2018.1.20「東洋医学セミナー〜日本漢方・中医学の英知の紐解き方〜」(於:高崎イーストタワービル)
加島雅之先生(熊本赤十字病院総合内科・総合診療科)
を聴講してきました。
日本漢方より、中医学の視点からのお話。
専門用語を羅列してどんどん進むので、理解が追いついていきませんでした。
後半の日本漢方と中医学の比較は興味深く聞けましたが・・・。
※ 前半「肝」の部分は、スライドをメモしても今ひとつピンとこないので、以下の二つの資料も参照しました;
①「臓腑学説・肝」(奈良上眞、大阪医療技術学園専門学校東洋医療技術教員養成学科講義ノート)
②「肝の弁証」(木本裕由紀)
*************<備忘録>**************
□ 五臓
(心)意識と循環を支える。
(肺)呼吸と気の生産、津液の散布を支える。
(脾)消化吸収を支え、気・津液を円滑に運行させる
(肝)気と血の流れる量・方向をコントロールすることで、感情・月経を支配する
(腎)根源的な生命力を蓄える場であり、全身の津液の代謝を調節。成長・老化、生殖、尿の産生を支配する。
□ 六腑
(胃)初期消化をする。消化管に下向きのベクトルを与える。
(小腸)必要な水分と栄養を脾の管轄下に吸収する。不要な水分は腎・膀胱に送る。
(胆)胆汁を蓄え、排泄。胆力をもたらす。
(大腸)大便を排泄させる。
(膀胱)尿を貯留と排泄。
(三焦)気・陽・津液の流通路。
□ 内邪
【瘀血】
主に血瘀を背景または脈外に血が出たために形成された病理産物。
血・気の流通を阻害する。
症状:
・疼痛(固定性の疼痛が多い)
・腫瘤の形成
・出血
・組織の変性・破壊
・精神症状(ヒステリーなど)
【痰飲】
津液が変性することで形成された病理産物。粘稠なものを“痰”、稀薄なものを“飲”という。
津液・気・血の流通を阻害する。
症状:
・疼痛:固定性で“おもだるい”疼痛が多い。
・肺にあると咳嗽・喀痰・呼吸困難
・胃にあると悪心・嘔吐、腹水・胸水、腫瘤
・心に入ると精神症状・意識障害、胸痛
【食積】(しょくせき)
消化管に長く停滞した食物。脾胃の処理能力を超えた食事のために生じる。
症状;
・上腹部がつかえて苦しい、食思不振、胸やけ、ゲップ、悪心、嘔吐、下痢など。
・舌苔は濁膩が多い。
(つぶやき)
瘀血の精神症状と痰飲の精神症状の違いと鑑別がわからない・・・。
□ 陰陽失調論
主に精気のバランスの崩れによる病態を論じる。
・陽(機能的存在):気・陽
・陰(物質的存在):血・津液
(つぶやき)
陽の中の陽ってなに?
□ “肝”の生理作用
・疏泄を主る:全身の気の流れをスムーズに調節する。
・蔵血を主る:血を貯蔵し全身の運行する血量を調節するとともに、血を涵養(=滋養)する。
※ 肝主疏泄(①)
(語意)①疏:疎通、②泄:発散
(概念)全身の気機の疎通・暢達を保持し、通(不滞)・散(不鬱)の作用。
(効能)肝主昇・主動・主散の生理学的特徴⇒全身の気機の調暢・血と津液循環の推動
※ (②)「疏泄」という言葉がはじめて使われたのは『黄帝内経素問』五常政大論篇の「土は疏泄し、蒼気達す」であり、それは「冬が終わって春になると堅く凍てついた大地が軟らかく弛み、春木の気(蒼気)が草木を生長させ枝や根をのびのびと伸ばす」ことを意味している。この軟らかく弛むさまを「疏泄」と表現したのである。
(つぶやき)
ここがいちばんわかりにくい。西洋医学の肝臓(代謝を主る)とは別物と考えるべし。「気の調節」と「血(主に月経?)の調節」という特殊な働き。
□ 肝の病証
・「肝気欝結」と「肝血虚」が基本
・肝の病証は「熱」の病態になりやすい。
・常に脾胃との関係を考える。
・肝の常見症状:イライラ・抑うつなどの情緒・感情の障害、気滞の症状、情志で変化(例:イライラで悪化)する症状、月経の異常
