風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

八千草 薫 『あなただけの、咲き方で』

2021-02-07 22:39:00 | 




 ビオトープというのは、地道に自然を造っていくものなので時間がかかります。とても興味はあるものの、これから何年生きていられるか分からないのに、今から造っても無駄かなとも思ったのです。そんなある日、そのことを話した友人が「やるべきよ、やらないよりずっといいいじゃない」と強く後押ししてくれました。・・・
 今現在も作っている最中ですから、生きている間に私が思い描くような光景を眺めることはできないかもしれません。でも、ビオトープを作るという新しい挑戦は、これまでに十分過ぎるといっていいほどの感動をもたらしてくれました。めだかや蛙、虫たちが集まってくるのを眺めていると、童心に返ったようなわくわくとする気持ちを味わうことができて、今ではあのときの決心は間違っていなかったのだと実感しています。
 考えてみれば、どんな年齢の方も、先のことは分かりません。何かを始めても、もしかしたら志半ばで、終えてしまうこともあるでしょう。でも、だからといって臆してしまい、そこで諦めてしまえば、人の可能性はそこで止まってしまいます。
 たとえ最後までできなくても、その過程で得られる喜びを噛み締めながら、新しいことへの挑戦を楽しみたいと思います。

(八千草薫『あなただけの、咲き方で』)

2019年に亡くなられた八千草薫さんの『あなただけの、咲き方で』(幻冬舎。2015年1月)を読みました。
書店で平積みになっていたのを立ち読みしたら素敵な文章だったので図書館で予約したところ、なんと数か月待ち
先日、ようやく読むことができました。

シャイな八千草さんが女優を続けてこられたことのお話、自然や旅行が大好きで19歳上のご主人と登られた冬山の静けさのお話、木の温もりを感じさせる家具を大切に使われているお話、クラシック音楽がお好きだというお話、お庭に造られたビオトープのお話、自然に囲まれた暮らしがしたくて富良野の倉本聰さんのお宅の隣の土地を買われたり(結果的にはその土地は倉本さんに譲り、八ヶ岳に別荘を買われたそうです)。
ドラマなどで拝見する八千草さんの雰囲気そのままの飾らなく、上品で、凛とした文章たち。こういう女性になりたいな、こんな風に年齢を重ねられたら素敵だな、こんな風に人生を生きられたらいいな、と感じる本でした。

私の好きなテレビドラマ『愛し君へ』(2004年)で、八千草さんは視力を失っていく病に冒されたカメラマン(藤木直人さん)の母親役を演じられていました。以下は、最終回のドラマの中での言葉。原作はさだまさしさんの『解夏』です。

あの二人の結婚式を見ながら考えていたことがあります。それは、もしも俊介が病気になっていなかったらどうしていただろうということです。俊介は写真の仕事を続け、四季さんは病院で働き、別の人生を別の幸せを手にしていたのでしょうか。ところが、病気という経験を通して、二人は同じ道を共に歩むことになりました。私は夫を亡くし、次男を亡くし、自分の人生を恨んだこともありました。でも、二人の結婚式を見ながら思ったのです。どんな人生にも行き止まりはなく、道は続いていくのだと。前に進めば必ずそこには道がひらけているのだと。
それは今、四季さんと俊介の笑顔が証明しているのではないでしょうか。私は幸せな人生を送ってきたのだと、今、心から思います。

(『愛し君へ』 第11話)