風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

負け犬。

2007-02-08 22:00:56 | 日々いろいろ
今日、ある知人のキャリアと生き方を紹介した新聞記事を読んでいたんです。
その人、60歳を過ぎていて独身なんですけど、とってもキュートで知的で、地位も名声も持っているのにすごく謙虚で、とにかく素敵な女性なんです。

で、ふとこんなことを思ったのですよ。
もし仮に彼女を負け犬と呼ぶ人がいるとしても、そう呼ぶ人の方が馬鹿だって誰もが思う雰囲気と実力を彼女は持ってる。
だから。
私達は負け犬って言葉に腹を立てたり、理不尽さを嘆いたりしがちだけれど、要はそんな低レベルな言葉なんか吹き飛ばされちゃうくらい魅力的な女性に自分がなっちゃえばいいだけのことよね、と。
結婚とちがって、これなら自分の努力でなんとかなるし。一石二鳥じゃん♪と。
って、今更ですか?
私は今日これに気づいて、よかったー、これなら私でもできる!と喜んだんですけどね・・・(笑)

坂口安吾 『私は海をだきしめてゐたい』

2007-02-08 20:25:14 | 

 肉慾すらも孤独でありうることを見出した私は、もうこれからは、幸福を探す必要はなかつた。私は甘んじて、不幸を探しもとめればよかつた。
 私は昔から、幸福を疑ひ、その小ささを悲しみながら、あこがれる心をどうすることもできなかつた。私はやうやく幸福と手を切ることができたやうな気がしたのである。
 ……ところが私は、不幸とか苦しみとかが、どんなものだか、その実、知つてゐないのだ。おまけに、幸福がどんなものだか、それも知らない。どうにでもなれ。私はただ私の魂が何物によつても満ち足ることがないことを確信したといふのだらう。私はつまり、私の魂が満ち足ることを欲しない建前となつただけだ。
 そんなことを考へながら、私は然し、犬ころのやうに女の肉体を慕ふのだつた。私の心はただ貪慾な鬼であつた。いつも、ただ、かう呟いてゐた。どうして、なにもかも、かう、退屈なんだ。なんて、やりきれない虚しさだらう、と。 

    ……

 私は谷底のやうな大きな暗緑色のくぼみを深めてわき起り、一瞬にしぶきの奥に女を隠した水のたわむれの大きさに目を打たれた。女の無感動な、ただ柔軟な肉体よりも、もつと無慈悲な、もつと無感動な、もつと柔軟な肉体を見た。ひろびろと、なんと壮大なたわむれだらうと私は思つた。
 私の肉慾も、あの海のうねりにまかれたい。あの波にうたれて、くゞりたいと思つた。私は海をだきしめて、私の肉慾がみたされてくればよいと思つた。私は肉慾の小ささが悲しかつた。

(坂口安吾『私は海をだきしめてゐたい』)