杮茸落五月の第二部に、5日に行ってまいりました。
シネマ歌舞伎も含めて、GWは東銀座に何度通ったことか。。
ちなみに今回は二階席をまたいで、一気に一階まで下りてきてしまいましたよ。
だって、youtubeで観た吉田屋がものすごく好みで好みで好みで・・・・・。
こんなに好みなら、一等席で観ないと一生後悔すると思ったので、初見にもかかわらず買ってしまったのです。
前から6列目のセンター、花道寄り。
いやぁ、いいもんですねえ一等席って!3階席とは臨場感が100倍違う!舞台上の布の質感が肉眼でわかる感動といったら!
2万円は伊達じゃなかった。でもこの迫力を得られるのなら、決して高くはないと思いました。
もちろんそうしょっちゅうは無理なので、今後は好きな演目のためのとっておきとして一等席も検討に入れたいと思います。
【伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)】
こんなに女形ばかりの芝居を観たのは初めてでしたが、予想外に楽しめました。
最も興味のあった「飯焚き」の場面が省略されていたのは残念でしたが、とにかく配役がよかった。
藤十郎さんの政岡は内面の強さと温かみが見事に滲み出ていたし、秀太郎さんの栄御前、時蔵さんの沖の井、梅玉さんの八汐と、皆さんすごい迫力。まるで大奥が目の前に出現したみたいでした。
秀太郎さん、廓のおかみさんみたいな役も上手なのに、こういう役もとってもお似合い。栄御前は勝手におかしな誤解をして秘密を政岡にばらしちゃったりとどこか抜けているところもある役なので、鋭いながらも丸みのある秀太郎さんの雰囲気はぴったりでした。
花道の出と引込みも、カッコよかったなー。基本的に丸っこい人なのに、こんな雰囲気が出せるなんて、すごい。孝太郎さんにもちょっとそういうところがあるけど。
梅玉さんの八汐。怖かったよ~~~~;; 良いのか悪いのか、登場人物の中で一番の迫力を醸し出してしまっている八汐さん。後ろの席の私語しまくりのおばちゃんたちが、八汐が口を開くたびにピタリと私語をやめるので、ありがとう梅玉さん!って感じでした。数秒後には「怖いわねぇ~~~~~!」と感想を言い合っておりましたが・・・(いちいち口に出さんでよろしい、怒)。
時蔵さんの沖の井がまた、カッコよく。。。栄御前に対して政岡をさり気無くフォローするところや、引込みのときに八汐に鋭い視線を投げるところとか演技は繊細なのに、落ち着いていて。こんな人が側についていてくれてよかったねぇ政岡・・・と思った。
あとは市川福太郎くんの千松が素晴らしい!先月の金太郎君といい、子役が上手いと安心して大人の演技に集中できるので、嬉しいです。
床下の場面は、重~いお話の後の派手で豪華なオマケといった感じでした。
なんといっても幸四郎さん&吉右衛門さんの兄弟対決ですから!それだけでもお得感満載♪
吉右衛門さんが登場した途端に例の後ろの席のおばちゃん達が「あら!誰かしら?誰??」と通常モードの声で話すので真ん前にいる吉右衛門さんに聞こえやしないかと冷や冷やしてしまった。。。そうこうしているうちにスッポンから煙が上がると「あら、きっと吉右衛門が出てくるのよ!」と騒ぎ出すおばちゃん達。吉右衛門さん、真ん前にいるし。。。^^;
幸四郎さんも悪くなかったですよ(この方については、いつもこういう書き方になってしまう私をお許しください・・・)。四月の弁天でも思いましたが、幸四郎さんって弁慶のようなシリアスな役よりも、こういうキャラ的要素の強い役の方が似合う気がする。
で、花道の引込みでもおばちゃん達は「あら、一言も台詞がなかったわよ!やぁねえ~~~(爆笑)!」。。。。
おばちゃん、まだ幸四郎さん、引っ込みきっていないから!聞こえちゃうから!
まったくねぇ。。。歌舞伎って、こういうお客がほんと多いですよね。一等席でも関係ないんですね。。。
そうそう、将門のガマちゃんと同じく、ここではネズミくんが大活躍でした。すばらしい身体能力に、満場の拍手。
【廓文章 吉田屋】
youtubeのダイジェストを見て、好きなタイプの演目だとは重々感じていたけれど。
ここまで好みだったとは。。。。。
好きすぎてどうしよう。。。。。
まず、壁も飾りも桃色に彩られた舞台がよい。
正月準備の整った年の瀬の廓の華やかさが、客席を包み込みます。
視界に入ってくる色彩的にも、幸せをいっぱいにくれた演目でした。
で、仁左衛門さんの伊左衛門(早口言葉のようだ)。
花道の登場がもう・・・!これですよ!このために一等席を買ったのです!
