現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

吉田修一「怒り」

2018-03-21 08:58:54 | 参考文献
 公開捜査されている殺人事件の容疑者かと疑わせる三人の若い男と、容疑者を追う刑事の、合わせて四つの独立したドラマが並行して進んでいきます。
 それぞれにドラマティックでミステリアスな設定が用意されていてなかなか読ませるのですが、最後はすべてを投げ出してしまって、説明的な解決(未解決な問題もあります)で済まされてしまっています。
 偶然の多用、デフォルメされた登場人物たち(家出を繰り返しそのたびに風俗産業にからめ捕られてしまう軽度の知的障害のある若い女性、都会の影に存在しているゲイ・コミュニティのメンバーたち、男性関係にだらしない母親と沖縄で米兵にレイプ未遂に合う娘という組み合わせの親子、民宿の仕事を妻と子どもに押し付けて沖縄問題闘争にのめりこんでいる男)、ご都合主義の展開など、典型的なエンターテインメントの書き方の作品なのですが、エンターテインメントであればこそ、ここは作者の腕前の見せ所なので、一見無関係と思われる四つの物語をラストできちんとまとめ上げてみせてほしかったなと思います。
 こうした尻切れトンボの作品は、本作のような新聞連載小説(読売新聞の朝刊)にはありがちなのですが、連載時にはある程度仕方ないにしろ、単行本の出版時には加筆修正したと謳っている以上は、きちんとした作品に仕上げてほしいものです。

怒り(上)
クリエーター情報なし
中央公論新社


怒り(下)
クリエーター情報なし
中央公論新社
コメント
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