★ 肝と心の精神症状の違い:
(肝)情緒・感情 → 他人が理解可能
(心)意識・思考内容 → 他人が理解不能(精神疾患系)
□ 肝の治法
・疏肝:肝気の鬱血を除く
疏肝解欝:主に疏肝を気鬱に用い、精神作用を期待する
疏肝理気:主に疏肝により疼痛などの気滞の症状に用いる
・養肝:肝の陰血を補う
・平肝:肝気の高ぶりを主に肝血を補う・疏肝することで治療
・鎮肝:肝気の上行を鎮める
・瀉肝(清肝):肝の熱を除く
・暖肝:肝陽を補い・鼓舞する
・退黄:黄疸を除く
□ 肝の病態の基本薬物
・肝熱(≒興奮) → 黄岑・竜胆草
・肝気欝結 → 柴胡+芍薬 ・・・抑うつを改善
・肝血を補う→ 当帰+芍薬
・鎮肝熄風 → 牡蛎
・平肝熄風 → 天麻+釣藤鈎
・館員を補う→ 熟地黄
※ 肝系病証の病態生理
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□ 肝気欝結
(概念)
ストレスや気滞、邪による阻害のために肝の疏泄機能が阻害された状態。
(症状)抑うつ、イライラ、軽微な精神的刺激でしばしば激しい情緒的反応となる。肝経の気滞が引き起こされ、胸脇部や少腹部の膨満感や遊走性疼痛、胸苦しさ。
(所見)脈弦、胸脇苦満、舌偏から先の軽度の発赤。
(合併)
<要因>肝血虚、気滞
<波及>気滞、肝血虚、肝火上炎、肝気横逆
(治法)疏肝理気
(生薬)疏肝理気薬(柴胡、香附子、鬱金、呉茱萸)
+補肝血薬(芍薬、当帰)
+理気薬(陳皮、蘇葉、薄荷、枳実)
※ 肝気欝結
(病態)肝失疏泄(肝の疏泄機能を失う)
(病理)気機の疎通や拡散の機能が低下→ 気の循環が鬱滞
(症状)胸・脇・少腹部の脹痛
【四逆散】
(組成)柴胡5.0;芍薬4.0;枳実3.0;甘草2.0
(効能)疏肝理脾 解欝
(主治)肝気欝結 気滞中焦
(症状)抑うつ、イライラ、胸脇苦満、腹痛、下痢、脈弦
・・・反応性ストレス障害によく効く
□ 肝火上炎
(概念)
肝気欝結が化火して生じる。火は上炎しやすいため、主として上半身に明らかな熱症を生じる。火熱が血絡を傷ると、突然吐血や鼻出血を来すこともある。
(症状)激しい頭痛、顔面紅潮、目の充血、耳鳴、難聴、口苦、心煩、怒りっぽい。
(所見)舌紅、舌苔は黄で乾燥、脈弦数あるいは弦滑数
(合併)
<要因>肝気欝結
<波及>肝血虚、心火亢盛
(治法)清泄肝火
(生薬)竜胆草(リンドウの根:とっても苦い)、黄岑、山梔子
【竜胆瀉肝湯】
(組成)木通・地黄・当帰各5.0;沢瀉・車前子・黄芩各3.0;竜胆・梔子・甘草各1.5
(効能)清瀉肝火 清泄湿熱
(病態)肝胆実熱 下焦湿熱
※ 同系弁証名別と身体部位別症状との関係
(①)
□ 肝血虚
(概念)
下記の原因により肝の蔵する血が不足し肝が濡養できなくなった状況;
・邪正相争による血の消耗
・睡眠不足
・筋肉の過度な使用
・長期の肝気欝結
・出血
・腎精の不足
・長期の血瘀
・脾胃の異常による生成不足
(症状)眼精疲労、視力の減退、筋肉のこわばり、月経量の現象、爪の変形・もろくなる、耳鳴り、めまい。
(所見)舌淡、脈細やや弦
(合併)
<要因>肝気欝結、血虚、肝火、脾虚
<波及>肝気欝結、肝陰虚、血虚、心血虚、肝風内動
(治法)補血養肝
(生薬)当帰、芍薬、熟地黄、枸杞子(くこし)、何首烏(かしゅう)、阿膠
【四物湯】
(組成)当帰・川芎・芍薬・地黄各4.0
(効能)滋陰補血 喀血
(病態)陰血不足、血瘀
(症状)目がかすむ、髪がやせる、筋肉がこわばりつりやすい、浮遊感を主体としためまい、月経血量低下、月経痛、皮膚乾燥、皮膚萎黄
(所見)脈細、舌淡、舌下静脈細い
□ 肝陰虚
