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原作はヤン・シエンホイ(楊顕恵)の小説『告別夾辺溝』。ワン・ビン監督は、2004年に脚本を書きはじめ、さらに3年間にわたって実際の生存者たちをリサーチ。封印されていた悲劇に真正面から挑んだ。
何もないゴビ砂漠に収容所のセットを建てるという中国インディペンデント映画の枠を越えたスケール。スタッフには北京の一流スタッフを揃え、編集にはダルデンヌ兄弟の作品やカンヌ審査員特別賞『終わりなき叫び』で知られる名編集者マリー=エレーヌ・ドゾが参加。生存者の一人は出演もしている。「近年の中国から登場した、最も尊敬すべき映画」(ファイナンシャル・タイムズ)と讃えられながら、現在もなお中国本土での上映は禁じられている本作。
しかし、その衝撃を超え、死に逝く恩師にかけた1枚のコートが、砂漠にのこる男の口からこぼれる歌が、それらは一体何を物語るのか。ワン・ビン監督が、中国の歴史の記憶を語る事を超えて、人間とは何かを見つめた傑作が誕生した。
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REALTOKYO
インタビュー 聞き手:松丸亜希子
当局の許可なしで撮影を敢行したそうですが、申請しなかったのは、「反右派闘争」を扱うこのテーマでは許可が下りないと思われたからでしょうか。
そうですね。申請したとしても、この内容ではおそらく審査に通らないだろうと。それが予測できたので、審査のための努力をしなかったんです。この作品は、香港、フランス、ベルギーの合作で、中国資本は入っていないということもあって、自由に撮りたいと思いましたし。とにかく辺ぴな場所での撮影ですから、当局の人間が注目することもないだろうと思いました。撮影が始まって、最初は予想通り放っておかれたのですが、そのうち「何してるの?」と言われたこともありました。でも、そういうときのために『無言歌』とは別の、当たり障りのない脚本をあらかじめ用意してあって、「こういう作品を撮っているんです」と見せて事なきを得ました。その脚本には私は関わってないので、どんな内容か知らないんですけど(笑)。
この作品には、ベースになった小説があるそうですね。
ヤン・シエンホイ(楊顕恵)の『夾辺溝の記録(原題:告別夾辺溝)』という実話ベースの小説です。私は飛行機の中でその本を読み、そのとき初めてここに描かれている事実を知ってすごいショックを受けました。大いに心を動かされて強い興味が生まれ、これをぜひ映画にしてみたい、映画でこの物語を語りたいと思ったんです。小説にはさまざまな人物が登場するのですが、19章の中から「上海女」「逃亡」「一号病室」の3章を選び、それをもとに脚本を作っていきました。
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