このひと月ほど、ルイが変わりつつある。成長期なのだから変化は当然だが、この変化はありがたい。変わったのは「いたずら」が鳴りをひそめつつあるということだ。
以前だったら、履いているスリッパまで強引にかっぱらっていき、すばしこく逃げまわってなかなか取り押さえられなかった。どのスリッパも底がボロボロにされていた。そのスリッパを新調して半月になるが、いまのところ無傷のままだ。
あのころは、たとえば、スリッパを取り上げると、テーブルに前足をかけて新聞をくわえて走り去るといった狼藉のかぎりをつくしていた。ぼくたちは、ルイに「おまえの名前はワルイだ!」と叫んで追いまわしたものだった。ほんとうに悪い犬だった。ぼくは何度かんしゃくを起こしたかわからない。
それが、最近はいたずらを咎めるとすぐにくわえたものを放り出す。そして、いかにもバツの悪そうな顔でぼくを見る。それだけ成長したのだろう。以前のようにワンパクのかたまりのようなルイでなくなってきた。ただ、夜遅くの帰宅が続き、遊んでやっていないと元へ戻ってしまう。
今朝も、ソファーに座り、靴下をはいて、かたわらに置いた残りの片方へ手を伸ばすとそこにない。「あれ?」と思って見回すとテーブルの下で、靴下をくわえたルイがじっとぼくを見ている。
「返せ!」といっても放り出さずに逃げていく。このところ、二晩つづけて遅かったので、夜、遊んでやっていなかった。
夜の遊びといっても、部屋の中なのでとってもシンプルだ。ボールやら人形やら、数種類のおもちゃを投げてやると走っていって取ってくる。その単純な繰り返しである。ときどき、捕まえて片方の手のひらで目隠しをして、家具の陰などに投げてやる。たいていは、音だけで方角を見きわめ、探し出して持ってくる。
持ってきても引っ張りっこをするし、目隠しのときはかなり暴れるのをぼくが力まかせに押さえ込むから、部屋の中の遊びとはいえルイの消耗はかなりのものだ。30回もやるとバテバテになってすさまじい量の水を飲み、その場にへたり込んでしまう。
この二日間、遊びが足りていないから、朝、身支度しているぼくのとこころに「遊ぼうぜ!」とおもちゃを運んでくる。その日によってお気に入りのおもちゃが変わるというのがおもしろい。今日は綿の細引きで作ったボールの日だった。
< そして、相変わらず出かけようとするぼくを唸りながら追いかけてきてカバンを噛んで「おいらも行くぜ!」といわんばかりに引っ張る。だが、ぼくが靴を履いて玄関の扉を開いても飛び出そうとはせず、寂しそうに見送るだけだ。
そんな朝の騒ぎもそろそろ終わるのだろう。寂しいけどルイの成長と思って未練は捨てなくてはならない。