(概念)肝血虚の長期化、腎陰の不足、内火による肝陰の消耗、全身の陰虚の波及により生じる。
肝血虚に加えて、全身の陰虚内熱の症状が出現する。
(症状)肝血虚の症状+五心煩熱、潮熱、盗汗、頬部の鈍い紅潮、
(所見)舌紅裂紋
(合併)
(治法)滋陰養肝
(生薬)熟地黄、山茱萸、枸杞子、何首烏
□ 肝陽上亢
(概念)肝陰虚により肝陽の抑制が出来なくなった状態。
上半身の熱証と肝陰虚の症状が同時に出現する。
(症状)肝陰虚の症状+顔面紅潮、のぼせ、頭痛、動悸、精神的興奮、易怒、不眠、心煩
(所見)脈弦細数、舌紅で少津
(合併)
(治法)滋陰、平肝潜陽
(生薬)滋陰養肝の薬
+平肝薬(釣藤鈎、天麻、シツリツシ、芍薬)
+潜陽薬(牡蠣、石決明、篭甲、牛膝)
※ 同系弁証名別と身体部位別症状との関係
(①)
□ 肝風内動
(概念)
・肝気の過剰流動(肝陽化風)により生じる。
・肝気の抑制を行う?
・肝の陰血の不足により生じる場合(虚風内動、血虚生風)
・熱に煽られ風を生じる場合(熱極生風)
・鬱血した肝気が内動する場合
・脾虚に伴い相対的に肝風が生じることもある
(症状)肝風の症状:めまい、振戦、けいれん、筋肉のスパスム(例:眼輪筋けいれん)、突然の精神症状(例:歯ぎしり、くいしばり)、電撃痛
(合併)
<要因>肝血虚、肝陰虚、肝火、肝気欝結、脾虚
<波及>風痰
(治法)平肝熄風+背景の病態の改善
(生薬)平肝熄風薬(天麻、釣藤鈎、羚羊角:れいようかく、白檀蚕)
【抑肝散】
(組成)柴胡5.0;朮・茯苓各4.0;川芎・当帰・釣藤各3.0;甘草1.5
(症状)イライラ(怒りを我慢)、抑うつ、めまい、筋けいれん、突発的常道発作、くいしばり・歯ぎしり、電撃痛
(所見)胸脇苦満傾向、脈弦傾向
(効能)疏肝解欝 平肝熄風 理気健脾 養血活血
(主治)肝欝化風
★ 抑肝散と加味逍遥散の適応症状の違い;
(抑肝散)自罰的、がまんが怒りへ変わる
(加味逍遥散)他罰的、熱として発散
★ 精神症状における抑肝散と抑肝散陳皮半夏の使い分け;
陽性症状と陰性症状の有無で考える。
陽性症状のみ → 抑肝散
陽性症状+陰性症状→ 抑肝散加陳皮半夏
□ 肝気横逆
(概念)欝結した肝気が脾胃の機能を障害した状態。脾胃の運化の低下や気滞を引き起こす。
情調の障害やストレスにより変動する消化器症状となる。嘔吐・下痢・腹痛がしばしば見られる。
また、肝火が胃熱をしばしば起こす。
脾胃が虚すると相対的に肝気の横逆を生み、肝気欝結ようになる事もある。欝結した肝気が痰とともに咽喉部に停滞すると喉の閉塞感があるが、吞んでも吐いても消失しない(梅核気、咽中炙臠)。
□ 肝脾不和
(概念)肝気欝結が脾の運化に影響した病態。
1.疏泄不足が主;
(症状)抑うつ、イライラとともに食欲不振、胸脇部〜上腹部の疼痛
(所見)脈弦
(治法)疏肝健脾
2.疏泄過多が主;
(症状)腹鳴、腹痛、下痢などが精神的緊張とともに発症する。
(所見)脈弦
(治法)抑肝扶脾
【小柴胡湯】
(組成)柴胡6.0;半夏5.0;生姜4.0;黄芩・人参・大棗各3.0;甘草2.0
(効能)疏肝解欝 清肝熱 健脾化湿
(主治)肝鬱化熱 脾虚湿盛
(症状)イライラ、抑うつ、食欲不振、嘔気、腹痛、口苦、下痢、便秘
(所見)胸脇苦満、脈弦、舌苔白〜微黄
【桂枝加芍薬湯】
(組成)芍薬6.0;桂枝・生姜・大棗各4.0;甘草2.0
(効能)温通緩急
(病態)脾虚肝旺 裏寒急
(症状)引きつるような間欠的腹痛、下痢、喜按、喜温
□ 肝胃不和
1.肝火犯胃
(概念)肝気が欝結して化火となり胃を犯す。
(症状)胸脇部や上腹部の脹悶感や疼痛、胸やけ、ゲップ、悪心、嘔吐、煩躁
(所見)舌赤、脈弦数
(治法)泄肝和胃
(方剤)エキス剤では、黄連解毒湯2+呉茱萸湯1
★ 苦いビールが美味しい理由?
