1968年に第58回芥川賞を受賞した作品です。
柏原は、ドイツ文学の、特に教養小説の研究者なので、この作品にも多分に教養主義的なにおいは感じられますが、彼の特長である平易な文章で書かれているので、今の読者でも読みやすいと思われます。
母方の祖父で陸軍中将まで上り詰めた人物の評伝を、特に晩年零落してからの最後の帰郷(大分県です)を中心に描いています。
芥川賞の選評では、軍人であり多くの部下を死なせた責任者である主人公を、最終的には受け入れる形で描いている作者の姿勢を批判する意見もあったようですが、むしろ60年代後半の反戦的雰囲気の中で、こういった作品を一定以上の水準で書き上げた作者は、もっと評価されてもいいのではないのではないでしょうか?
同じころ、児童文学の世界では、たんに反戦を取り扱っているだけのテーマ主義的な愚にもつかない作品群を高く評価していました。
世の中のはやりや風潮に流されずに、文学性の高い作品を書くことは、どの時代でも、一般文学でも児童文学でも大切なことですが、現代ではあまりにも軽視されすぎています。
柏原兵三作品集〈第1巻〉 (1973年) | |
クリエーター情報なし | |
潮出版社 |