chuo1976

心のたねを言の葉として

病棟雑感 朴湘錫

2016-11-21 05:05:06 | 文学

病棟雑感        朴湘錫


 午前八時 日勤との交代
 ベッド払いから掃除、治療車のきしむ音、それぞれの任務に分散して、生気をかもし出す病棟の午前。
 電気器具の騒音が止む頃
「どうだい」と
 主治医が入って来た、たったそれだけの声に、ほっと安らぎを覚える。
 愛称髭先生である。面長の輪郭を囲う見事な髭、如何にも人格にふさわしい。
「俺大丈夫かい、先生」
「大丈夫だ、心配ねえよ」
 さらりと言ってのける。山盛りの灰皿を片付けながら、でも吸うなとは言わない。言ってもきくような玉じゃないと思ったのか?
 先生にいま一つ大切なニックネームがある。少しばかり表現は悪いようだが、俺たちは「のんべ先生」とも言っているのだ。
 失礼にも聞こえるが、そうでもない。のんべの中味は濃いのである。
 俺たちの親愛の情が含めてある。医者と患者の壁を感じない。要するに、立場を超越して、俺たちの生活の中に飛び込んでくれる先生とも信じているのだ。
 少し古い話になるが、ある職員が患者の出したお茶をのんでくれた、とのニュースに俺たちは驚いた過去を思いかえす。
 時代も変って、ライへの認識も見直されつつある今日なお、お茶一杯出すことに迷いを感じている俺たち。
 もし、ひざを交えて生の心を語り、酒一杯くみ交わす職員が、又は社会人がいたとすれば、自らの偏見と、コンプレックスにこもりがちな心の扉をひらいてくれることではないだろうか。
 その意味からして、俺たちが生の心をぶっつけ、わがままも言える俺たちの先生に、多分お気に召すまいと思うが、「のんべ」という称号を、心を込めて贈る次第である。

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