
百戦錬磨、 慣れたもんである。ニコニコしながら
「なんしたんねえ。慎ちゃん。」
店主もその黙り込む男の子を知っていた。常連らしい。私も店で見掛けたような、いないような。ワーワー騒ぐような子は目にも付く鼻もつくが、静かな子は印象に残り辛い。
店番合格者は店主の横をすり抜け、ほどなく熱いインスタントコーヒーを四杯用意した。私もこの場にいても良いと。
「ゴメンなさい。僕、お金はらいます。その模型買います。」
震える声を絞り出し、裏返しの包装紙の上に置かれた人間に負けたアニメロボットを引き取ると意思表示した。
店番だけが座れるスチル製の丸椅子を売り場に出し 慎ちゃんを座らせ、私は地袋に腰掛け熱いコーヒーを手渡され、興奮を収めようと深呼吸を繰り返した。
「 なんてや?金ば…」
「まあまあまあ」
店主が私の言葉を遮った。
「慎ちゃん、初めてねぇ。こぎゃんこつすっと。(こういったことをするのは)
こまか頃から来てもろて、今日はなんしたと?訳ば聴かせてくれんね。」
沈黙が数分……続いた。ジングルベルが遠くかすかに聞こえた。
慎ちゃんはポロポロと涙をながしながら、やっと事の真相を語り出した。
「 万引きしてこいと、小島(仮名)に命令されたと。 お金払えばおばちゃんたちは綺麗に包んでくれるでしょ。でもあいつ、はだかのまんまの箱ば持って出てくっとば見とっとたい。」
自転車で逃げたひとりを確かに見た事を、並んで座るおばちゃんに耳打ちした。うんと頷き、阿吽の呼吸でおじちゃんに伝わった。
陰湿なイジメにあっている。かわいそうに。
頭ごなしに叱ろうとした自分が、恥ずかくなった。
「 小島君は、連絡とるるかい?ここに来てもらわんばん。」
店主の眉がつりあがった。ぬるくなったコーヒーを飲み干し、初めてみるキツい形相に変わった。
印籠をつきつける相手は、ここには居なかった。
………………………………………
不良少年は現れるのか!
店主が下したお裁きは!
次回に続く…。
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師走の模型屋
趣味人( シュミット )のブログへ、ようこそいらっしゃいました。
十数年前、私のお気に入りの模型屋は、その当時勤めたいた職場から、わずか200メートル程の距離にあった。
仕事帰りに毎日のように、寄せてもらっていた。
一部三階建ての店舗付き住宅で、一階は店舗とドアひとつ隔てた向こう側に、一段上がった居住スペースと分け合っていた。
五坪ある無しの小さな店の四方の壁には、びっしりと模型が積まれ、ジャンル別に整然と分けられていた。
奥の居間と繋がるまさに猫の額ほどの、老夫婦がやっと二人立てるスペースに、小さな机が売り場との境を成し、その上には電源が入ってない釣り銭入れの箱と化した壊れたままのレジスター、机の辺に寸分違わず平行に置かれた包装紙は素早く包めるよう裏返しにされ、1センチほどの高さに積まれていた。、セロテープホルダー、空き缶に立てた文房具、手脂で飴色になった算盤が脇に控え、いつ訪れてもどれもが定位置にスタンバイしていた。
客が購入しようとカウンター?に持ってきたら、まず店主のこだわりの儀式が始まる。
蓋を開けるとその裏には店主により鉛筆書きれた取り説の固有記号番号を確認する。パーツが入っている袋はすべて箱にホチキス留めされ、ほかの似たようなキットと入れ替わりがないように事前処理してあった。
陳列棚は天井から大人の腰の辺りまでで、そこから下は備品/在庫が保管してある地袋が設けてあり、ちょっと腰掛けてキットを見ることが出来るよう、せり出していた。
まだ模型の何たるやも分からない(やかましく考えない。だからこそ楽しい模型なのだ!)小学生たちは、その腰掛けに棚から二つ三つと引っ張り出してきた商品を、蓋と中味を間違えて棚に戻すことが間々あるので、蓋の裏攻略はそのためにあった。
蓋と中味が一致したら、ここで売った商品とチェック出来るよう、取り説の隅にハンコを押す。ヨンパチサイズの箱なら、パーツの袋はガッチリ留めてあるので、ビン入り接着剤や塗料の5~6本はやすやすと入った。
客の要望でそれらを放り込み(丁寧に)、飛行機、戦車、艦船、車、バイクが一定のパターンで印刷された包装紙を、必要最小限の粘着テープでシワひとつ出さぬよう留め、儀式の終わりを迎える。
大人でもだが、小さな子供は買って帰る間に、蓋が外れないとは限らない。帯紙ではなく、全包装は購入した証と家に帰るまでの安全安心のサービスである。
一連の儀式が終わると、お買い上げとなる。
時間帯、時期によっては 店主は店に顔を出さない。隣りの居間でテレビにかじりついて、テコでも動かない。
何を観ているかというと、相撲、あるいは時代劇である。
そんな主人にブツブツ文句を言いながらも、裏返しの包装紙の上に新聞を広げ、老眼鏡にシニアグラスを重ね着させて、その日の記事の中で面白そうなものを拾い上げ、ニュースキャスターよろしく、一部すっ飛ばしながら読み上げ 論評する。得意とする分野は、政治家への批判だった。面白いおばちゃんだった。
一昔前失われた十年と日本自体が揶揄されたが、私自身もずいぶんと失ってきた。完全に模型を断ち切り、資料、キットを手放し、単身 故郷を離れた。
その間、この老夫婦の営む模型屋を始め、お世話になっていた他の店も都合4軒、畳まれていた。皆さん どうしておられるのか…
大分県日田市で開催された『天領プラモデル大会』通称《天プラ》から、はやひと月が経とうとしている。
地元の模型屋を営む若い経営者に懇親会で言葉を交わすことが出来た。
「どぉ?お店、繁盛してる?中坊とか万引きしない?もしそういう子供がいたら、よく話しを聞いてあげてよ。その子にはその子の理由があるから。大事にしてやってネッ!」
青年経営者 曰く 「 オレその話しになると、涙が出そうで…….。いくらでもあるんです。」
「よろしくお願いネッ!」
これ以上は何も聞かなかった。
喋るのを遮断するために、ビールを注いであげた。
やっぱり商売にはつきものの心配事のひとつとして、嫌な思いを経験しているんだなあと。
明日は冬至、最後の祝日/天皇誕生日、クリスマス、紅白歌合戦、ゆく年くる年、元旦と続く。
師匠も走るから、師走!
モデラーも走った、走った!
万引きを捕まえるために!
元ラガーマンが走って走って捕まえたやつは、、、?!
次回に続くε=ε=ε=ε=ε=ε=┌(; ̄◇ ̄)┘
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