強権の発動と嘘の言葉に塗れた安倍長期政権① 関川宗英
安倍晋三の国葬が議論になっている。
国葬に対する世論調査は9月4日時点で、読売、産経も含めて、全て「反対」が「賛成」を上回った。
9月8日、岸田首相は、「丁寧に説明したい」と閉会中審査を開いた。
しかし、国葬の理由、法的な根拠など同じ説明をなぞるだけだった。安倍晋三と旧統一教会の関係については「本人が亡くなった今、実態を確認することは難しい」などと述べた。そして、今後も理解を得られるよう丁寧に説明していきたいと同じ言葉を繰り返した。
岸田首相は「丁寧に説明していく」と本当に思っているのだろうか。
安倍晋三もこの言葉をよく使った。
1 「丁寧に説明する」という嘘
2015年4月17日、安倍晋三は翁長雄志沖縄県知事と初めて会談した。翁長雄志は、前年の11月の沖縄知事選で、辺野古移転容認派だった仲井真弘多を破っている。以下は、その時の安倍晋三の言葉である。
普天間の危険性の除去、撤去はこれはわれわれも沖縄も、思いは同じであろうと思います。
その中においてわれわれといたしても一歩でも二歩でも進めていかなければならないという中におきましては、辺野古への移設が唯一の解決策であると考えているところでございまして、これからもわれわれ政府が丁寧なご説明をさせていただきながら、ご理解を得るべく努力を続けていきたいというふうに思います。
安倍晋三は、丁寧に説明していきたいと述べているが、その機会はこの会談以降なかった。サンゴは移したなどと嘘をついて、辺野古の工事を強引に推し進めた。
「丁寧に説明していく」、このような言葉を安倍晋三はその最長政権下で何度使っただろうか。
「私自身がもっともっと丁寧に時間をとって説明すべきだったと、反省もいたしております」
これは2013年12月9日の言葉だ。首相官邸ホームページにも載っている。
特定秘密保護法が強行採決されたのはこの三日前、12月6日である。
NHKが行った世論調査では、国会で議論が尽くされたと思うかどうかについて、「尽くされた」が8%に対して「尽くされていない」が59%だった。
「丁寧に説明していく、その努力を積み重ねたい」
この言葉は、通常国会閉会を受けて2017年6月19日の記者会見で述べられたものだ。
この会見の四日前の6月15日、なんと朝午前7時すぎ、物議をかもしていた法案が参議院で強行採決されている。過去三度廃案となっていた、「共謀罪」法である。会見では、「国会の開会、閉会にかかわらず、わかりやすく丁寧に説明したい」との言葉もあった。
この時の安倍首相の発言には、森友問題に続き、加計問題の追及も受けていた渦中だったので、それらの疑惑についての「説明」も含まれていた。
6月15日は、60年安保で樺美智子が死んだ日だ。岸信介が安保条約を強行採決したように、安倍晋三も賛成反対の議論沸騰する中、権力を振りかざす決着を図った。
強権を発動しながら、口では「丁寧な説明」と繰り返す。
「丁寧は意味が違うと広辞苑」。閉会直後の6月21日の朝日川柳にあるが、庶民の嘆きなど安倍晋三の耳には届いていなかっただろう。
※「共謀罪」法~テロ等準備罪処罰法。犯罪を計画段階から処罰する『共謀罪』の趣旨を盛り込んだ改正組織的犯罪処罰法。
2 激動の2017年前半
2017年の「共謀罪」法の強行採決は、法務委員会を通過せず、いきなり参議院本会議で採決された。なぜこのような極めて異例な採決を、与党は強行したのか。当時のTVニュースを引用する。
共謀罪「ウルトラC」強行採決 そのワケは
日テレNEWS 2017年6月15日 17:50
15日午前、徹夜の与野党攻防の末、“共謀罪”の趣旨を盛り込んだ“改正組織犯罪処罰法”が可決・成立した。自民党は委員会採決を省略する異例の手段で採決に踏み切ったが、こうした強硬な手法に自民党内からも批判の声が出ている。
■委員会採決省略「ウルトラC」のワケ
今回、なぜここまで委員会での議論を無視したやり方をしたのか。
