小児漢方探求

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

大澤稔先生の講演を聴いてきました。

2015年09月11日 07時00分26秒 | 漢方
 昨夜、第195回東毛漢方研究会(於:太田ナウリゾートホテル)に参加してきました。
 講師は前橋赤十字病院産婦人科副部長の大澤稔先生で、テーマは「服薬アドヒアランスと女性のための漢方治療について」です。
 
 大澤先生は井齋偉矢先生が主催する「サイエンス漢方処方研究会」の理事を務め、「漢方用語を使わないで考える漢方処方」の提唱者の一人です。
 講演の中で虚実・気血水・六病位・陰陽五行説などの文言が一切出てくることなく、フローチャート式に症状を絞り込んで処方薬を決めていく手法であり、漢方初心者も理解しやすい内容だったと思います。イラストを多用したスライドは視覚的にもインパクトがありました。

 私は事前に大澤先生の近著を読んでいたので、より理解が深まりました。
 それにしても約1.5時間、時には聞き取りにくいほど早口でまくし立てるエネルギーには脱帽です。

 処方薬は婦人科が中心だったので、私が日々診療している小児科とは共通するところは少なかったのですが、服薬アドヒアランスの項目は参考になりました。

★★★ メモ ★★★
 自分自身のための備忘録。

■ 「大澤式」精神的不安定の分類;うつうつ・イライラ・ドキドキの3種類のみ

■ “うつうつ”している(抑うつ状態全般・元気がない)ときの漢方
・桂枝加竜骨牡蛎湯(26):効果は数日で実感
 → 食欲不振・胃もたれもあるときは+六君子湯(43)
・うつうつ+右季肋部の症状(痛み・苦しさ):香蘇散(70)・・・効果は数日で実感
 → 症状が強いときは+四逆散(35)・・・柴胡疎肝湯になる
 → 食事が誘因の時は+六君子湯(43)・・・香砂六君子湯になる
・うつうつ+喉の症状(閉塞感):半夏厚朴湯(16)

■ “イライラ”している(落ち着きがない)ときの漢方
・動悸が強い→ 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)・・・不眠の場合にも有効、効果は数日で実感
・抑圧された怒り→ 抑肝散(54)/抑肝散加陳皮半夏(83)・・・何かを我慢していることが多い、原因のよくわからない特定の身体症状が出ることがある、チックにも有効

■ 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)と桂枝加竜骨牡蛎湯(26)の使い分けは“虚実”ではない!
(12)(甘草なし)のキーワードは「イライラ」:神経性心悸亢進、ヒステリー・・・心の高ぶりを抑える
(26)(甘草含有)のキーワードは「うつうつ」:神経衰弱、性的神経衰弱・・・心の落ち込みを持ち上げる

■ ドキドキ(人前で緊張)の漢方
・甘麦大棗湯(72)が基本処方:効果は数日で実感、こみ上げてくる焦燥感(ドキドキ)を抑えてくれる
 → 抑うつ傾向あり(精神的に落ち込んでいる):+桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
 → ふらつき、立ちくらみ(起立性障害)、不安で生じる自律神経調節障害:+苓桂朮甘湯(39)
 → パニック・過呼吸など不安発作のひどい方(不安症)には、はじめから(72)+(39)
 ・・・効果は数日で実感、頓服なら30~60分で、また飲み続けると予期不安にも効果あり
※ 苓桂朮甘湯(39)は、単独でも2-3包/回で不安軽減効果あり

■ 不安・焦燥・頻尿が揃ったら清心蓮子飲(111)
 不安・焦燥感などのメンタル変動(自律神経失調状態)の強い人、神経質(不安症)で昼・夜の頻尿、尿意切迫感が出やすい人

■ めまい
・二つのめまい
1.回転性:脳がむくむタイプ・・・良性発作性頭位めまい症、前庭神経炎、メニエール病など
2.ふらつき:脳が酸素/栄養不足になるタイプ・・・椎骨・脳底動脈循環不全症、起立性障害、本態性低血圧など
・めまい発作(回転性)→ 五苓散・・・効果は30~60分で実感
・日常的なめまい
1.回転性→ 冷えあり→ 悪心・嘔吐(上部消化管)→ 半夏白朮天麻湯(37)
            下痢傾向(下部消化管)→ 真武湯(30)
     → 冷えなし→ 五苓散(17)・・・(37)(30)と併用可能

■ 不眠症
・寝つきが悪い(入眠障害)→ 気持ちの落ち込みあり→ 加味帰脾湯(137)、イヤな夢を見るときは+桂枝加竜骨牡蛎湯(26)
             → 気持ちの落ち込みなし→ 酸棗仁湯(103)
・早朝覚醒→ 釣藤散(47)・・・めまい・肩こり・耳鳴りなど、夜間高血圧・朝の頭痛に
・中途覚醒→ 音に敏感あり→ 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)・・・ドキドキして眠れない
       音に敏感なし→ 抑肝散(54)/抑肝散加陳皮半夏(83)・・・チックがあることが多い

■ 肩こり
・第一選択は葛根湯(1)・・・効果は30~60分で実感
・葛根湯(1)に手応えがないとき、胃腸虚弱があれば
 → 手足の冷えあり→ 呉茱萸湯
 → 手足の冷えなし→ 半夏瀉心湯
・精神的な面・ホットフラッシュからのアプローチ(葛根湯(1)との併用が多い)・・・すべて効果は1~数日で実感
 → のぼせあり→ イライラあり→ 桂枝茯苓丸(25)・・・身体症状が主(もどかしい)
               → 加味逍遥散(24)・・・心気的
 → のぼせなし→ 加味逍遥散(24)・・・愁訴が多彩で毎日強い、症状が異なる
        → 当帰芍薬散(23)・・・冷え、貧血気味、浮腫っぽい
・部位からのアプローチ ・・・効果は1~数日で実感
 → 肩全体から肩甲骨→ 冷え・軟便→ 柴胡桂枝乾姜湯(11)
           → お腹が張る/便秘→ 大柴胡湯(8)
           → 11か8に迷ったとき→ 四逆散(35)
 → 肩甲骨の間~背部痛に近い→ 抑肝散(54)/抑肝散加陳皮半夏(83)
<肩こりのポイント>
 まずは葛根湯(1)をベースに開始し、効果が乏しいとき、パワーアップ目的なら桂枝茯苓丸(25)、部位が首以外に及んでいるときは肩甲骨なら四逆散(35)、背筋なら抑肝散(54)
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