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ロマン・ロランの作品に「ジャン・クリストフ」がある。
その中に、以下のような文章がある。
クリストフと叔父のゴットフリートの会話だ。
***
「じゃあお前は偉い人間になりたいんだな」
「そうだよ」
とクリストフは得意げに答えた。
彼はゴットフリートからほめられることと信じていた。
しかしゴットフリートはこう答え返した。
「なんのために?」
クリストフはまごついた。
考えてから言った。
「りっぱな歌をこしらえるためだよ!」
ゴットフリートはまた笑った。
そして言った。
「偉い人になるために歌をこしらえたいんだね。
そして歌をこしらえるために偉い人になりたいんだね。
お前は、尻尾を追っかけてぐるぐる回っている犬みたいだ」
***
この本は、1904年から1912年にかけて書かれた。
何だか身につまされる話だ。
深刻なデフレを解消するために金融緩和を行う。
こうしてダブついたお金で国債を買う。
国債維持のために多額な利子を払う。
結果、国の借金が増える。
返済のために更なる金融緩和を行う。
こうしてお金はぐるぐる回りだし、その価値を下げ始める。
いったいどこでこの輪から抜け出せばよいのだろうか。
ジャン・クリストフではこう続いている。
***
「おまえがもし、ここからコブレンツまでもあるほど偉大な人になったにしろ、たった一つの歌もとうていできやすまい」
クリストフはむっとした。
「もしこしらえたいと思ったら!.....」
「思えば思うほどできないもんだ。
歌をこしらえるには、あのとおりでなけりゃいけない。
お聴きよ.....」
月は、野の向こうに、丸く輝いてのぼっていた。
銀色の靄が、地面に低く、また鏡のような水の上に、漂っていた。
蛙が語り合っていた。
牧場の中には、蝦蟇の鳴く笛の音の旋律が聞こえていた。
コオロギの鋭いトレモロは、星の閃きに答えてるかと思われた。
風は静かに、ハンの木の枝をそよがせていた。
河の上の方から、ウグイスのか弱い歌がおりてきた。
「何を歌う必要があるのか?」
とゴットフリートは長い沈黙の後にほっと息をした。
「お前がどんなものをこしらえようと、あれらの方がいっそう立派に歌ってるじゃないか」
***
自然が作り出すものに解があるというのだろう。
だとすれば農業であり、水産業であり、林業であり、牧畜であり、基本はそこにある。
生産は自然から学ぶべきなのだ。
決して紙の世界ではないことを知るべきだろう。