chuo1976

心のたねを言の葉として

『悪徳の栄え』 マルキ・ド・サド  澁澤龍彦訳    1965年

2020-05-30 05:28:29 | 文学

『悪徳の栄え』 マルキ・ド・サド  澁澤龍彦訳    1965年刊 桃源社


  マルキ・ド・サドは74年の生涯の後半生を、牢獄で過ごしたという。サドは貴族の特権として性的狂乱に耽った。そして、その性的狂乱の罪で残り半分の人生を獄中で過ごすことになるのだが、サドはその後半生の獄中で、「大小50巻に達する書物に性的想像力の極みを言葉に移しおえた」(松岡正剛)。本書は、獄中で書かれたサドの代表作と言われている。訳者は澁澤龍彦。ちなみに、同書は1969年わいせつ文書として有罪判決を受けている。

 

バタイユ「エロティシズムの社会化」

サドはつねに社会と強姦し、輪姦し、凌辱したという見方。バタイユがそこから「悪」こそが社会とエロティシズムの本質を嗅ぎ分けるにあたって最も必要欠くべからざるものだという思想に到達していった。

 バタイユの思想のほとんどすべてはサドのなかにあった。

『悪徳の栄え』 ノアルスイユ「悪徳こそ人間に固有なもの、それにくらべれば美徳は利己主義のおちんちんのようなものだ」

        サン・フォン「この悲惨な社会に必要なものは悪であって、それがなければ組織なんてつくれない」

        ジュリエット「自然の唯一の法則はエゴイズムで、そのエゴイズムを破れるのは他人と享楽を分かちあう悪徳だけですわ」

 

 

 

 サドがたんなるアルゴラグニアであったかどうかということは、いまでは疑問視されている。『悪徳の栄え』にも『新ジュスティーヌ』にも出てくるのだが、サドの快楽は放蕩によって傲慢を獲得することであり、屈辱によって矜持を強化するためでもあったからである。必ずしも被虐にのみ溺れていない。
 もうひとつ、マルセイユ事件が露呈したことは、サドに「コプロフィリア」や「ウラニスム」があったということである。コプロフィリアは糞便愛のこと、ウラニスムは肛門愛のことであるが、コプロフィリアについては『ソドム百二十日』で大きな比重を与えられているわりに、サドが執着していたという形跡はない。
 ウラニスムは鶏姦をともなうもので、これについては数々の乱行の記録を見るかぎりサドはつねにこだわっていたようだ。ボーヴォワールはサドのリビドーは肛門愛を中心に広がったのではないかと推理した。この見方はいまではサドに関する"常識"になっている。ぼくはコプロフィリアやウラニスムには近付けない(サド侯爵とぼくを較べてもしょうがないけどね)。
 さらに、マルセイユ事件があからさまにしたことがある。サドには極度の視姦主義があったということだ。
 他者の性行為を目撃することが自身の性欲のみならずいっさいの精神の興奮をもたらすということは、対自と対他が対立することなくエロスの根本に集中していたことを暗示する。そこには主客の入れ替わりがおこる。実際にもマルセイユでは、サドは下男を「侯爵さま」とよび、その"侯爵化した下男"の一物が目の前でそそり立つことをもって自身の怒張を感じた。
 このことはのちにバタイユらによって「エロティシズムの社会化」としてとくに重視された。サドはつねに社会と強姦し、輪姦し、凌辱したという見方だ。バタイユがそこから「悪」こそが社会とエロティシズムの本質を嗅ぎ分けるにあたって最も必要欠くべからざるものだという思想に到達していったことは、いまさら加言するまでもない。バタイユはそこから無神学大全を、有罪者の思想を、そして蕩尽の経済学をおもいつく。
 バタイユの思想のほとんどすべてはサドのなかにあったのである。すでにサド自身が『悪徳の栄え』で、ノアルスイユに「悪徳こそ人間に固有なもの、それにくらべれば美徳は利己主義のおちんちんのようなものだ」とか、サン・フォンに「この悲惨な社会に必要なものは悪であって、それがなければ組織なんてつくれない」とか、ジュリエットに「自然の唯一の法則はエゴイズムで、そのエゴイズムを破れるのは他人と享楽を分かちあう悪徳だけですわ」とかと言わせている。
 サドが何を書いたかではない。獄中のサドがどのような日々をおくったかということが、サドの謎の最大の問題なのである。

「松岡正剛の千夜千冊」 https://1000ya.isis.ne.jp/1136.html

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

札幌国際芸術祭

 札幌市では、文化芸術が市民に親しまれ、心豊かな暮らしを支えるとともに、札幌の歴史・文化、自然環境、IT、デザインなど様々な資源をフルに活かした次代の新たな産業やライフスタイルを創出し、その魅力を世界へ強く発信していくために、「創造都市さっぽろ」の象徴的な事業として、2014年7月~9月に札幌国際芸術祭を開催いたします。 http://www.sapporo-internationalartfestival.jp/about-siaf