漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

“やせる漢方”(防風消風散)をお勧めできない理由

2021年01月17日 06時59分20秒 | 漢方
2021年1月現在、新型コロナウイルス流行が席巻しています。
特効薬の存在しない現在、中国で発生したウイルスでもあり、漢方薬も注目されています。

漢方薬はなんとなく「副作用が少ない」「ずっと飲み続けても大丈夫」というイメージがあります。
薬店で購入できる市販薬もたくさん用意されていますし。

しかし、
「効く薬には副作用がある」
「効かない薬には副作用が少ない」
のが医学の常識です。

ひとつの例として、やせる漢方で有名な防風通聖散を取り上げてみます。

<参考資料>
▢ 副作用に注意すべき“イエロー”の生薬

まず、上記資料の中にある「副作用に注意すべき生薬と漢方製剤」の表を引用させていただきます;



防風通聖散は4項目「黄岑」「麻黄」「大黄」「山梔子」で登場しており、侮れません。
このうち「黄岑」は、漢方生薬の中で最も効くものの一つであり、かつ最も副作用が出やすい生薬とされています。
その昔、肝炎に使用された小柴胡湯という漢方薬で発生した間質性肺炎が事件的に取り上げられたことがありますが、その主要犯人は黄岑と推測されているのです。
黄岑による肝障害の頻度は1-2%程度、間質性肺炎は10万人に4人程度と報告されています。
黄岑の副作用は、定期服用をはじめてから1-2ヶ月で生じることが多く、黄岑を含む漢方薬を長期投与する際には定期的な血液検査が必要です。

小児で黄岑含有漢方方剤を長期投与することは少ないのですが、溶連菌性咽頭炎をひたすら繰り返す患児に小柴胡湯を数ヶ月投与することが希にあります。1ヶ月以上継続する場合は血液検査を受けてもらいます。

防風通聖散は「やせる漢方」として宣伝されている漢方製剤の一つで、薬店で購入できる一般用漢方製剤ではナイシトールやコッコアポEXなどに含まれています。減量目的で使用されることが多いため、長期間服用しているケースも少なくないと思われます。
一方で、厚生労働省の副作用情報では、防風通聖散は副作用出現頻度が最も高い漢方製剤です。

防風通聖散が対象にする患者さんは本来、「がっちりした体格」「太鼓腹で暑がりの人」であり、日本人女性では適応となることは少ないと思われます。「華奢な体格」「水太り体質」の方が服用すると、副作用が出やすいのです。

西洋医学の薬と異なり、漢方薬では、その製剤に合う体質というもの(証)が重視されます。
わかりやすい例でいうと、体力のあるなしで「虚」(体力が無い)と「実」(体力充実)に分けられます。
すると・・・
①「実」の患者さんは「実」用の漢方薬が効きます。
②「実」の患者さんが「虚」用の漢方薬を飲んでも効きません(何も起こりません)。
③「虚」の患者さんは「虚」用の漢方薬が効きます。
④「虚」の患者さんが「実」用の漢方薬を飲むと副作用が出ます。
というふうになることが予想されます。

防風通聖散を華奢な体格の水太り体質の女性が飲んで副作用が出るのは④のパターンということになります。
黄岑の副作用は「たくさんの量を使ったから」とか「長期服用したから」ではなく、「アレルギー反応」といわれており、合う・合わないの世界です。

参考資料から「各生薬の副作用の起こり方」の表を引用させていただきます;



処方薬では主治医から副作用の説明がありますが、薬店では漢方薬に詳しい薬剤師さんがいる店舗で相談しながら購入することをお勧めします。

また、ふだん飲んでいる薬との一緒に飲んで大丈夫かどうか(相互作用)も問題になることがあります。

<参考資料>
▢ ニューキノロン系抗菌薬と併用NGな漢方薬は?

上記資料より「注意すべき漢方薬と西洋薬の組み合わせ」という表を引用させていただきます;




表を眺めても、小児科で使用する薬は少ないですね。
「キサンチン系薬剤」は私が小児科医になった30年前は喘息の薬として多用されていましたが、その後徐々に使われなくなり、この10年間で私は処方した記憶がありません。
ニューキノロン系抗菌薬(いわゆる抗生物質)も小児では頻用されないタイプです。

上記の表は薬剤の製品名ではなく作用機序で書かれているので、一般の方が見てもピンとこないと思われます。
「(自分が飲んでいる薬の名前)+(添付文書)」で検索するとわかりますから、処方薬を自分で調べて自分の体を守ることも昨今必要だと思います。

逆に、飲み合わせがよい、一緒に飲むと西洋薬の副作用が軽減するパターンもあります。
上記参考資料から「漢方薬と西洋薬の有効な組み合わせ」表を引用させていただきます;


こちらも小児科に縁のある薬は少なく、オセルタミビル(=タミフル)くらいでしょうか。
私は麻黄湯あるいは麻黄含有方剤をインフルエンザ疑いの患者さんに処方することがあります。
高熱が出たので慌てて受診したけど、インフルエンザ迅速検査には早すぎる(私は発熱後6時間以降を目安にしています)場合、桂麻各半湯という漢方薬を処方して翌日再受診して検査することが多いですね。

以上、漢方薬は薬店で購入できる市販薬もありますが、それを飲む際、西洋薬と併用する際の注意点をまとめてみました。
ご参考になれば幸いです。

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