五本の線 上丸春生子
煤によごれて
赤黒く染った
時計のかかっている柱に
横にひかれた五本の線
それは親しい友と
背丈を計って記した
なつかしい
思い出の線である
一番上の線はMさん
次の線はOさん
三番目の線は私
四番目はKさん
下の線はTさんだ
Mさんより教えられたもの
其れは苦しみのどん底に求めた
真理こそ
最大の幸福であると
Oさんから貰ったもの
それはどんな大きな怒でも
じっと耐えて一時間後に
爆発させても遅くないと
Kさんに学んだもの
それはどんな人にでも
同じ様に
尊敬を払うことだと
Tさんが諭してくれたもの
それは古い諺だ
何時までも
あると思うな親と金
だが私は
どの一つも身につけることが
いまだに出来ない