日本東洋医学会学術集会をWEBで聴講していて、
整形外科領域のレクチャーがとても参考になりましたので、
メモしておきます。
主に運動器の傷み・痛みに対してどう漢方薬を使い分けるかの解説で、
「打撲には治打撲一方」しか知らなかった私には、
目からうろこが落ちる思いでした。
この治打撲一方は、
その昔、鞭打ちの刑により腫れ上がった傷の手当てに使用したそうです。
<ポイント>
・骨・骨膜の痛みには治頭瘡一方(59)
・骨以外(軟部組織)の痛みには桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)
・筋肉・腱の痛みには、
急性期:麻杏薏甘湯(78)
慢性期:薏苡仁湯(52)
・運動器痛の程度による使い分けは、
安静時痛:越婢加朮湯(28)+桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)
運動時痛+熱感:麻杏薏甘湯(78)+桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)
動作時痛+冷え:薏苡仁湯(52)+桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)
<病名からの使い分け>
・ストレッチで毎回痛いところ → 薏苡仁湯(52)
・長引く腱鞘炎 → 薏苡仁湯(52)
・腱付着部の痛み → 薏苡仁湯(52)
・たまに痛めて長引く関節痛 → 薏苡仁湯(52)
・捻挫 →
① 越婢加朮湯(関節水腫、激痛)、麻杏薏甘湯(関節周囲痛)
② 桂枝茯苓丸(皮下出血)
③ 治頭瘡一方(骨挫傷)
から組み合わせて使う:①+②+③、①+③、①+②
▢ 打撲の到達深度と漢方薬の使い分け
(浅層)筋・関節・皮下・皮膚 → 通導散(適応病名:打ち身、打撲)
(中間層)神経・血管 → 桂枝茯苓丸(適応病名:打撲症)
(深層)骨 → 治打撲一方(適応病名:打撲による腫れおよび痛み)
…打撲は「深いほど痛い!」
▢ ダメージを受けたのは骨か、骨以外か?
(骨組織)治打撲一方
(骨以外:軟部組織)桂枝茯苓丸/桂枝茯苓丸加薏苡仁
▢ スポーツ損傷では重宝する桂枝茯苓丸/桂枝茯苓丸加薏苡仁
・打撲・内出血
・すり傷・縫合後
・スポーツ後の足のだるさ
▢ 桂枝茯苓丸加ヨクイニンの解説
・保険病名と効能:比較的体力があり、時に下腹部痛、肩こり、頭重、めまい、
のぼせて足冷えなどを訴えるものの次の諸症:
月経不順、血の道症、にきび、しみ、手足のあれ
・構成生薬:桂枝・茯苓・芍薬・桃仁・牡丹皮、薏苡仁(筋の浮腫に有効)
▢ 桂枝茯苓丸 vs 桂枝茯苓丸加薏苡仁
・生薬の含有量が異なる
(桂枝茯苓丸) (桂枝茯苓丸加薏苡仁)
桂枝 3g 4g
茯苓 3g 4g
芍薬 3g 4g
牡丹皮 3g 4g
桃仁 3g 4g
ヨクイニン 10g
→ 軟部組織損傷の第一選択は、
桂枝茯苓丸加薏苡仁 > 桂枝茯苓丸
▢ 治打撲一方の解説
・痛い打撲=骨挫傷、骨膜下血種、骨折、骨周囲の腫れ
…つまり“骨のダメージ”であり、痛いのは「骨膜」
骨損傷に第一選択薬、骨由来の痛みには89番!
(適用例1)オスグッド・シュラッター病
治療開始までが早ければ早いほど反応がよい
(適用例2)骨折
▢ 運動器の血虚
・低タンパク質
→ 筋肉量が少ないと損傷部分を再生できない
▢ 血虚の基本処方は四物湯
・構成生薬:当帰・川芎・芍薬・地黄
(当帰)血管新生
(芍薬)血管弛緩
・派生処方:麻杏薏甘湯、薏苡仁湯
▢ 薏苡仁湯の構成生薬
(麻黄)エース
(桂皮)リラックス
(薏苡仁)筋内浮腫対策
(蒼朮)関節内浮腫対策
(当帰)血管新生
(芍薬・甘草)=芍薬甘草湯
→ “筋肉・関節痛+再生”
(適応病態)
・ストレッチで毎回痛いところ
・長引く腱鞘炎
・腱付着部
・たまに痛めて長引く
▢ 麻杏薏甘湯と薏苡仁湯の使い分け
(麻杏薏甘湯)
・急性期
・中等度~軽度の腫脹・熱感・疼痛、冷えがきっかけの痛み
(薏苡仁湯)
・慢性期
・強くはないが、腫脹・熱感・疼痛が慢性化
→ 急性期は麻杏薏甘湯、長引いたら薏苡仁湯へ変更すべし
▢ 薏苡仁湯の適応キーワード
① 冷えがある(=血流低下)
② 決まったところ・慢性的
③ 腱>筋腹
→ 筋を修復して痛みを止める
慢性期の腱・関節周囲痛の第一選択は52番!
・腱炎・腱鞘炎
・筋付着部炎
・長引く関節痛
▢ 運動器痛への麻黄剤の使い分け
① 安静時痛(炎症強い)…何をしても痛い!
→ 越婢加朮湯(+桂枝茯苓丸加薏苡仁)
② 運動時痛+熱感…動かすと痛い!
→ 麻杏薏甘湯(+桂枝茯苓丸加薏苡仁)
③ 動作時痛+冷え…いつも痛いところ
→ 薏苡仁湯(+桂枝茯苓丸加薏苡仁)
▢ スポーツ×漢方のコツ
・痛みと血流の処方セット
(急性期)炎症(麻黄)+お血
(慢性期)血虚(当帰)+お血
▢ ねん挫に使用する漢方
① 越婢加朮湯(関節水腫・激痛)、麻杏薏甘湯(関節周囲痛)
② 桂枝茯苓丸(皮下出血)
③ 治打撲一方(骨挫傷)
→ 組み合わせ例:①+②+③、①+③、①+②