2.肝寒犯胃
(概念)患者によって抑圧された肝気が胃を犯す
(症状)上腹部痛(時に激しく痛む、あるいは下腹部から上攻する)、嘔吐があり、寒冷によって悪化する。
(所見)
(治法)安中散、呉茱萸湯
【呉茱萸湯】
(組成)呉茱萸湯:大棗・生姜各4.0;呉茱萸・人参各3.0
(効能)暖肝散寒 温中降逆 止嘔
(病態)胃寒 肝寒犯胃
(症状)
①上腹部の冷え、涎が多い、嘔気、冷えで増悪する胃の痛み、舌淡、水滑 脈弦
②激しい嘔吐、煩躁、頭頂と側頭部の頭痛、手足の冷え、脈弦無力
【安中散】
(組成)桂枝・延胡索・牡蛎各3.0;茴香・甘草・縮砂各2.0;良姜1.0
(効能)胃寒、肝寒犯胃
(病態)温中散寒、止痛、行気
(症状)刺し込むような上腹部痛、寒冷で増悪、温めると改善、嘔気、子宮の寒冷で増悪する痛み
□ 寒滞肝脈
(概念)寒邪が肝の経絡に侵入し肝経の気の流通が障害され、肝の疏泄も失調した病態。
(症状)肝経の支配走行領域の疼痛が主体で、少腹疼痛、陰部の疼痛なども含まれ、寒冷で悪化し、温めると軽減する。
(所見)脈沈弦、舌苔白
(治法)温肝散寒
(方剤)当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)
□ 肝経湿熱
(概念)内湿が化熱するか、外邪の湿熱が肝や肝の経絡に底流したもので、胆に及ぶこともある。
(症状)胸脇部の腸満や疼痛、腹満感、食欲不振、悪心、口苦などを呈する。湿と熱がどちらが勝るかで便秘又は下痢になる。胆に及ぶと黄疸が出現する。男性であれば陰部の湿疹、睾丸の腫脹・疼痛、女性では黄色帯下、外陰部のかゆみが出現することがある。
(所見)舌苔は黄膩
(治法)清泄肝経湿熱
(方剤)竜胆瀉肝湯、茵蔯蒿湯、茵蔯五苓散
【茵蔯蒿湯】
(組成)茵陳蒿4.0;梔子3.0;大黄1.0(適量)
(効能)清熱利湿 退黄
(病態)肝胆湿熱 黄疸
(症状)明るい黄疸、便秘、体のかゆみ、腹痛、
(所見)脈滑有力
□ 肝火凌心
(概念)肝火が心に影響を与え心身の安定が脅かされる
(症状)イライラ・焦燥感に加えて不安、動悸、興奮、不眠
(所見)脈弦数、舌先部赤
(治法)
(方剤)柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
【柴胡加竜骨牡蛎湯】
(組成)柴胡5.0;半夏4.0;茯苓・桂枝各3.0;黄芩・大棗・生姜・人参・竜骨・牡蛎各2.5;大黄1.0(適量)
(効能)疏肝解欝 清肝熱 重鎮安神
(主治)肝火凌心
(症状)イライラ、抑うつ、胸脇苦満、口苦、動悸、不安、便秘
(所見)脈弦、舌苔白〜微黄
★ かゆみの漢方
1.内風
①気滞 → 抑肝散 ・・・皮膚に何もないのにかゆいとき。中枢性止痒薬様。
②血陰不足→ 当帰飲子(86)・・・効果不十分の時は八味地黄丸(7)/六味丸(87)を併用
③熱 → 温清飲(57)、荊芥連翹湯(50)
2.湿熱 → 茵蔯五苓散、消風散(効果不十分なら越婢加朮湯併用)
※ 痒疹結節には桂枝茯苓丸加薏苡仁
加島雅之先生(熊本赤十字病院総合内科・総合診療科)
を聴講してきました。
日本漢方より、中医学の視点からのお話。
専門用語を羅列してどんどん進むので、理解が追いついていきませんでした。
後半の日本漢方と中医学の比較は興味深く聞けましたが・・・。
※ 前半「肝」の部分は、スライドをメモしても今ひとつピンとこないので、以下の二つの資料も参照しました;
①「臓腑学説・肝」(奈良上眞、大阪医療技術学園専門学校東洋医療技術教員養成学科講義ノート)
