漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

更年期障害の基礎知識(更年期指導士レクチャー1)

2023年09月04日 15時27分39秒 | 漢方
漢方のブログなのになぜ更年期?
と思われる方が多いと思われますが、
実は更年期障害は漢方薬の得意分野なのです。

思春期医療を追及すると女子の月経関連トラブルを避けることができず、
月経痛・月経困難症・月経不順・月経前症候群、等を調べていたら、
漢方治療が役立つことがわかりました。
それに派生して、更年期障害でも同じ漢方薬を使うこともわかり、
それなら手を広げてお母さん方の更年期障害も診療しよう、
と思い立ちました。

そしてタイミングよく日本女性心身医学会が「更年期指導士講習会」という資格を立ち上げたことを知り、
その資格を得るべくWEB講習に申し込みました。
5つの講習を受けて問題に解答し合格したら資格取得…
と思いきや、「ただし学会員に限る」という条件がありました。
さすがに小児科医の私は日本女性心身医学会に入会する気が起こらず、
講習を受けるだけになってしまいました。

まあ、お金も払ってしまったし、
何かで相談を受けたときに役立つと思われ、
このまま講習を受けることにしました。

第一回は更年期障害の基礎知識です。
講師は小川真理子先生(東京医科歯科大学)。

ポイントをメモっておきます。

<ポイント>
・現代社会では“更年期ロス”が問題になっており、更年期離職による経済損失は年間4200億円。
・更年期障害と思い込む前に、別の疾患が隠れていないか検証することが重要。
・とくに甲状腺機能異常、鉄欠乏性貧血、うつ病の鑑別が必要。
・更年期は女性ホルモン(主にエストロゲン)が激減することにより発症する。
・エストロゲン受容体は全身に分布するため、更年期症状も多岐にわたる。
・更年期障害は代表的な心身症の一つ。
・更年期以降は骨粗しょう症と高脂血症に注意。
・薬物療法として西洋医学ではホルモン補充療法、抗うつ薬が行われ、漢方療法も多用されている。

更年期ロス
・更年期症状のために、以下のエピソードを経験した女性は15.3%。
 ✓仕事を辞めた。
 ✓雇用形態が変わった。
 ✓労働時間や業務量が減った。
 ✓降格した。
 ✓昇進を辞退した。
・更年期症状のために、仕事を辞めたり、
辞めることを検討した人が多い。
・女性の更年期離職による経済損失は年間4200億円。

 更年期障害診断のポイント
1.更年期に発症。
2.原因となる明らかな疾患がない。
3.症状で日常生活に支障が生じている。

▢ 女性のライフサイクルと健康トラブル・疾患
(幼児期)特になし
(思春期)月経不順、月経痛、卵巣機能不全
(性成熟期)性感染症、不妊症、子宮内膜症、子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮頸がん、乳がん
(更年期)更年期障害、子宮体がん、卵巣がん
(老年期)骨粗しょう症、動脈硬化、認知症

 閉経・更年期・更年期障害の定義(産婦人科用語集・用語解説集 第4版)
閉経:12か月以上の無月経。
更年期:最終月経の前後5年、合計10年間。
※ 最終月経は12か月経過しないとわからない。振り返って判断することになる。
更年期障害:更年期に現れる多種多様な症状の中で、
器質的変化に起因しない症状を更年期症状と呼び、
これらの症状の中で日常生活に支障をきたす病態を更年期障害と定義する。
※ 海外には「更年期」という単語がないらしい。

▢ 女性ホルモンの動態(性成熟期)
(卵胞期)卵胞から主にエストロゲンが産生・分泌
(排卵)卵胞が黄体に変化する
(黄体期)黄体からエストロゲンとプロゲステロンが産生・分泌
(月経)エストロゲンとプロゲステロン産生が激減

 エストロゲン受容体の分布
・エストロゲン受容体は全身に分布している
(例)脳、心臓、肺、乳腺、副腎、腎臓、卵巣、卵管、子宮、膀胱、骨
→ このため様々な症状が発生する。

男性の更年期障害も存在する
・女性は50歳を境にエストロゲンが急減→ 更年期障害
・男性は50歳を境にテストステロンが漸減する→ 緩やかな症状発現
※ 男性でもエストロゲン、女性でもテストステロンは少量分泌されている。

様々な更年期症状
・血管運動神経症状:ほてり、汗、動悸、冷え
・精神的症状:うつ、不安、情緒不安定、イライラ、不眠、やる気が出ない
・泌尿生殖器症状:尿漏れ、頻尿、性交痛
・その他:肩こり、めまい、腰痛、頭痛
…種類は300種類以上で、症状の出るパターンは人それぞれ(表現型は無限)。

