「子どもの館」18号(1974年11月)に発表された論文です。
ユング理論に基づいて、意識と無意識を含む心の全体として、「自己(self)」という概念を以下のように使っています。
「意識野の中心として意識の世界を統括するのが「自我(ego)」であるのに対し、「自己」は心の全体性であり、また同時にその中心である。これは自我と一致するものではなく、大きい円が小さい円を含むように自我を縫合するのである。」
著者は、1963年に刊行されたモーリス・センダックの「Where the Wild Things Are」(文中の邦題は「いるいるおばけがすんでいる」になっていますが、現在は「かいじゅうたちのいるところ」として日本でも有名になっています)を詳細に分析することによって、意識と無意識の両方にまたがる「自己」の文学について説明しています。
「この物語は、一人の少年の無意識への退行と、新たな統合を成就した上での意識への回帰を、あまりにも典型的に描き出していて説明の要もなく思えるほどである。」
と、著者は「かいじゅうたちのいるところ」を評しています。
ご存知のように、その後「かいじゅうたちのいるところ」は、世界中で2000万部以上も売れたベストセラーになりました。
著者が指摘しているように、意識と無意識が大人より不分明である子どもたちにとっては、両方の世界を象徴的に描いた「かいじゅうたちのいるところ」はすんなり受け入れられる作品なのでしょう。
かいじゅうたちのいるところ | |
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冨山房 |