このところハマっている平野作品。
一冊目、ドーン。
近未来のアメリカを舞台に、有人火星探索、大統領選、アメリカの戦争介入、震災によって壊れた家族、これらが複雑に絡み合いながら物語が進み、徐々にその関連性をあらわにしながら物語は進みます。なんどもページをめくり直し、作者の仕掛けた伏線を探し直す作業は「決壊」を読む進めているときに似ていました。
文中に出てくる科学的なネタが今の時代に読んでみても先進的です。監視カメラの画像をネットワーク上で検索し顔認識を行う「散影」というシステムや、顔面をアドホックに整形できる「可塑整形」、死者のDNAから作り出した人格をAR(拡張現実)を利用して再現する、など、10年以上前に発行された本とは思えないほどリアルに描写されています。作者の豊富な科学的知識が伺えます。
ストーリーの中では、東京大震災によって子供を亡くしたことが佐野明日人を宇宙飛行士にするきっかけなのですが、この震災が、作品が書かれた後に起こった東日本大震災とオーバーラップ。また、大統領選は、争点こそ違えど、昨年のトランプ-バイデンの大統領選を想起させられます。
随所にみられる先見の明には、作者の非凡な才能を感じました。
文庫本化は2012年ですが、書きおろしの初出は2009年です。
本書は、作者の唱える分人思想についての言及が随所に現れる作品です。
2冊目は、かたちだけの愛。
読売新聞の連載を大幅に加筆修正して刊行された一冊。
作品紹介はこちら。
ドーンに比べてシンプルなストーリーで、心理描写も主人公のみに絞られているため読みやすい本になっています。主人公の相良郁哉が、自分の中にある愛情の他者への表現を見直すところが印象的でした。
これまで読んだ作品に比べ、ロマンス的な要素が強くなっていて、「マチネの終わりに」に通じる作品ではないかという気がしました。
本作も分人思想が見られますが、ドーンに比べて表現箇所は少ないです。それよりも、「葬送」のショパンや、「ドーン」の佐野明日人、「マチネの終わりに」の蒔野聡史、そして本作の相良郁哉には、すべて共通の分人要素(?)があるような思いに囚われます。映画でいうなら、すべて同じ俳優が演じているような感じです。
書誌情報はこちら。
もう少し平野作品を読み続けます。
p.s. 暴飲暴食してしまった...
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