▢ 日本人女性の更年期症状評価表
1.顔や上半身がほてる(熱くなる)
2.汗をかきやすい
3.夜なかなか寝付かれない
4.夜眠っても目を覚ましやすい
5.興奮しやすく、イライラすることが多い
6.いつも不安感がある
7.ささいなことが気になる
8.くよくよし、ゆううつなことが多い
9.無気力で疲れやすい
10.目が疲れる
11.物事が覚えにくかったり、物忘れが多い
12.めまいがある
13.胸がドキドキする
14.胸がしめつけられる
15.頭が重かったり、よく頭痛がする
16.肩や首がこる
17.背中や腰が痛む
18.手足の節々(関節)の痛みがある
19.腰や手足が冷える
20.手足(指)がしびれる
21.最近、音に敏感である
※ 日本産科婦人科学会 生殖・内分泌委員会:日産婦誌,53(3)883-888, 2001

 更年期障害の鑑別診断
(症状全般)うつ病、甲状腺機能異常、心身症
(倦怠感・意欲低下)肝機能障害、貧血
(動悸)貧血
(めまい)メニエール病、貧血
(指のこわばり)関節リウマチ、変形性関節症、へバーデン結節など
(頭痛)脳腫瘍、薬剤誘発性頭痛
(腰痛)椎間板ヘルニア
(膝痛)変形性膝関節症
(ホットフラッシュ)カルシウム拮抗薬服用、自律神経失調症
※ 女性更年期外来診療マニュアルより

甲状腺機能異常
・女性に多い
(男女比)
 橋本病  1:10~30
 バセドウ 1:3~5
・海外の報告では、42~52歳女性の10人に1人が罹患
・症状
 ✓月経不順・無月経
 ✓睡眠障害
 ✓疲労感
 ✓気分の落ち込み
 ✓物忘れ
 ✓イライラ
 ✓躁状態
 ✓動悸
…etc.

鉄欠乏性貧血の多彩な症状
倦怠感、意欲低下、集中力低下、認知機能低下、活動量低下、動悸、息切れ
異食症、食氷、爪の変形(匙状爪)、口角炎、胃炎、むずむず脚症候群

うつ病
・女性のうつ病有病率は男性の2倍
・女性のうつ病好発時期:産褥期、黄体期(月経前)、更年期
・「更年期うつ」でも専門医の診療が必要
・精神科受診を勧めるポイント:
 ✓自殺念慮
 ✓うつ病の診断に迷ったとき
 ✓SSRIやSNRIで効果がない
 ✓重症のうつが考えられるとき
 ✓双極性障害が考えられる
 ✓精神病性の特徴がある
 ✓本人が精神科受診を希望

心身医学 Psychosomatic medicine
患者を身体面とともに心理面、社会面(生活環境面)をも含めて、
総合的・統合的に診ていこうとする医学

心身症 Psychosomatic disorder(PSD)
身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し、
器質的ないし機能的障害が認められる状態。
ただし、神経症やうつ病など、他の精神障害に伴う身体症状は除外する。
→ 更年期障害は、代表的な女性心身症の一つ

▢ 更年期障害の治療
・非薬物療法
 ✓生活習慣改善、サプリメント
 ✓カウンセリング、心理療法
・薬物療法
 ✓ホルモン補充療法(HRT)
 ✓漢方療法
 ✓抗うつ薬(SSRI/SNRI)

▢ 日本人の平均寿命と健康寿命(平成30年)
(女性)
・平均寿命:87.14歳
・健康寿命:74.79歳
・平均寿命ー健康寿命:12.35年
(男性)
・平均寿命:80.98歳
・健康寿命:72.14歳
・平均寿命ー健康寿命:8.84年
人生の最後約15%を要介護状態で過ごすことになる。

▢ 更年期以降の女性で特に注意したい病気
・骨粗しょう症
・高脂血症

▢ 介護が必要になったキッカケ
(第一位)認知症
(第二位)脳卒中←高脂血症
(第三位)骨折・転倒←骨粗しょう症

 女性の生涯における骨密度の変化
・生後漸増して二十歳でマックス(最大骨量 peak bone mass)
・以降、50歳までプラトー
・50歳以降に漸減
・更年期以降は骨折危険域まで低下していく
※ 若いときに痩せていて無月経の経験のある女性は最大骨量も少ないので、
 更年期以降容易に骨折しやすい、一度骨健診を!

▢ 脂質異常症の末路
悪玉コレステロール上昇
→ 動脈硬化
→ 心筋梗塞、脳卒中

▢ 更年期以降の慢性疾患予防を考えた食事
・骨粗しょう症予防:骨に必要な栄養素を摂取
 カルシウム、ビタミンD/K/C/B、マグネシウムなど
・脂質異常症予防:
 食物繊維、青魚を増やす
 総カロリー、アルコール、動物性脂肪を減らす

▢ 慢性疾患予防を考えた運動
1.有酸素運動:週150分以上
・速歩、ジョギング、スロージョギング
・自転車
・水泳
・エアロビクス
・ベンチステップ運動など
2.レジスタンス運動(筋トレ):週2回以上
・ダンベル
・マシンなど


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 小児・思春期の片頭痛と漢方治療 | トップ | HRT(ホルモン補充療法)の基... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

漢方」カテゴリの最新記事