政府与党はこの国会で、何としても共謀罪の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法を成立させたいが、そのために国会会期を延長すると、野党に加計学園の問題で追及の場を与えることになってしまう。それが政権にダメージとなり、来月2日投開票の東京都議会議員選挙に悪影響が及ぶ――という、いわば自民党の保身ための戦略があった。
さらに、この都議選をめぐってはもう1つ、公明党の意向もポイントになっていた。
実は、参議院法務委員会の委員長は公明党の秋野議員。参議院自民党の幹部は「法務委員会での採決を省略して行わなかったのは公明党への配慮だ」と話している。
先月、衆議院の法務委員会で同じ法案の採決を行った時は、委員長を野党の議員が取り囲んで怒号が飛び交うなかでの採決だった。「これと同じ光景を公明党が重視する都議選の前に、公明党委員長の手で展開したくない。公明党は強引な採決を行う党というイメージをつけたくない」と、公明党側から自民党に要請されていたということだ。
これに応じる形で、委員会採決を省略する「ウルトラC」にたどりついた。
■“加計学園”今後の対応は
与党の都合で異例の国会対応が行われたが、これで会期の延長はせずに共謀罪の趣旨を盛り込んだ法律は成立。加計学園をめぐる再調査の結果も出て、野党による追及はこれでおしまいとなるのだろうか。
加計学園の獣医学部新設をめぐっては、16日、首相出席のもと、参議院予算委員会で集中審議を3時間行うことが決まり、かろうじて安倍首相が再調査結果をうけて、野党の質問をうける機会は設けられた。しかし、この3時間でおしまいなのか、また、衆議院でどうするかなどはまだ決まっていない。
首相周辺は、「何らかの形で首相が答える場を作るべき」と話していたが、形だけの場を作っておしまいでは批判逃れのためと受け止められても仕方ない。土日を返上するか、もしくは国会を閉じた後も、「閉会中審査」という方法で審議を行うなど、丁寧な対応をとらなければ今回の強引な国会運営のしっぺ返しは覚悟しなくてはならない。
https://news.ntv.co.jp/category/politics/364353
ニュース記事にもあるように、法案は5月19日に衆議院の法務委員会で採決されていた。委員会の強行採決は例にもれず委員長席を議員が取り囲むドタバタの画を生み、メディアを賑わせた。参議院では、このような画を衆目にさらして更に報道の過熱を招くような愚を避けたということだろう。
20170519衆法務委
政府与党は、森友問題、加計問題の追及を避けるため、そして直後に控えていた都議会選への影響を抑えるために、国会の閉幕を急いだのだ。
2017年6月15日、「共謀罪」法強行採決のこの日には、加計問題でも大きな動きがあった。
松野文科相が、疑惑の的だった「これは総理のご意向」などと記された文科省の文書が確認されたと発表したのだ。
この文書については、5月19日に「確認できなかった」と調査結果を発表していた。
すると5月25日、前文科省事務次官だった前川喜平が「あったことをなかったことにはできない」と記者会見を開く。
安倍晋三が「腹心の友」と認める加計孝太郎。加計学園の獣医学部開設が、「総理のご意向」で進んでいるのではないかという疑惑。
国会は加計問題で大きく揺れていた。
一方、2月17日の「私や妻が関係していたなら総理大臣も国会議員も辞める」との答弁から火が点いた森友問題は、安倍昭恵名誉校長の辞任、籠池理事長の補助金搾取容疑の発覚と目まぐるしく展開する中、5月8日には改ざんされた決裁文書が明るみになった。
森本問題でも、国会は連日、大揺れとなっていた。
2017年通常国会閉幕は、森友、加計という疑惑を、共謀罪法の異例の強行採決で断ち切るという、前代未聞の荒技だった。
2017年通常国会閉幕の安倍晋三の言葉の一部を、首相官邸のホームページからそのまま引用する。
2017年6月19日 記者会見(首相官邸HP)
(内閣広報官)
