氷河だ。
一瞬、私は見てはならぬものを見たように思った。
神の世界
これは神々の座だ。
何千何万の彩りが氷のプリズムに踊って、凄まじい光を放っている。
未知の宇宙から宇宙へ向かって無音の凱歌をあげながら、ほとんど動いていないのではないかと思われるほどの遅さで雄大に流れて行く。
…
この素晴らしい美を皆に見せてあげたい。…私一人がこのような光景を観ることが、何よりも惜しかった。
この美しさを一度も見ることも感じることもなしに、一生を終わる人もいるのだと思うと、ますます残念でならない。
この地球
静かに流れてゆく地球
人間とは、まあ、何と自惚の強いものだろう。人間は何一つ知らずに死んで行くのだ。
たかだか百年にすぎぬ命。
この氷河の百分の一、千分の一にも遠く及ばぬ命。その短い一生で全てを知ったような、知り尽くしたような顔の何と多いことか。
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そんなものは屁のようなもの。
真実は他にあるのだ。
何一つ知らず、知ったつもりの錯覚と自惚れのまま死んでゆく人間。
…
塵ほどもない、小っぽけな人間
しかし、それが広大な宇宙に匹敵するものがあるとすれば……
そう……愛
愛
それは美しい心
これこそは広大無辺の宇宙に比べることのできる永遠のもの、偉大なるもの
(美輪明宏 『紫の履歴書』)
人間の小さな脳の想像を遥かに超える大いなるものに対する畏敬、謙虚さは常に感じていたいですし、そういうものを感じられらることは感じられないよりも人間を幸福にしてくれると思っています。
そしてもしその大いなる存在に匹敵するほどの何かが人間の中にあるとすれば、それはきっと愛だけ。
だから宝石も知識も常識も、そこに愛があれば、何倍もの光を放つ。愛がなければ屁と同じ。