海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

「こうして村人は戦場へ行った」を見る

2008-09-05 19:55:39 | 生活・文化
 5日の午前1時15分からNHK総合で放送された「こうして村人は戦場へ行った 滋賀県旧大郷村の徴兵記録」は優れた番組であった。ハイビジョン特集の再放送だったようだが、あと一回やって欲しいくらいだ。旧大郷村の兵事係をしていた西邑仁平氏の残した膨大な兵事資料を基に、一つの村でどのように人々は戦場に動員され、それに村人はどのように対応したかが、資料の読み解きや生き残った兵士、遺族の証言などによって浮き彫りにされていく。
 南京、満州から太平洋の島々まで、村の男たちが出征していったその範囲は、日本が侵略の手を広げた広大な領域を示す。戦局の悪化とともに、それらの地域で戦死する村人も急増していった。村の神社で万歳三唱をして出征兵士を見送った村人には、戦線が拡大するにつれ戦死した肉親の遺骨さえ帰らなくなる。
 番組では、息子や兄弟を亡くした家族の悲しみとともに、南京における住民虐殺や初年兵教育で行われた刺突訓練、シベリア帰りの元兵士が味わった就職差別なども語られる。日本のどこにでもあった一つの村の戦争体験が、十五年戦争の多様な側面を映し出す。言うまでもなくそれは、一つの村を通して十五年戦争の全体像をつかみ取ろうとする番組制作者の確かな視点と、村人への丁寧な取材によるものだ。
 この番組の核になっているのは、敗戦直後の軍の焼却命令に逆らって、兵事係だった西邑氏が残した膨大な兵事資料である。それは戦争への動員のみならず、近代日本の軍隊と行政の在り方など、多くの歴史事実を解明する上で一級資料となるであろう。
 死んでいった村の若者たちのことを考えると、申し訳なくて焼くことができなかった、という西邑氏は、徴兵記録をリャカーに積んで役場から家に運び、戦後60年余、押入で保管してきたのだという。それがどれだけ大変なことであったかは、同様の記録がほとんど残っていないことから明らかである。103歳の西邑氏の姿を見ながら、記録を燃やさずに保管することが、召集令状や戦死の通知を配って回った自らの仕事と村人に対する、この人なりの責任のとり方でもあったのだろうと思った。
 西邑氏によって残された貴重な資料が、これから整理されて広く公開され、日本の戦争について考えようとする多くの人に利用できるようになってほしい。兵事係がどのような仕事を行っていたかを明らかにすることは、慶良間諸島における「集団自決」(強制集団死)の問題を考える上でも重要なのである。

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3 コメント

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TV番組紹介 (黒蝶真珠)
2008-09-08 13:09:51
本日(8日)午後2:00~4:00、BS3NHKハイビジョンHV特集「兵士たちの悪夢」(▽殺人の果てに▽帰還兵百年の悲劇)は、これも何度目かの再放送のようですが、すばらしい番組だと思いますので、ご紹介します。紛争解決の手段が戦争に委ねられることがいかに間違った政策であるかを、戦争の当事者である兵士自らが語っています。
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Unknown (かむじゃたん)
2008-09-11 13:24:59
その、普通の、田舎の純朴な青年が、
人を殺し女性を犯し、子供や高齢者も
抹殺する。
その中国戦線の兵士が、ほとんど中心の沖縄戦。

いつのころからか、市町村役場で自衛隊募集業務が
行われるようになった。

高校教師も、嬉々として「自衛隊」を就職先として
入れ込んでいる。

大江・岩波控訴審、一審よりも後退・逆転しないよ
うな判決を望むが、裁判所も向こう側だから一抹の
不安。

ちょっと、やっぱり沖縄で、
「沖縄戦研究所」の必要があるんじゃない
でしょうか。
ホントは礎と資料館と三点セットだったはず。


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お礼 (目取真)
2008-09-13 23:57:17
番組の紹介、有り難うございました。
ただ、8日は大阪に行っていたので、番組は見逃してしまいました。すみません。

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