②「肝の弁証」(木本裕由紀)
*************<備忘録>**************
□ 五臓
(心)意識と循環を支える。
(肺)呼吸と気の生産、津液の散布を支える。
(脾)消化吸収を支え、気・津液を円滑に運行させる
(肝)気と血の流れる量・方向をコントロールすることで、感情・月経を支配する
(腎)根源的な生命力を蓄える場であり、全身の津液の代謝を調節。成長・老化、生殖、尿の産生を支配する。
□ 六腑
(胃)初期消化をする。消化管に下向きのベクトルを与える。
(小腸)必要な水分と栄養を脾の管轄下に吸収する。不要な水分は腎・膀胱に送る。
(胆)胆汁を蓄え、排泄。胆力をもたらす。
(大腸)大便を排泄させる。
(膀胱)尿を貯留と排泄。
(三焦)気・陽・津液の流通路。
□ 内邪
【瘀血】
主に血瘀を背景または脈外に血が出たために形成された病理産物。
血・気の流通を阻害する。
症状:
・疼痛(固定性の疼痛が多い)
・腫瘤の形成
・出血
・組織の変性・破壊
・精神症状(ヒステリーなど)
【痰飲】
津液が変性することで形成された病理産物。粘稠なものを“痰”、稀薄なものを“飲”という。
津液・気・血の流通を阻害する。
症状:
・疼痛:固定性で“おもだるい”疼痛が多い。
・肺にあると咳嗽・喀痰・呼吸困難
・胃にあると悪心・嘔吐、腹水・胸水、腫瘤
・心に入ると精神症状・意識障害、胸痛
【食積】(しょくせき)
消化管に長く停滞した食物。脾胃の処理能力を超えた食事のために生じる。
症状;
・上腹部がつかえて苦しい、食思不振、胸やけ、ゲップ、悪心、嘔吐、下痢など。
・舌苔は濁膩が多い。
(つぶやき)
瘀血の精神症状と痰飲の精神症状の違いと鑑別がわからない・・・。
□ 陰陽失調論
主に精気のバランスの崩れによる病態を論じる。
・陽(機能的存在):気・陽
・陰(物質的存在):血・津液
(つぶやき)
陽の中の陽ってなに?
□ “肝”の生理作用
・疏泄を主る:全身の気の流れをスムーズに調節する。
・蔵血を主る:血を貯蔵し全身の運行する血量を調節するとともに、血を涵養(=滋養)する。
※ 肝主疏泄(①)
(語意)①疏:疎通、②泄:発散
(概念)全身の気機の疎通・暢達を保持し、通(不滞)・散(不鬱)の作用。
(効能)肝主昇・主動・主散の生理学的特徴⇒全身の気機の調暢・血と津液循環の推動
※ (②)「疏泄」という言葉がはじめて使われたのは『黄帝内経素問』五常政大論篇の「土は疏泄し、蒼気達す」であり、それは「冬が終わって春になると堅く凍てついた大地が軟らかく弛み、春木の気(蒼気)が草木を生長させ枝や根をのびのびと伸ばす」ことを意味している。この軟らかく弛むさまを「疏泄」と表現したのである。
(つぶやき)
ここがいちばんわかりにくい。西洋医学の肝臓(代謝を主る)とは別物と考えるべし。「気の調節」と「血(主に月経?)の調節」という特殊な働き。
□ 肝の病証
・「肝気欝結」と「肝血虚」が基本
・肝の病証は「熱」の病態になりやすい。
・常に脾胃との関係を考える。
・肝の常見症状:イライラ・抑うつなどの情緒・感情の障害、気滞の症状、情志で変化(例:イライラで悪化)する症状、月経の異常
★ 肝と心の精神症状の違い:
(肝)情緒・感情 → 他人が理解可能
(心)意識・思考内容 → 他人が理解不能(精神疾患系)
□ 肝の治法
・疏肝:肝気の鬱血を除く
疏肝解欝:主に疏肝を気鬱に用い、精神作用を期待する