それでは、皆様からの質問を頂きます。
質問をされる方は、所属とお名前を明らかにされた上で、お願いいたします。
初めに、幹事社の方からの質問です。どうぞ。
(記者)
幹事社の毎日新聞の高山と申します。よろしくお願いします。
先ほど、冒頭でもおっしゃいましたが、この通常国会では加計学園をめぐる問題や森友学園をめぐる問題などの論戦に注目が集まりました。加計学園の問題では、特に国会最終盤、文科省の再調査で総理の御意向と明記された文書の存在が確認される一方、内閣府の調査ではそういう発言や文書はなかったという調査結果が発表され、食い違いも見られました。
野党は閉会後もやっぱり説明を行うべきだと主張していまして、森友学園についても疑念はやっぱり払拭されていないんじゃないかと主張しています。この2つの問題について、もう十分、説明責任は果たされたという認識でいらっしゃいますでしょうか。また、先ほど説明を積み重ねるともおっしゃいましたが、どのように説明を果たしていきますか。
さらに、テロ等準備罪を新設する法案の審議では、与党は委員会審議を省略する中間報告という異例の手法を使って成立させました。当然、法案の審議が不十分だったという指摘もございます。国民の不安払拭に向けて、どう説明をこれからも果たしていくおつもりでしょうか。
この週末の各社の世論調査では10ポイント近く、内閣支持率も落ち込みました。そうした状況も踏まえて、以上の点、お答えいただけたらと思います。
以上です。
(安倍総理)
今、御指摘をいただいた問題については、国会において、政府として説明を重ねてきたところでありますが、残念ながら、必ずしも国民的な理解を得ることはできていない。率直に、そのことは認めなければならないと考えています。
テロ等準備罪処罰法は、テロ対策について国際的な連携を強化していく上において不可欠な法律であると考えておりますが、依然として国民の皆様の中に不安や懸念を持つ方がおられることは承知をしております。
しかし、改めてこの機会にもう一度、私からはっきりと申し上げておきたいことは、一般の方が処罰の対象となることはない。そしてまた、一般の方が被疑者として捜査の対象となることはないということは改めてはっきりと国民の皆様に申し上げておきたいと思います。
これらの法律を実施していくに当たって、国会での御議論なども踏まえて、適正な運用に努めてまいります。しっかりと適正に運用していく中において、今、私が申し上げたことについて、我々が申し上げていることは間違いなかった。そう確信していただけると、こう思っています。
国民の命と財産を守るための法律であります。国民の命と財産を守るために、万全を期していく考えであります。
また、森友学園への国有地の売却については、既に会計検査院が検査に着手をしており、政府としては全面的に協力をしてまいります。
国家戦略特区における獣医学部の新設につきましては、文書の問題をめぐって対応は二転三転し、国民の皆様の政府に対する不信を招いたことについては、率直に反省しなければならないと考えています。今後、何か指摘があれば、政府としてはその都度、真摯に説明責任を果たしてまいります。国会の開会・閉会にかかわらず、政府としては今後とも分かりやすく説明していく。その努力を積み重ねていく考えであります。
今国会の論戦の反省の上に立って、国民の皆様の信頼を得ることができるように、冷静に、そして分かりやすく、一つ一つ丁寧に説明していきたいと思います。
国民的な理解を得ることはできていない。
依然として国民の皆様の中に不安や懸念を持つ方がおられる。
国民の気持ちに寄り添うような言葉を並べ立て、「一つ一つ丁寧に説明していきたい」という安倍総理だが、「共謀罪」法は強行採決された。
権力が牙をむいた、その事実は歴史に刻まれている。
(「強権の発動と嘘の言葉に塗れた安倍長期政権②」につづく)
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