シャランという音とともに現れた瞬間、その立ち姿の美しさに息がとまりました。
蝋燭の灯で浮かび上がる、恋文を貼りあわせた紙衣の衣装がまた。。。
恋文でできた衣装だなんて、こんな粋な衣装が世の中にありますか。
もちろん実際はもっとボロボロでみすぼらしくなければならないのでしょうが、そんなことはよいのです、歌舞伎ですから。リアルじゃなくていいから、美しく決めてほしい。
なにより仁左衛門さんに、この濃い紫がとってもお似合い。
そして、花道での手足の動きの美しさといったら。。。。。顔を笠で隠して、紫の衣装から浮かび上がる真っ白な指が、柔らかく動くその色っぽさ!生で目の前で観て、ぞくぞくした。
本舞台に来て、編笠をとったその瞬間の笑顔。一瞬で客席に広がる柔らかで明るい華は、仁左衛門さんならでは。
その後はもう、可愛い可愛い尽くしの仁左さま。
おきさが自分に会いたがっている人は誰か?と推量している間、掛け軸を眺めながら可笑しそうに小首を傾げたり(おきさに言う「ごきげんさ~ん!」、か・わ・い・い!)。
なかなか夕霧の名を口にしない喜左衛門夫婦に、焦れて火鉢をぐるぐるかき回したり(「ゆ・・・ゆ・・・」って可愛すぎ)。
松の間を覗いて、喜左にはしゃいで「いたッ!」って報告したり。
恋敵の相手をしている夕霧に機嫌を損ねて「もう去ぬッ」って拗ねて花道まで行って、引き止める夫婦を面白がったり。
夫婦に笑われてコタツでふて寝して、喜左衛門が部屋を出た後にそっと置きだして、去年のことを思って一人泣いたり。
涙で濡れた紙衣を蝋燭にそっとあてて乾かしたり(ぽんぽんって布に触れる手付きが可愛すぎ)。
夕霧が大好きで大好きで仕方がないその様子に、頬が緩まないではいられない。
でも可愛いだけじゃなくて、所々にハっとする美しさがあり(扇子の扱い方とか、くるりと周る動きとか、客席中をほんわかとさせてしまう笑顔とか)。
カッコよさもあり(足をダンと踏み鳴らすところとか、夕霧と仲直りした後のさりげないエスコートぶりとか)。
もう、見惚れっぱなしでした。
一文無しになっているのに全く卑屈にならずに「総身が金じゃ!」と言い切る天真爛漫さ、天衣無縫さも、この伊左衛門というキャラクターの何物にも代えがたい魅力ですよね。
そして「恋人を待つ」というただそれだけの話で、一時間以上の演目のほとんどをほぼ一人芝居でもたせちゃうのは、仁左衛門さんという役者の魅力と実力のなせるわざだとつくづく感じた次第。
また、彌十郎さんの喜左衛門と秀太郎さんのおきさが、とってもよいのです。
とっくに落ちぶれて廓になんか来られる身分じゃないのに「喜左!喜左!」と無邪気に呼ぶ伊左衛門を、昔と変わらず暖かく迎えて、下駄と羽織を着させてあげる喜左衛門さん。コタツで拗ねて寝ているふりをしている伊左衛門にお酒を置いて、「霧様は病み上がりなのですから短気を起こしちゃいけませんよ」と言って布団を掛け直してあげたり。優しい。。
おきささんも、困ったぼんぼんの伊左衛門に手を焼きながらもこの若旦那が愛おしくてたまらない様子が、実生活の次男坊と三男坊の関係と重なってニヤニヤしてしまいました(*^^*)
この演目はほんとうに良い人ばかりが出てくるので、心が自然とほわほわと暖かくなります。
いい人はいいね(by y. kawabata)
そして、満を持して玉さまご登場。
美しい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
他に言葉なんかございません。
「出るぞ」「出るぞ」と客のみんながわかっていて、そんな期待を一身に背負っての登場にもかかわらず、まったく期待を裏切らないどころか、期待を遥かに上回る堂々たる雰囲気はさすが。
玉三郎さんが登場した瞬間に、劇場内の照明がぱぁっと明るくなった錯覚を覚えました。やっぱりこの人は、稀有な女形なのだなぁ。。。
道成寺の花子から一変して、夕霧(この名前も素敵)は伊左衛門への恋で患ってしまう健気でいじらしい傾城で、こういう役の玉さまは初めて観ましたがとってもいいですね。
「もうし、伊左衛門さん、目をさまして下しゃんせ。わしゃ患うてな」のところ、仕草も声も可愛いすぎる(><)!
拗ねてる伊左衛門に困らされながらも、ただ儚いだけじゃない、芯が通った柔らかさを感じさせる女性です。
そして始まる、二人の痴話げんか(笑)
これがまた可愛くて、だけどかなり際どい色っぽさで、最高。
もうこの二人を、ミニチュアにして小箱に入れて家に持って帰ってしまいたかったです。
これで69歳&63歳。ほんと、奇跡だ。。。
よく見れば、お二人ともちゃんと年齢相応のお顔をされているのです。
にもかかわらず、舞台上の彼らはまったく年齢を感じさせない。20代に見える。それが奇跡に思える。
インタビューでこの役について「若作りはしません。若さを保とうと思うようなら役者を辞めます。私が若い伊左衛門になれるかどうかです」と語られていた仁左衛門さん。
このお二人と同じ時代に生きられて本当によかった!と、観終わったとき、心の底から感じました。
第三部の娘道成寺と同じく、たっぷりと夢の世界に酔わせてくれた『吉田屋』。
娘道成寺が美しく妖しい夢なら、こちらはどこまでもどこまでも幸福でふんわりとした初春の夢でございました。
※追記:友人から十数年前の仁左&玉の吉田屋の筋書を見せてもらい、その中で仁左衛門さんが仰っていたのですが、伊左&夕霧&太鼓持の三人で炬燵を持ってトントンと歩くときのリズムは、わらべ歌の「七草囃子」のリズムになっているそうです(仁左衛門型)。お客にわからないところにも初春らしい洒落た演出が隠されているこの演目が、ますます好きになりました^^
※5月23日の第二部の感想
※5月29日の第二部の感想