疏肝理気:主に疏肝により疼痛などの気滞の症状に用いる
・養肝:肝の陰血を補う
・平肝:肝気の高ぶりを主に肝血を補う・疏肝することで治療
・鎮肝:肝気の上行を鎮める
・瀉肝(清肝):肝の熱を除く
・暖肝:肝陽を補い・鼓舞する
・退黄:黄疸を除く
□ 肝の病態の基本薬物
・肝熱(≒興奮) → 黄岑・竜胆草
・肝気欝結 → 柴胡+芍薬 ・・・抑うつを改善
・肝血を補う→ 当帰+芍薬
・鎮肝熄風 → 牡蛎
・平肝熄風 → 天麻+釣藤鈎
・館員を補う→ 熟地黄
※ 肝系病証の病態生理
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□ 肝気欝結
(概念)
ストレスや気滞、邪による阻害のために肝の疏泄機能が阻害された状態。
(症状)抑うつ、イライラ、軽微な精神的刺激でしばしば激しい情緒的反応となる。肝経の気滞が引き起こされ、胸脇部や少腹部の膨満感や遊走性疼痛、胸苦しさ。
(所見)脈弦、胸脇苦満、舌偏から先の軽度の発赤。
(合併)
<要因>肝血虚、気滞
<波及>気滞、肝血虚、肝火上炎、肝気横逆
(治法)疏肝理気
(生薬)疏肝理気薬(柴胡、香附子、鬱金、呉茱萸)
+補肝血薬(芍薬、当帰)
+理気薬(陳皮、蘇葉、薄荷、枳実)
※ 肝気欝結
(病態)肝失疏泄(肝の疏泄機能を失う)
(病理)気機の疎通や拡散の機能が低下→ 気の循環が鬱滞
(症状)胸・脇・少腹部の脹痛
【四逆散】
(組成)柴胡5.0;芍薬4.0;枳実3.0;甘草2.0
(効能)疏肝理脾 解欝
(主治)肝気欝結 気滞中焦
(症状)抑うつ、イライラ、胸脇苦満、腹痛、下痢、脈弦
・・・反応性ストレス障害によく効く
□ 肝火上炎
(概念)
肝気欝結が化火して生じる。火は上炎しやすいため、主として上半身に明らかな熱症を生じる。火熱が血絡を傷ると、突然吐血や鼻出血を来すこともある。
(症状)激しい頭痛、顔面紅潮、目の充血、耳鳴、難聴、口苦、心煩、怒りっぽい。
(所見)舌紅、舌苔は黄で乾燥、脈弦数あるいは弦滑数
(合併)
<要因>肝気欝結
<波及>肝血虚、心火亢盛
(治法)清泄肝火
(生薬)竜胆草(リンドウの根:とっても苦い)、黄岑、山梔子
【竜胆瀉肝湯】
(組成)木通・地黄・当帰各5.0;沢瀉・車前子・黄芩各3.0;竜胆・梔子・甘草各1.5
(効能)清瀉肝火 清泄湿熱
(病態)肝胆実熱 下焦湿熱
※ 同系弁証名別と身体部位別症状との関係
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□ 肝血虚
(概念)
下記の原因により肝の蔵する血が不足し肝が濡養できなくなった状況;
・邪正相争による血の消耗
・睡眠不足
・筋肉の過度な使用
・長期の肝気欝結
・出血
・腎精の不足
・長期の血瘀
・脾胃の異常による生成不足
(症状)眼精疲労、視力の減退、筋肉のこわばり、月経量の現象、爪の変形・もろくなる、耳鳴り、めまい。
(所見)舌淡、脈細やや弦
(合併)
<要因>肝気欝結、血虚、肝火、脾虚
<波及>肝気欝結、肝陰虚、血虚、心血虚、肝風内動
(治法)補血養肝
(生薬)当帰、芍薬、熟地黄、枸杞子(くこし)、何首烏(かしゅう)、阿膠
【四物湯】
(組成)当帰・川芎・芍薬・地黄各4.0
(効能)滋陰補血 喀血
(病態)陰血不足、血瘀
(症状)目がかすむ、髪がやせる、筋肉がこわばりつりやすい、浮遊感を主体としためまい、月経血量低下、月経痛、皮膚乾燥、皮膚萎黄
(所見)脈細、舌淡、舌下静脈細い
□ 肝陰虚
(概念)肝血虚の長期化、腎陰の不足、内火による肝陰の消耗、全身の陰虚の波及により生じる。
肝血虚に加えて、全身の陰虚内熱の症状が出現する。
(症状)肝血虚の症状+五心煩熱、潮熱、盗汗、頬部の鈍い紅潮、
(所見)舌紅裂紋
(合併)
(治法)滋陰養肝
(生薬)熟地黄、山茱萸、枸杞子、何首烏
□ 肝陽上亢
(概念)肝陰虚により肝陽の抑制が出来なくなった状態。
上半身の熱証と肝陰虚の症状が同時に出現する。
(症状)肝陰虚の症状+顔面紅潮、のぼせ、頭痛、動悸、精神的興奮、易怒、不眠、心煩
(所見)脈弦細数、舌紅で少津
(合併)
(治法)滋陰、平肝潜陽
(生薬)滋陰養肝の薬
+平肝薬(釣藤鈎、天麻、シツリツシ、芍薬)
+潜陽薬(牡蠣、石決明、篭甲、牛膝)
※ 同系弁証名別と身体部位別症状との関係
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□ 肝風内動
(概念)
・肝気の過剰流動(肝陽化風)により生じる。
・肝気の抑制を行う?
・肝の陰血の不足により生じる場合(虚風内動、血虚生風)
・熱に煽られ風を生じる場合(熱極生風)
・鬱血した肝気が内動する場合
・脾虚に伴い相対的に肝風が生じることもある
(症状)肝風の症状:めまい、振戦、けいれん、筋肉のスパスム(例:眼輪筋けいれん)、突然の精神症状(例:歯ぎしり、くいしばり)、電撃痛
(合併)
<要因>肝血虚、肝陰虚、肝火、肝気欝結、脾虚
<波及>風痰
(治法)平肝熄風+背景の病態の改善
(生薬)平肝熄風薬(天麻、釣藤鈎、羚羊角:れいようかく、白檀蚕)
【抑肝散】
(組成)柴胡5.0;朮・茯苓各4.0;川芎・当帰・釣藤各3.0;甘草1.5
(症状)イライラ(怒りを我慢)、抑うつ、めまい、筋けいれん、突発的常道発作、くいしばり・歯ぎしり、電撃痛
(所見)胸脇苦満傾向、脈弦傾向
(効能)疏肝解欝 平肝熄風 理気健脾 養血活血
(主治)肝欝化風
★ 抑肝散と加味逍遥散の適応症状の違い;
(抑肝散)自罰的、がまんが怒りへ変わる
(加味逍遥散)他罰的、熱として発散
★ 精神症状における抑肝散と抑肝散陳皮半夏の使い分け;
陽性症状と陰性症状の有無で考える。
陽性症状のみ → 抑肝散
陽性症状+陰性症状→ 抑肝散加陳皮半夏
□ 肝気横逆
(概念)欝結した肝気が脾胃の機能を障害した状態。脾胃の運化の低下や気滞を引き起こす。
情調の障害やストレスにより変動する消化器症状となる。嘔吐・下痢・腹痛がしばしば見られる。
また、肝火が胃熱をしばしば起こす。
脾胃が虚すると相対的に肝気の横逆を生み、肝気欝結ようになる事もある。欝結した肝気が痰とともに咽喉部に停滞すると喉の閉塞感があるが、吞んでも吐いても消失しない(梅核気、咽中炙臠)。
□ 肝脾不和
(概念)肝気欝結が脾の運化に影響した病態。
1.疏泄不足が主;
(症状)抑うつ、イライラとともに食欲不振、胸脇部〜上腹部の疼痛
(所見)脈弦
(治法)疏肝健脾
2.疏泄過多が主;
(症状)腹鳴、腹痛、下痢などが精神的緊張とともに発症する。
(所見)脈弦
(治法)抑肝扶脾
【小柴胡湯】
(組成)柴胡6.0;半夏5.0;生姜4.0;黄芩・人参・大棗各3.0;甘草2.0
(効能)疏肝解欝 清肝熱 健脾化湿
(主治)肝鬱化熱 脾虚湿盛
(症状)イライラ、抑うつ、食欲不振、嘔気、腹痛、口苦、下痢、便秘
(所見)胸脇苦満、脈弦、舌苔白〜微黄
【桂枝加芍薬湯】
(組成)芍薬6.0;桂枝・生姜・大棗各4.0;甘草2.0
(効能)温通緩急
(病態)脾虚肝旺 裏寒急
(症状)引きつるような間欠的腹痛、下痢、喜按、喜温
□ 肝胃不和
1.肝火犯胃
(概念)肝気が欝結して化火となり胃を犯す。
(症状)胸脇部や上腹部の脹悶感や疼痛、胸やけ、ゲップ、悪心、嘔吐、煩躁
(所見)舌赤、脈弦数
(治法)泄肝和胃
(方剤)エキス剤では、黄連解毒湯2+呉茱萸湯1
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2.肝寒犯胃
(概念)患者によって抑圧された肝気が胃を犯す
(症状)上腹部痛(時に激しく痛む、あるいは下腹部から上攻する)、嘔吐があり、寒冷によって悪化する。
(所見)
(治法)安中散、呉茱萸湯
【呉茱萸湯】
(組成)呉茱萸湯:大棗・生姜各4.0;呉茱萸・人参各3.0
(効能)暖肝散寒 温中降逆 止嘔
(病態)胃寒 肝寒犯胃
(症状)
①上腹部の冷え、涎が多い、嘔気、冷えで増悪する胃の痛み、舌淡、水滑 脈弦
②激しい嘔吐、煩躁、頭頂と側頭部の頭痛、手足の冷え、脈弦無力
【安中散】
(組成)桂枝・延胡索・牡蛎各3.0;茴香・甘草・縮砂各2.0;良姜1.0
(効能)胃寒、肝寒犯胃
(病態)温中散寒、止痛、行気
(症状)刺し込むような上腹部痛、寒冷で増悪、温めると改善、嘔気、子宮の寒冷で増悪する痛み
□ 寒滞肝脈
(概念)寒邪が肝の経絡に侵入し肝経の気の流通が障害され、肝の疏泄も失調した病態。
(症状)肝経の支配走行領域の疼痛が主体で、少腹疼痛、陰部の疼痛なども含まれ、寒冷で悪化し、温めると軽減する。
(所見)脈沈弦、舌苔白
(治法)温肝散寒
(方剤)当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)
□ 肝経湿熱
(概念)内湿が化熱するか、外邪の湿熱が肝や肝の経絡に底流したもので、胆に及ぶこともある。
(症状)胸脇部の腸満や疼痛、腹満感、食欲不振、悪心、口苦などを呈する。湿と熱がどちらが勝るかで便秘又は下痢になる。胆に及ぶと黄疸が出現する。男性であれば陰部の湿疹、睾丸の腫脹・疼痛、女性では黄色帯下、外陰部のかゆみが出現することがある。
(所見)舌苔は黄膩
(治法)清泄肝経湿熱
(方剤)竜胆瀉肝湯、茵蔯蒿湯、茵蔯五苓散
【茵蔯蒿湯】
(組成)茵陳蒿4.0;梔子3.0;大黄1.0(適量)
(効能)清熱利湿 退黄
(病態)肝胆湿熱 黄疸
(症状)明るい黄疸、便秘、体のかゆみ、腹痛、
(所見)脈滑有力
□ 肝火凌心
(概念)肝火が心に影響を与え心身の安定が脅かされる
(症状)イライラ・焦燥感に加えて不安、動悸、興奮、不眠
(所見)脈弦数、舌先部赤
(治法)
(方剤)柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
【柴胡加竜骨牡蛎湯】
(組成)柴胡5.0;半夏4.0;茯苓・桂枝各3.0;黄芩・大棗・生姜・人参・竜骨・牡蛎各2.5;大黄1.0(適量)
(効能)疏肝解欝 清肝熱 重鎮安神
(主治)肝火凌心
(症状)イライラ、抑うつ、胸脇苦満、口苦、動悸、不安、便秘
(所見)脈弦、舌苔白〜微黄
★ かゆみの漢方
1.内風
①気滞 → 抑肝散 ・・・皮膚に何もないのにかゆいとき。中枢性止痒薬様。
②血陰不足→ 当帰飲子(86)・・・効果不十分の時は八味地黄丸(7)/六味丸(87)を併用
③熱 → 温清飲(57)、荊芥連翹湯(50)
2.湿熱 → 茵蔯五苓散、消風散(効果不十分なら越婢加朮湯併用)
※ 痒疹結節には桂枝茯苓丸加薏苡仁